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2010.9.13
 
 

不毛なコレステロール議論…

 日本の栄養学者が、2010年9月、“ついに”「長寿のためのコレステロール ガイドライン」を発表した。
  → 日本脂質栄養学会 コレステロール ガイドライン策定委員会:
     「 長寿のための コレステロール ガイドライン 2010年版」(要旨)
 J. Lipid Nutr. Vol.19, No.2 (2010)

 ウエブでのセミナーも公開したり、精力的な活動を繰り広げていたが、ガイドラインの発表にまで歩を進めた訳である。
  → “脂質栄養WEBセミナー 第1回 コレステロール低下医療と脂質栄養の方向転換 ” 日本脂質栄養学会

 “ついに”と書いたのは、厚生労働省の推奨食生活は間違っていると指摘(1)したにもかかわらず、なしのつぶてなので、そこまで進めたとしか思えないからだ。
 “間違っている”と言われても、官僚組織はこうした問題に対応できる訳がない。本来ならここで政治家がどう動くべきか決めていかなけばならないが、対処方法かわからないのだろう。こまったものだが、残念ながら、そんなことができる政治家は稀なのが日本の現実のようである。

 政府の姿勢を書いたから、マスコミについても書いておく必要があろう。
 Googleのニュースリンクを見ると、読売新聞、毎日新聞、中日新聞しか登場していないようだ。余り取上げたくないといったところかも。
 日本の場合、ジャーナリストというより、政治家的な記者が多そうだから、医学・薬学界v.s.栄養学界的な報道に映るとまずいということで、まともにとりあげたくないのかも。これもこまったものである。
 愛媛新聞のコラム“地軸”を読んで、なんとなくそんな感じがしただけだが。(2)・・・
  “さあ、どうしたものか。一つの「健康信仰」が大きく揺らいだ。
     「コレステロールは体に悪い」という「常識」が▲”
  “原因別の死亡率を分析すると、心疾患以外では値が高い方が死亡率が下がる結果が出たとか。”
  “一部は「悪玉」と嫌われていたのに▲ ”
  “・・・とはいえ、危険性を訴える日本動脈硬化学会はじめ、専門家の意見は真っ二つ。
     結論は当面、出そうにない。”

 この話、新しいものではない。大規模疫学調査結果は約2年前に発表されたからだ、誰が見たところで、LDLコレステロールの高い方が長生きで、コレステロール値を下げすぎると死亡率が上がっているデータである。
 当然のことながら、栄養学者は次のような見方をした訳である。(3)
   ・善玉(HDL-C)・悪玉 (LDL-C) 説には根拠がない。
   ・動物性脂肪とコレステロールの摂取を減らすと心疾患、癌発祥の恐れがある。
   ・コレステロールや動物性脂肪摂取の多い方が脳卒中は発症しにくい。
   ・コレステロールを下げようと食事で努力しても効果はでない。

 これは日本動脈硬化学会ガイドライン(4)の考え方とは相容れない。そこで、2008年4月には、このガイドラインを公認している厚生労働省のホーム頁(5)に対して内容修正要請を出した訳である。

 当たり前だが、要請を認めれば、無駄に膨大な薬剤費用を支払ってきたことになるから、官僚組織は窮地に追い込まれる訳で、そんなことができる訳がないのは明らか。(6)
 しかし、反論もできないから、静かにしてマスコミが暴風雨を降らせないようにじっと我慢しているしか手はなかろう。

 実にお粗末。

 だいたい、動脈硬化性疾患予防ガイドラインにしても、米国の基準(7)はLDL Highは160-189なのに、日本の高LDLコレステロール血症は140mg/dl以上と差は小さなものではないし、今迄重要としていた数値が無くなったりするのだから、知見が増えたら、どんどん改定していけばよいだけのこと。変更に伴う他への影響を考えたりするからゴタつくのである。

 こんなことを書くと、必ず、お前はどう考えるのかと聞く人がいる。ご自分で考えたらとお答えするしかないが、素人の常識で考えれば、別に難しい話がでてきた訳ではない。
 単純に考えればよいだけのこと。
   ・血管壁の異常を、コレステロールが引き起こす訳ではない。
   ・異常は、古かったり質の悪い食品に含まれる問題成分が引き金となり発生。
   ・血管が弱くなっていれば、損傷は進み易い。
 しかし、一旦、血管に傷ができれば、話は変わる。
   ・高LDLコレステロールなら、血管壁にコレステロールが一気に溜まる。
   ・溜まったコレステロールは他の物質で変性・分解したりする。
   ・これが周囲の血管異常を引き起こし悪循環が発生する。

 従って、コレステロール値だけ議論しても駄目。
 傷をつけそうな物質の摂取を少なくし、その物質の攻撃力を弱めるような物質を沢山摂取する食事をとることも重要な筈。他のリスクファクターに問題がなく、そんなまともな食生活をしたため、LDLコレステロール値が高くなったならリスクは高まっていないかも知れない。しかし、そんな食生活とは無縁な人が高LDLコレステロール症状に陥っていたとしたら、これはどう見ても大いに危険と言わざるを得ない。それだけの話だろう。

 ただ、肥満、糖尿病予備軍、遺伝性に該当する人は、そんな単純な見方は避けるべきだろう。なにが起きてもおかしくないから、慎重に対処すげきである。これに該当しなくても、問題リスクファクターが多い人も同じことが言えよう。
 予防で重要なのは、まずはこうした仕訳だと思う。

 --- 参照 ---
(1) 脂質栄養関係医・薬・保健学者 十人委員会:
  “厚生労働省ホームページ掲載「生活習慣病を知ろう!」の内容修正に関する要請書” [2008年4月7日]
   http://www.kinjo-u.ac.jp/orc/document/yoseisho.pdf
(2) 「科学と信仰」愛媛新聞 [2010年09月05日]
   http://www.ehime-np.co.jp/rensai/chijiku/ren018201009058353.html
(3) 大櫛陽一,小林祥泰: 「日本人はLDL-Cの高い方が長生きする」 脂質栄養学, 18:21, 2009
   http://www.jstage.jst.go.jp/article/jln/18/1/21/_pdf/-char/ja/
(4) 日本動脈硬化学会: 「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」
   http://jas.umin.ac.jp/pdf/guideline_summary.pdf
(5) “脂質異常症は検査で発見”厚生労働省「生活習慣病を知ろう!」
   http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/kousi/inspection.html
(6) 大櫛陽一: 「特定健診で医療費が削減できるのか?」特定健診と医療費削減を考える[2008年10月2日]
   http://www.menopause-aging.org/reading/2008/2008vol7_2_03.pdf
(7) “Third Report of the Expert Panel on Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Cholesterol in Adults (Adult Treatment Panel III) ”
  National Heart, Lung, and Blood Institute http://www.nhlbi.nih.gov/guidelines/cholesterol/index.htm
   [要約版] http://www.nhlbi.nih.gov/guidelines/cholesterol/index.htm


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