■■■ 多摩動物公園の見所 2013.3.2 ■■■

   ツル

動物園話とくれば、普通は、人気者を取り上げる。にもかかわらず、珍しくもなさそうな「ツル」について書くと、奇異な感じを受ける方も多かろう。しかし、それには理由がある。最後までお読みいただけば、ご理解いただけるかも。

先ずは、名前について。
「ツル」とは全く関係無いが、「ムクの木」の話を書いていて、つくづく感じさせられたことがある。動植物の名前の由来というか、語源についての記載は全く当てにならないのだ。呆れ返るほどいい加減な説が、定説であるかのように書かれている。ご説明しておこう。

(1)椋鳥
「ムクの木」に群れ、「ムクの木」の実を好む鳥を「ムク鳥」と呼ぶという説明を見かけたからだ。書いてあればそのまま信じるタイプの人なら納得するのかも知れぬが、素人の常識では、全く逆である。椋鳥が矢鱈に集まる木だから「ムクの木」。
「ムク鳥」とは、どう考えても、「群来鳥」である。人々が集うような場所に、集団でやって来るのでそのような名前がついたのである。環境が適合してくれば、東京にも大量に住み着いておかしくない陸に住む小鳥である。

(2)千鳥
もう一つ鳥の名前について。水辺の「千鳥」。
千羽単位で群れる鳥という意味である。しかし、チドリの類として、鳥の名称化している。従って、現在、チドリと呼ぶ鳥と、昔の「千鳥」が同一とは限らないのは当たり前の話である。
そんなことは、都民なら常識かと思いきや、そうではない。そういえばおわかりだと思うが、伊勢物語に登場する「千鳥」とは東京都の鳥として選ばれたユリカモメであり、チドリではないのだ。ユリカモメとは、水面に大勢で浮かんでいるタイプ。おそらく、「入り江かもめ」ということ。一方、チドリの生活スタイルはまるで違う。砂や土の上を"千鳥足"で餌を探す手の鳥なのだ。丸頭で太い嘴の上にまん丸お目々だから、歩き方も含めて、愛嬌たっぷり。砂浜で見かければ、「濱千鳥」と呼ばれるのだろうが、水辺とは言いがたいような田圃にもやって来る。従って、群れ飛ぶ姿が印象的な千鳥というなら、先ず間違いなくチドリ。集団で到来するし、驚けば一斉に飛び立つからである。と言っても、現在、そんなシーンにお目にかかれる訳ではなく、想像にすぎないが。
多摩動物園には色々なチドリがいるが、意匠デザインが違うだけ。日本では、そんなものは細かな分類で、たいした話ではない。ちなみに、チドリ対抗の鳥はシギのようだ。こちらも意匠デザインは様々だが、見た瞬間わかる。嘴が矢鱈と細長いからだ。

(3)コウノトリ
さて、ようやく本命と行きたいところだが、類縁を寄り道。あくまでも、陸や水辺の小鳥が群れる様を見て、命名されたことを踏まえてコウノトリも考えてみたら、ということ。
と言うのは、一寸地ラベルと、昔は、コウノトリをツルと一緒くたにしていたりすると書いてあるから。一致半解だといわんばかり。間違えてはこまるが、こりゃ真逆。
わからないなら、多摩動物公園のウォークインバードゲージに行けばよい。ここなら、ニホンコウノトリとツル類を比べることができる。素人が見れば、コウノトリはどう見ても、ツルの一種。流石に、真っ黒なコウノトリである「ナベコウ」はツルとは呼びたくないが、まあ、違いと言えば、嘴が多少太い感じを受ける点と、体型がズングリというところ。もっとも、大切に育てられた個体なので肥満気味というだけかも知れぬが。
おわかりかな。「コウの鳥」とは、日本では、本来はツルなのである。中国名を使うようにするかということで「コウ」になっただけ。それは、「鸛」という漢字表記を見ればするわかる。伝わってきた文字を音で読み、その後、多少変化したにすぎまい。ちなみに、「ナベコウ」だが、小生は自信を持って、もともとは「黒コウの鳥」と呼ばれていたと推定する。
ちなみに、青山に長谷寺があるのだが、江戸期、ここにコウノトリが巣をつくっていたそうである。ツルもコウノトリも珍しい鳥ではなかったのである。このことは、松と鶴の絵に登場する鳥は、ツルではなくコウノトリの場合もあるというか、その可能性の方が高いということ。
そのコウノトリだが、多摩動物公園は兵庫のコウノトリの郷公園に次ぐ人工繁殖拠点なのだそうだ。繁殖ケージのなかには大勢育ってはいるが、大きな鳥であり、各地の鳥小屋に移って行くしかないのでは。多摩動物公園の高台の木々に中型のサギは結構とまっているが、ここにコウノトリというのは夢物語のような気がする。

(4)ツル
ここまで読んで頂けば、ツルの語源など自明。「連」である。
連なって空を覆うように飛ぶ大群を指すだけの話。もちろん、そのなかにはコウノトリも入る。
万葉集の「たづ」とは、歌言葉であって、「田」のツルという意味である。従って、コウノトリだけでなく、ハクチョウも含まれているかも。
さて、ここで話が終わりという訳ではない。日本で見られる、主要4種の名前をさらに眺めて、初めてツルという鳥の位置づけが見えてくるからだ。

(4A)丹頂(鶴) タンチョウ
多摩動物公園の入り口そばの、ソデグロヅル園にはタンチョウヅルが混ざっている。見れば誰でもすぐわかる。縁起者として、「紅冠」としたいところだが、アフリカには冠が頭に載っている種があるから「頭頂」とするしかないし、奈良の都は「丹」色だったから、まあ妥当なところ。

(4B)真鶴 マナヅル
どういう訳か知らぬが、真鶴をマナヅルと読ませる。地名は致し方ないが、鳥の名前としてはおかしな話。「真鰯」、「真鯖」でおわかりのように、マヅルである。
多摩動物公園の表示は流石。「真那鶴」と記載してある。そりゃそうである。「ナ」無しはこまるから。しかし、この漢字名は滅多に目にしないのではなかろうか。思うに、当たり障りのないようするにはこれしかなかろう。しかし、素人はそんな心配ご無用。正直に書いてしまおう。
そう、ご明察の通り、「真菜鶴」である。食用として最高の鶴はコレであるということ。おそらく、大切にされてきた鳥だが、それは貴人用食材だから。

(4C)鍋鶴 ナベツル
「真菜鶴」とくれば、肉質は落ちるが、結構いけるというのが、こちら。獲り易いということもありそう。しかし、ナベヅルなら狩猟OKとすれば、マナヅルも獲られかねないから、鳥であっても獲って食べるなとされていたと思われる。隠れた狩猟は少なくないとは思うが。
黒いコウノトリの「ナベコウ」とは、ナベツルに対応した命名だろう。
なんとも食い意地の張った命名の仕方である。

(4D)袖黒鶴 ソデグロツル
今や希少種なのでで、多摩動物公園で繁殖に懸命の努力が続いている種。いかにも、黒い羽が一部見えるように思ってしまうが、袖は畳まれてしまうので、実は体全体が白色の鶴である。たまに羽ばたくことがあるのだが、その時だけ、羽の先が真っ黒なのがわかる。
実に、西洋的な分析的見方の命名。ただ、「袖黒」という言葉で和風感を醸し出してはいるのだが。実は、黒い羽が一部見えるのは、丹頂なのである。多摩動物公園の解説はそのポイントをついている。タンチョウとは「袂黒」だというのである。

(4ABCD)日本のツル
上記4種と、コウノトリ、ナベコウが、日本の伝統的ツルということ。まあ、できればこれらを同居させて、拝見させて頂きたいものという気分、おわかりだろうか。前述したように、ウォークインバードゲージのツル園はそれに当たる。もっとも、自然の形で鳥との触れ合いをということで、そんな目的のものではないが。
それはそれとして、食材名が通用するようになったのは、おそらく廃仏方針が全国を駆け巡った頃だと思われる。これがなければ、違った名前になっていたと思われる。こんな風に、・・・。
 ・丹頂鶴:これは端から確定
 ・尾黒鶴:真菜鶴
 ・白色鶴:袖黒鶴
 ・頭白鶴 あるいは 灰色鶴:鍋鶴
実物を見れば、これしかありえない。断言できる。

さて、名前の話はここまでとして、動物園だから、色々な種類のツルを拝見させて頂けることになる。
となると、世界中のツルを見てみたいとなるかも。ツル好きならの話だが。小生はそこまでではないが。
調べてみると、世界には15種類のツルが生息しているらしい。
日本では、上記の4種が中心である。と言っても、多いのは、釧路湿原辺りに住み着いているタンチョウと、鹿児島出水平野の水田地帯に飛来するナベヅル。なんと、毎年9000羽余りもが飛来するそうだ。ここには、それ以外に、マナヅル約3000羽と、クロヅル、カナダヅル、ナベクロヅル、がそれぞれ数羽。まれだが、ソデグロヅル、アネハヅルが1〜2羽含まれたりするという。(出水市観光協会ツル情報)
黒鶴と命名されているが、その色は黒というより、薄い灰色。要するに、英語のCraneだ。ユーラシア全域に住んでいるといっても極東には稀な筈で、よく鹿児島まで来るもの。
もっとも、Canada鶴も、わざわざやって来たのだろうから、たいしたもの。北米は棲みづらいということか。
袖黒鶴は、前述したが、最大の越冬地の環境激変で種の持続懸念が生まれているそうだ。多摩動物公園はそれに対応する拠点らしい。
姉羽鶴など、棲んでいるのはチベット辺りだというではないか。当然ながら、そこは湿原ではなく草原。という話をすれば、あー、あの鶴かと映像を思い出す人も多かろう。そう、インドに避寒に行くのである。もちろん、7000mのヒマラヤ山脈を越えて。異端児か。

調べた訳ではないから間違っているかも知れないが、他に行くところもないから、数が多く見えるだけで、ナベヅルが9000羽程度しか来なくなったと見るべきだろう。おそらく、大陸ではまともな避寒地はなくなりつつある筈。それに、対外的には保護の姿勢を見せたところで、世間一般の実態からすれば、未だに食用として捕獲され続けているのが実情なのではなかろうか。井の頭自然文化園のナベヅルは静かにしているが、一般的には恐ろしく神経質な鳥と聞いたことがある。動物園で余り見れなくなっているのは、無闇に捕獲しないようになったこともあるが、そんなところも大きな原因と見ているのだが、どうなのだろうか。食べ物が飛来するのを待ち焦がれるヒトだらけの土地で暮らす以外に手がないから、人の姿を目見るだけで心臓が止まるほど恐ろしいのでは。
想像するに、今や、朝鮮半島休戦ラインで一休みして、山口か鹿児島出水平野に飛来する時だけしか心が休まる時は無いのだ。

ということで、様々なツルを見たいなら、鹿児島の平川動物公園訪問と決まっているようだ。なんと、11種。(括弧内の数字は平成22年度版資料の飼育数)
  タンチョウ(2)
  ナベヅル(記載なし)
  マナヅル(5)
  クロヅル(1)
  ソデグロヅル(2)[多摩動物公園の人工授精鳥(1)か。]
  アネハヅル(3)
  オオヅル(2)・・・アジア南部/オーストラリア北部
  オーストラリアヅル(おそらく国内飼育ゼロ)・・・オーストラリア/ニューギニア南
  オグロヅル(1)・・・インド/チベットの超高地
  ホオジロカンムリヅル(3)・・・アフリカ南部
  ハゴロモヅル(2)・・・スワジランド/ナミビア/南アフリカ共和国の草原
  ホオカザリヅル(2)・・・エチオピアからアフリカ南部
  ホオジロカンムリヅル(記載なし)・・・アフリカ南部[ウガンダ国鳥]
  カンムリヅル(記載なし)・・・アフリカ中央部/西部
  カナダヅル(1)
  アメリカシロヅル(おそらく国内飼育ゼロ)・・・北米

アフリカ系のツルは、派手な装飾がついており、日本のツル類とは見栄えが余りに違うし、結構そこここで見かけるので、一緒くたに眺めても特別な感興はおきないと言いたいところだが、どうもそうともいえない時代に突入したようである。
2012年10月のことだが、千葉県長南町にホオジロカンムリヅルが1年ほど住み着いているとTVニュースで報道されたそうだ。肝心の鶴君より、側の長福寿寺ご住職今井氏の鳴き真似が真に迫っていて評判だったらしいが、ビックリ。どこかで飼っていたのが逃げたということなのだろうが。

そうそう、多摩動物公園の特定のツルにしか適応しないかも知れぬが、見物人が余りいないと、ヒトを真正面から見る癖がついているツルがいる。見飽きると一本足になって知らん顔したり。暇つぶしがてらのんびり見ていないとわからないが。ところが、気に食わぬ輩が来たのか、突如離れていったりする。ヒト全般に興味がある訳ではなさそうで、好きなヒトと嫌いなヒトがいそう。野生を失いつつあるのかも。
そんな鳥として生きる道もアリと思うが、余計なことは言わぬが無難か。

(当サイト過去記載) 武蔵野に住む鳥に愛された木 (20121020)
(ANNの報道) 地元の人気者に!アフリカ由来の謎のツルが千葉に 2012.10.03 16:42



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