■■■ 多摩動物公園の見所 2013.3.9 ■■■

   ワライカワセミ

多摩動物公園の一番奥の山の頂上にワライカワセミのケージがある。木々が茂っていて、薄暗いせいもあるのか、訪れる人はいても、すぐに離れてしまうようだ。折角、カワセミ広場まで用意してくれているのだが、高台まで歩いて来ると疲れきってしまいそこで休憩という気分にならないのかも。
ここで、じっくりとご対面がお勧めなのだが。まあノリが悪いのは、網が厳重なせいもあって、親近感が生まれにくいこともあるかも。でも、少し時間がたてば目が慣れてしまう。
なにせ、くるりとした目で可愛い顔立ちだの鳥だ。愛されるタイプの筈。もっとも、顔に似合わず、マウスが餌であり、結構、獰猛。マウス好きの方だったりすると、ドジョウ以外の餌を見た瞬間血の気が引くかも。
カワセミと言えば、美しい色の小鳥というイメージだが、こちらは色は地味だし、ずいぶんと大きく、ずんぐりむっくり体型。もっとも、青羽と命名されている種もお隣に住んでいるので、翡翠色とまではいかないまでも多少は見せてもらえる。
そんなことより、この鳥の一大特徴は、見物人を全く恐れずにじっと見つめっぱなしの点だろう。なかなかの肝っ玉の持ち主ということ。お陰で、極めて観察し易い。従って、もう少し人気がでてもよさそうな気もするが、どうしてか盛り上がりに欠くようだ。

オーストラリアでは、シドニー2000オリンピックのマスコットに抜擢された位だから人気者なのだろう。・・・オフィシャルサイトによれば、"Olly", a kookaburra, epitomizes the Olympic spirit of generosity and universal generosity.なのだと。解釈の仕方は色々だが、好感度を保っている理由はそういうことではなかろう。どんな場所だろうが順応して生きる強さと、テリトリーを死守する姿勢、そして、毒蛇をも退治するマッチョ感が、彼の国では素晴らしいとされているのだと思うが。思うに、およそ絶滅危惧などありえそうにない鳥である。
本来なら、国をあげての祭典なのだから、マスコットは国鳥エミューたるべきと思うが、生憎と空を飛べないので落選の憂き目。
もっとも、昔からの「生物地理」的視点なら、ニューギニア/オーストラリアは一括りになるから、ワライカワセミやエミューではなく、極楽鳥か火喰鳥が代表として選ばれてもおかしくないのだが。

もっとも、人気の秘密は声という説もある。ありえそうな気もするが、録音を聞いた感じからすると、度が過ぎる大声であり、こんな声を始終聞かされたらたまったものではなかろう。滅多に聞けないからでの良さだろう。
小生も、一度、生で聞きたいと思うが、口笛を吹いたぐらいではなんの反応も示してくれない。夜明けと日暮れに激しく合唱する性分だそうだが、鳴く時間を決めている訳でもないだろうから、互いに連絡の必要がなければ黙って過ごすことにしているのではなかろうか。

そういえば、ワライカワセミの名前だが、Laughing Kingfisherではなく、上記のようにKookaburra。石垣島の準絶滅危惧種、リュウキュウアカショウビンの方言名「こっかーら」と瓜二つ。言うまでもないが、ショウビンとはカワセミの一種である。学問上というのでなく、見た瞬間それとわかる同一の体型。

アカショウビンが石垣島でどの程度棲んでいるのかは存じ上げないが、カワセミだとそれなりの環境が保たれている場所なら結構出会うものらしい。人影まばらな、三島の源兵衛川の遊歩道を歩いていたら、突如巨大レンズ装着カメラの放列の場所があったので驚いたことがある。こんなことがなければ気付かなかったのだが、お蔭で、小生もカワセミ君の魚獲り芸を見せて頂いた。食事の場所と時間を決めている律儀なタイプもいるらしい。

多摩動物公園では鳥のゲージの入り口に、カイツブリ君と同居して、止まり木でじっと水面を見ているカワセミ君を見ることができる。お姿をじっくりと眺めるには便利なスポットである。だが、やはりカワセミ君にお合いするなら屋外の自然の風景のなかでが最高。多摩動物公園はその点では特筆もの。清流とは呼び難い水辺にもかかわらず、カワセミ君が食事にやってくるのだ。展示でどんな鳥かじっくりと観察したら、その後、外で自然観察できる仕組みなのである。実に優れた企画と言えよう。
そんな姿をしばし眺めていると、ワライカワセミ君の体の巨大さに今更ながら感服させられたりして。
しかしながら、どうしても小さいカワセミ君の色の美しさの方に惹かれてしまう。日本には、オウムやインコといったカラフルな鳥がいないから、ダントツの美しさということでもあろう。古くから「翠」という文字を用いていたところを見ても、その羽を愛でていたのは間違いないところ。その魚獲りの見事さにも拍手喝采だったと思われる。
  --- 古事記から ---
    <ヤチホコの神(大國主の命)の歌物語>
  蘇邇杼理能(そにどりの) 阿遠岐美祁斯遠(あおきみけしを)
  麻都夫佐邇(まつふさに) 登理與曾比(とりよそひ)
  淤岐都登理(おきつとり) 牟那美流登岐(むなみるとき)
  波多多芸母(はたたぎも) 許母布佐波受(こもふさわず)
      翡翠色の青い御衣服を
      十分に身につけて、
      水鳥のように胸を見る時、
      羽敲きも似合わしくない、 [武田祐吉訳]
    <天若日子の喪>
  ガン:死人の食物を持つ役
  サギ:箒(ほうき)を持つ役
  カワセミ:御料理人[翠鳥爲御食人]
  スズメ:碓を舂く女
  キジ:泣く役の女
ただ、名称のカワセミと漢字表記の「翡翠」とは直接繋がらないようで、上記のように「そに鳥」とされている。普通に考えれば、「山セミ」対応で「川セミ」としただけだろうから、「せみ鳥」ということになる。まさか、「蝉鳥」ということはなかろうし、「かわ」が頭について「そに」から「せみ」に音韻変化したというところか。なんとなく無理を感じないでもない理屈だが。中国語では翠鸟だから、当て字を使うのもありの筈。もちろん蝉では気分が出ないから、河瀬見にしてくれれば情緒感たっぷりだと思うのだが。
オーストラリアのワライカワセミ君と日本のカワセミ君を続けて眺めると、ついそんな感傷に浸ってしまう。

(当サイト過去記載)
石垣島のウリ[2006年7月12日]
漢語講座16 山鳥[2010年9月1日]


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