■■■ 多摩動物公園の見所 2013.3.29 ■■■

   ハタネズミ

野生の鼠はほとんどの場合農林業に対する害獣。一方、都会に住み着いているのは嫌われ者のドブネズミ/Common ratとクマネズミ/House rat。どちらにしても駆除の対象。
従って、人々に親しんでもらいたい鼠と言えば、アルビノ(白化)がペット化しているハツカネズミ/Common House mouseということになろうか。しかし、「動物園」としては、その手の安直なネズミ展示でお茶を濁すようなことはしたくなかろう。と言って、展示に力を入れ、害獣に人気がでたりするのも厄介極まる。農林業界とのひと悶着必至だからだ。
だが、来園者に種の多様性維持の意義をじっくりと考えてもらうつもりなら、その位は覚悟の上で、"日本棲息害獣"たる鼠達を見せて欲しいもの。その場合、世界に広く分布している野生種と、日本固有種をわかり易く展示してくれると有難い。
ポイントはなんといってもカヤネズミ展示。
小生は、多摩動物公園で初めて見たが、ドブネズミ的イメージとはおよそかけ離れており、清潔好きそうで可愛いらしい小動物である。白鼠と違って、薄茶色なので温かみを感じるせいもあろう。草の茎の中程に枯れ草で自分で寝床を作って、日中はそこで丸くなって過ごしているようだ。
○カヤネズミ/Harvest mouse
  食性:イネ科植物の種子/草の実、昆虫
  分布:広範囲(欧州〜日本)
  国内棲息地:畑/水田、沼沢地、河川敷
  特徴:小型、カヤで巣作り
日本固有種は、このグローバル化している種とどのように競合しているのか知りたいもの。と言っても、畑や林辺りに住むといっても環境条件は多種多様だから、専門家でもよくわからぬというのが実情かも。それこそ、当たるも八卦的な仮説でもよいから、日本固有種の位置付けのヒントになりそうな情報が欲しい。切欠を作ってもらいさえすれば、後は、色々と思い巡らすことができるからである。

さて、その固有種だが、以下の2種類が代表的と見てよいのではなかろうか。動物園サイトの解説によれば以下のような感じ。
○アカネズミ/Large Japanese field mouse
  食性:種子、昆虫 (根茎、果物)
  分布:日本固有種-夜行性
  国内棲息地:森林、(河川敷)
  特徴:長距離移動能力
○ヒメネズミ/Small Japanese field mouse
  食性:種子、昆虫 (根茎、果物)
  分布:日本固有種
  国内棲息地:森林-半樹上生活
  特徴:敏捷な木登り(長い尾でバランス)
どちらも同じようなケージで飼われており、石に囲われた場所で丸くなって寝ている姿はなんらかわらない。英名から見て、体躯が大型と小型というだけの話なのだろう。
実は、これだけでは、えらくつまらぬ展示。もう1種ハタネズミが追加されているので、俄然面白くなるのである。(ご注意:動物園のウエブには上野だけの展示との表記)
アカ、ヒメ[mouse]と似たような環境設定のケージだが、ハタ君[vole]には、石囲いではなく、中空になった枯れ木がお休み処として用意されている。おそらく、多少は生態が違うということでの気遣いなのだろう。
○ハタネズミ/Japanese grass vole
  食性:イネ科/キク科の草
  分布:本州、九州、佐渡、能登島(日本固有種)
  国内棲息地:低地から高山帯まで草原的な環境
  特徴:小型、ときに大発生
このデータをよく見て欲しい。ビックリものだが、おわかりだろうか。ハタ君は日本津々浦々に住み着いている訳ではないのである。驚くことに四国にはいないのである。しかも、わざわざ、佐渡や能登"島"と記載してあるのだから、離島にも存在しないことを意味していそう。一体、これはどういうこと。
橋でもできれば、すかさず移住を開始するアカネズミ君とは大違い。同一地域で見かけるとはいっても、棲むところや生活スタイルが微妙に違うのではなかろうか。
おっと、忘れるところだった。もう一つ日本固有種が展示されているのだ。鼠は都合5種ということになる。網羅的ではないが、本土の主要鼠はすべて揃っていることになる。
○スミスネズミ/Smith's Red-backed Vole
  この種はヤチネズミ/Japanese Red-backed Voleと同一と見てもよさそう。

ついでながら、都立動物園では飼っていないようだが、もう1種あってもよさそう。もっとも、冷涼な地域の谷地に住む鼠のようだから、夏の暑さには弱そう。無理して飼うほどのこともないか。
○エゾヤチネズミ
  食性:繊維質の草(イネ科/カヤツリグサ科) 、冬季は樹皮や種子
  分布:シベリア〜朝鮮半島北部棲息のタイリクヤチネズミ亜種
  国内棲息地:北海道、利尻島、礼文島、大黒島、天売島、焼尻島
  特徴:数年おきに爆発的繁殖、冬眠せず
逆に、寒さに耐えられそうにない種もありそう。と言うことで、探してみると居る居る。ただ、原生林に住んでいて、夜行性の雑食タイプだから、上記のイネ科の草好き鼠とはかなり生態が異なるようだ。極めて特殊な種らしい。
○オキナワトゲネズミ/Ryukyu spiny rat:沖縄本島固有亜種
○アマミトゲネズミ:奄美大島固有亜種
○トクノシマトゲネズミ:徳之島固有亜種

ついでながら、トガリネズミ/Shrewにも触れておこう。こちらは、鼠顔ではない。鼻先が尖っていて、いかにもモグラ顔。名前が紛らわしいが、ネズミとはなんの関係もないのだ。と言うことを、実は多摩動物公園「モグラのいえ」で知った。ここには、真性のモグラ3種類と、4種類もの尖鼠が住んでいるというだ。凄すぎ。ネズミ名のモグラ君は、チビトガリネズミ(亜種名トウキョウトガリネズミ)、オオアシトガリネズミ、ジネズミ/White-toothed shrew、カワネズミ/Water shrewだそうである。尚、トウキョウトガリネズミは哺乳類の中で最も小型の種の1つだという。
他にどんな連中がいるのか調べてみたら、奇妙な分布状況の種もいるようだ。どのように他地域に移動するのか、気になるところ。トンネルを掘る訳もないだろうし、どうやって峠を越えていくのか気にかかる。ネズミなら、ヒトの荷物に隠れて旅行もありそうだが、モグラがそんなことができるのだろうか。
○アズミトガリネズミ:ハイマツ帯の固有亜種
  飛騨山脈中部以南、木曽山脈、赤石山脈、奥秩父、志賀山
尚、北には、草原や湿原で落葉/腐葉土が溜まる地域に棲む鼠がいる。ミミズが主食とか。
○オオアシトガリネズミ
  北海道、礼文島、利尻島、天売島、焼尻島、大黒島、国後島、色丹島、サハリン、沿海州

こうして眺めてみると、どうしてそんな分布になっているのか、色々と考えさせられる。
国外に目を向けると、さらに気になる点が出てくる。
ミズハタネズミ/Water voleは、ハタネズミの系統だが、北回帰線以北で、グローバルに生き抜いている種。
おそらく、この一大勢力に対抗してきたのが日本土着のアカネズミ一家。なんとなくニホンリス的な存在である。(但し、似ていると言うと失礼か。ニホンリスは北海道にはいないし、今や、タイワンリスに追い詰められており、対抗する力はなさそう。)
そうそう、北のサハリンや沿海州には、ハントウアカネズミが存在する。サハリンと北海道は、その亜種のカラフトアカネズミ 。一方、南には、台湾にタイワンモリアカネズミ。ところが先島には来ていない。ただ、宮古島に東南アジアのナンヨウネズミが棲息していたとの報告があるらしい。たまたま持ち込まれたということかも。
南島といえば、上記のトゲネズミだが、水深が深いトカラ海峡が障壁(渡瀬線)となって、本土側の列島とは種の分布が大きく異なる訳だ。ここだけは、義務教育のテキストの知識が通用する。

(東京ズーネット ニュース) モグラのいえの住人たち 2011/01/21 
(トゲネズミについて) 「似て非なる3つの島のネズミたち トゲネズミ」 http://www.biodic.go.jp/reports2/parts/5th/5_gdiv/5_gdiv_03.pdf
(分布パターンの論文) MIKE DOBSON: "Patterns of distribution in Japanese land mammals" Mammal Review Volume 24, Issue 3, pages 91-111, September 1994

 多摩動物公園の見所−INDEX >>>    HOME>>>
 (C) 2013 RandDManagement.com