■■■ 多摩動物公園の見所 2013.3.30 ■■■

   アムールトラ

多摩動物公園の虎は、沿海州のアムール川辺りのタイガ地域対応亜種。かつては、シベリアは一面樹林で覆われており、数多くの虎が棲んでいた訳だが、今や様変わり。それこそ加藤清正の時代は、シベリアの虎は朝鮮半島にまで勢力を伸ばし、新たな亜種を形成していた位だったのに。現在は、限られた森のなかで、細々と少数がどうやら命をつないでいる状況と見て間違いなさそう。主食の野生鹿が激減しており、苦しい食生活を送っているのだろう。熊との餌競争では、どう見ても劣位だから、絶滅への道をひた走り状態と言えよう。
虎といえば、なんとなく南のイメージがあるのは、お釈迦様の捨て身話があるからで、本来は北の動物に違いない。おそらく出自はシベリア。なにせ、立派な毛皮とぶ厚い脂肪をかかえこんでいるのだから。ついにその地でも、根城を失いつつある。
苦労して南の気候に対応して、ずいぶんと発展した動物だが、そちらの棲み処もなくなってしまったから、もうどうにもなるまい。言うまでもないが、照葉樹林帯のこと。

残念なことに、中国南部の照葉樹林帯の通称アモイトラの状況はシベリアより酷い。今更、トラの保護区を作って復活を狙ってももう無理ではないか。なにせ、「虎骨」表示商品の全面禁止に踏み切る気が無い社会なのだから。
もともと、照葉樹林帯は虎の大好物である猪の生息密度が高い筈である。部分的伐採の程度で収めていたなら、それは暗い森に明るい草地が生まれることを意味し、動物にとっては大歓迎の動き。中国南部はそんな環境が長く続いていたと思われる。小生は、虎の生息数では、この地域が圧倒的だった時代があったと見ている。

無闇に手をつけたりしない森がそここに存在していたということ。それこそが伝統の南部中国文化だった筈。従って、人々が虎を守ろうという気になっていれば、絶滅回避もあり得たろう。(小生は、古代から連綿と続く、照葉樹林帯の高床式住居とは鼠対策設計を意味しているのではなく、虎防御策と見ている。虎が出没している水辺を避けているし。)
しかし、その方向に進まず、絶滅と相成ったのは、人民解放軍が事実上の絶滅方針を打ち出したからだと思う。森が減って餌が欠乏してくれば、虎が人家域に出没するのは当たり前。それが酷くなってきたため、森を守るか、虎の絶滅に動くかの二択に迫られ、後者を選んだというだけのこと。ただ、普通はそれはミクロでの動きだから、変化は徐々に進むものだが、中国は一気に行ったのである。
人民解放軍が支配貫徹の最良のイベントとして、虎退治にとびついたからだ。貧農層を基盤とする人民解放軍とは、国軍ではなく、自立経済集団。「虎骨」と毛皮で懐が潤うこともあり、この地域では最優先化されたに違いないのである。おそらく、とんでもない数の虎が短期間に殺された筈。
虎絶滅策に大反対の人々も少なくなかったろうが、そんな輩は道教布教者とされ弾圧必定。軍事独裁国家で、そんな声をあげる奇特な人もいないから、まさに一気に絶滅させられたのである。・・・猫族は、普段は一頭で縄張りを持って単独生活する習性があるし、雌は雄を選り好みする。頭数を大きく減らされてしまうと、繁殖の出会いが極端に減り、後は階段を転げ落ちるように、絶滅という奈落の底に落ちるだけ。

餌密度が一番高そうな照葉樹林帯の虎が絶滅する位だから、広大な縄張り面積が必要な他地域の虎が生き残れたらほとんど奇跡と考えてよいだろう。
カスピ海/アラル海周辺から中央アジア山岳地帯にかけての広大な地域に棲んでいた虎(おそらくペルシアの虎)、ロプヌール湖辺りの虎、インドネシア島嶼のジャワ島・バリ島の虎の絶滅は避けようがなかったと見てよかろう。この周辺では、マレー半島やスマトラ島のまだ開けていない西側には僅かな頭数が残っているとされるが、多分、絶滅状態一歩手前。
現時点でかなりの頭数が生息していると言われているインド/ネパールやインドシナ半島も、実情はかなり悪い筈である。保護活動も行われてはいるものの、すでに森が細分化されてしまっている以上、種の維持ができる状態とは言い難いからである。しかも、ここらの国々では人口圧力が高まっているから、森の縮小は避けられない。虎保護のために、経済開発から取り残された地域をそのまま放置することも困難だから、その流れを抑えるのも無理。
だいたい、虎が、象や水牛といったハイリスクな動物を襲う話がでている地域だ。生存の基盤たる餌に不自由しているから、そんなことが発生する訳であり、生存基盤が瓦解し始めた兆候と見てよいだろう。

要するに、種を維持するには、すでに動物園繁殖しか希望がもてないということ。アムールトラで早くその体制を構築して欲しいもの。「野生では約500頭しか生息しておらず」とされているが、タイガの面積は日々減少しており、虎骨狙いの業者がいない訳もなく、そんな数字はあてにすべきではない。国内飼育頭数は24園59頭(2011年12月末データ)らしいが、進展はどんな状態なのだろうか。
多摩動物公園からも、浜松市動物園に繁殖のため入ビクトル君(15歳)が移動。残念ながら亡くなってしまったが、まあ普通に考えれば大往生である。日本在住のアムール虎社会も、ヒトと同じ老人社会なのだ。子供の誕生の影で、逝去が続いているのが現実。以下を眺めれば実感できるのではなかろうか。
 誕生
 2010年7月2頭(日本平)
 2010年6月3頭(京都市)
 2010年7月3頭(多摩)
 2011年4月4頭(安佐)
 受入
 2011年4月1頭(茶臼山 from カザフスタン)
 死亡
 2009年6月♂、8月♂、12月♀
 2010年5月♂、9月♂、10月♂、♂、12月♂
 2011年11月♀
 2012年2月♀、4月♀、9月♂


そんな目で、多摩動物公園のシスカ親子を眺めると、狭い場所ではあるがそれなりの幸せを感じながら生活しているのではないかという気がする。身勝手な想像ではあるが、いかにも猫族らしい仕草で、遊んだり、寛いだりして一日を過ごしていそうだから、そう間違っている訳でもなかろう。野生にこだわり、絶滅の美学に陥ることだけは避けて欲しいもの。
前の道を何回か歩いたりしていると、気になるとみえ、3匹揃って視線を浴びせてくるところを見ると、すでに観客にも慣れているご様子。この手の環境もそう悪いものでもなかろう。ただ、一般に、猫族は矢鱈遊び好き。玩具が不足していそうなのが多少気懸かりではある。

(参照)
アムールトラのビクトルが亡くなりました 浜松市動物園情報サイト わくわく!はまZOO 2012年9月
アムールトラねっと-アムールトラのいる動物園 FoE Japan



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