■■■ 多摩動物公園の見所 2013.4.6 ■■■

   ヤマネ

多摩動物公園では、1987年にヤマネの繁殖に成功していることを知った。ヤマネの生態については第一人者が揃っていると考えてよかろう。

だが、そんなことを知らなくたって、展示は圧巻そのもの。なにせ、そこには丸くなって冬眠している姿があるのだ。これは凄いことだゼ。
なにせ、ヤマネの一番の特徴とは冬眠できることだし。熊と比べると矢鱈に期間が長いようで、名称として山鼠より冬眠鼠の方がよさそうな位だ。冬眠環境設定や脂肪蓄積のような準備はあっさりとしたもののようだから、変温動物たる爬虫類の特性を抱えていると見なしてもよさそう。突然寒くなれば、即座に冬眠という離れ業ができるのでは。その能力のお陰で、古代から生き抜いてきた種なのだろう。

そんなヤマネの姿を表の道路から眺めることができる展示になっているのも驚き。
ヤマネは夜行性とされており、大きい目がいかにもそんな風情を醸し出している。にもかかわらず、昼行性動物と同じような展示をしようとは、普通なら考えまい。保護預かりで、じっくりとお付き合いして、その体質を見抜いたのだろうか。
ともあれ、そのお陰で滅多にみられないヤマネ君を眺めることができるのである。暖かくなり、冬眠から覚めれば、夕方近くに活発に動いている姿がある筈。
ともあれ、夜の生態を見せるとか、いかにも類縁そうに見えるリス科の動物と一緒に展示するというような展示ではないところが秀逸。それに、ウサギ/ネズミの長屋舎住まいであるのも素晴らしい。頭だけで考えれば、リス科夜行性小動物のムササビの飼育ケージの傍にしたりしそう。そんなことをすると、ヤマネ君の価値は落ちてしまう。同じような環境で住んでいそうなのは、どう考えてもヒメネズミであり、この長屋に住まわせるべき動物なのである。

そうそう、"鋭い"説明が掲示されている。
 すみか:成熟した森林
 食べ物:昆虫、果実、小鳥の卵
イイネー、"成熟した森林"という表現。イメージが湧いてくるではないか。小さな体が入るような洞を持つ木々が必要ということか。と言うことは、一面の植林など、ヤマネ君にとっては砂漠同様な訳だ。でも、全国どこでも、そんな地域だらけ。絶滅危惧種化して当たり前か。
食べ物と一緒に考えるとさらに悩ましい問題がありそう。針葉樹が多かったり、一面の落葉樹林だったりすると飢え死にしかねないことを意味しそう。様々な木々が混交していて、蝶や蛾が生きていけそうな下草が生えている林は、今時、そうそうあるものではない。

この手の常識的感覚が重要だと思うが、これがなかなかできないのである。
ニホンリスを武蔵野の林に放そうという話など典型例。上記のような表現で書き直せば、"ちぎれちぎれなドングリ林"。これならイメージが湧いてこよう。ニホンリスがタイワンリスに駆逐されていることを思えば、この手の林への自然復帰は無理筋だとすぐに気付く筈である。・・・
鎌倉でタイワンリスを眺めればすぐわかるが、樹上生活者とされていても、地面は当然として、手摺や屋根と、どこでも勝手に動き回る。同じ樹上生活者のニホンリスだが、こちらは姿を見ることが難しい。警戒心が強いとされるが、要するに地面に降りないということ。ケージ内に閉じ込めれば、そりゃ降りるしかないが、普通は樹木から樹木へと、高いところで跳び移っているに違いないのである。"ちぎれちぎれな林"はそうした移動は困難であり、棲み処としては不適。実際、高尾山周辺の開発で分断された森からリスが消えたというのは、相当昔から知られていた現象である。
さらにもう一歩踏み込んで考える必要があろう。それほどまでして移動しなければならない事情は何かという点だ。常識的には、どこにでもある"ドングリ"を主体とした食生活では、生きていけないので、広範囲な根城が不可欠ということ。

話がとんでしまったが、ヤマネ君に戻ろうか。
成熟した森林は余りにも少ない。そうなると、暗澹たる将来という結論になってしまうが、多摩動物園での棲み家を眺めているとそんなこともないのではという気がしてくる。
樹木の洞やそこに持ち込むべきクッション材などなくても、平然と寝ることができるお気軽さがあるなら、なんとかなるのでは。板の数cmの隙間でも冬眠できるのだから、人家内や、人工巣箱住まいで大いに満足してくれるのは間違いなかろう。
天敵は、タヌキ、タカ、ヘビだと思われるが、こちらの生息数減少はヤマネ以上だろうから、それが問題となることはなかろう。タヌキは脱森林・都会住民化を目指しているようだし。
生活域で餌を巡ってかち合うのは、堅果を主食とするリス系ではなくネズミ系で、多摩動物公園でもすぐ隣に住んでいるヒメネズミだろう。食の棲み分けができれば、共存ということになるのでは。
・・・このように考えると、自然混交林的な雰囲気を残した広大な土地にポツポツと家があるような環境で、人が手を貸して生き残れるようにすればなんとかなりそうな気がする。それは歓迎すべき手段とは言い難いが、理想を言っていれば遠からず種の絶滅間違いなしだから、それよりはずっとましだろう。
・・・といったところまで、展示を眺めていて、考えさせられてしまったのである。

(東京ズーネット ニュース) 冬眠から覚めたヤマネ 2011/05/21


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