■■■ 多摩動物公園の見所 2013.5.14 ■■■

   ハキリアリ

多摩動物公園の昆虫園は、敢えて嫌われ者のゴキブリを展示したりと、自己主張を感じさせる点で好感がもてる。哺乳類の見世物たる"動物園"の一部にしておくのがもったいない。

「昆虫の観察」と言えば、昆虫好きでなくても、たいていの人はファーブル昆虫記のどこか一部を思い出すのではなかろうか。フンコロガシは結構有名だし。ファーブルのお陰で、なんとはなしに昆虫に親近感を覚える訳だが、逆に、"不思議な生態の昆虫っているんだネ"というレベルにとどまってしまうのが残念なところ。どうしても、「面白動物」展示にとどまってしまうのである。
ところが、ここの昆虫園はファーブルのレベルを突き破っている。動物の本質を考えさせる展示になっているからだ。しかも、それを感じさせるような、おしつけがましい説明を一切しないところが秀逸。
と言うか、実に爽快。自分の頭で考えてみなヨと突き放しているような展示なのだ。頭抜けたプロの仕業と言ってよいだろう。

その象徴をあげるとしたらハキリアリ。

アリは珍しくもない生物。しかし、ゴチャっと何匹いるのかわからない大集団が活発に動いている様子を目の前に見せつけられると壮観。
しかも、その全員が、どう見ても農業公社組織のメンバーとくる。とんでもない生物が存在することに気付かされるのだ。
コレ、ファーブル流の、不思議な生態だねという感覚を通り越している。
この組織性はただならぬこと。じっくり見ていないと感じないかも知れぬが、マニュアルでもあるのかと思ってしまうほど。どう見ても、それぞれロールが決まっており、その範囲内で一所懸命に活動しているのは明らか。
思わず目がテンになることうけあい。

もっとも、正確に言えば、そう見えるのは、過酷な肉体労働に励んでいる蟻は体躯が若干大きくみえるせい。思い込みからくる錯覚ではないと思うが、素人だからなんとも。
  ・葉を切って運搬する。(伐採担当)
  ・運搬を一緒になって助ける。(運搬担当)
  ・細かくした葉を菌体に絡むように積む。(積載担当)
  ・菌体の管理養生をする。(栽培担当)
 このほかにも、
  ・葉以外の食糧を運ぶ。(別事業の担当)
 これらは現業部門だが、裏方たる育児部隊も組織されている。
 当然ながら、労働者階級だけではない。
 知識でしかないが、上層階級が存在している。
  ・兵隊アリ
  ・女王アリ
  ・時には、次世代女王アリ
  ・さらに雄アリ(確か未受精卵出自で、上記すべては雌だったような。)
 これらへのご奉仕部隊や、育児専門屋も存在している筈。
ただならぬ数のブルーワーカー達だが、各自がこれらすべての役割を適当に行っている訳ではない。少なくとも現業部門には、明確な役割分担がある。そりゃ、その方が圧倒的に効率的だというのがヒトの考え方。しかし、どのようにして部署配属を決めるのかネ。ヒトの組織ではマネージャーなしでは、こんな作業はとても無理だが。教育研修も必要だろうし。

まあ、それよりなにより、この生活基盤をどのようにして作りあげたのかを考えると、想像を絶するものがあろう。
キノコ栽培農業を一体誰が教えたのだろうか。あるいは、自分達で創造したのだろうか。ヒトの世界なら、これはまさしく歴史を画すイノベーション。

蟻は蜂の仲間らしいが、より大きくて、巧妙に組織化された社会を作ることで、こんな生活様式を生み出したことは間違いない。
それはハキリアリだけではないからだ。
映像で結果を見ただけだが、グンタイアリの集団も凄まじきもの。通り過ぎると、そこから一切の動物が消滅してしまうというのだ。個体は極小だが、その地域で君臨している超大型肉食獣とほとんどかわらない。象は蟻をやけに嫌うそうだが、それはこうした思い出が詰まっているからかも。

考えてみれば、「共生」の例として必ず教わる"蟻とアリマキ"にしても見方を変えれば、甘い汁を吸う集団でしかなかろう。ヒト社会ならよく見かける手口では。用心棒役をしてやる代わりにショバ代よこせという金づる商売となんらかわらない。いや、これはヤクザな事業ではないというなら、牧場を運営している筈である。アリマキを育てたり、アリマキをどこから連れてくる等の作業をしている筈である。・・・ハキリアリを見ていれば、そんなことは十分ありえる筈となろう。
と言うことで調べれば、本格派牧場業者などたちどころに見つかる。アブラムシを生産性最高の場所にまで一所懸命運びあげるのである。流石に育児まではしていないようだが、わかったものではない。アリはキリギリスと違って働き者らしいから、専業者でなくても牧畜を片手間でやっている方々は結構多いかも知れん。

なかでも、仰天させられたのは、美味しいものを鱈ふく喰わせて、腹に蜜を貯めさせるアリの存在。ただただ、蜜を受け取るだけの役割を担う部隊が編成されているのである。腹パンパンの実物は滑稽な姿だが、ご当人は、どういう運命が待ち受けているのかわかっているのだろうか。胃から蜜を吐き戻すのは蟻の得意技だが、まさか腹から出す訳にもいくまい。餌が欠乏したり、重要なイベントでもあれば、上層階層に食われることになるのでは。もっとも、その前にヒトが食べるらしいが。

アリとは、個性を自ら殺し、大家族のためにすべてを捧げることを旨とする種族ということ。はたして、ヒトはどうなのだろう。・・・多摩動物公園の昆虫園では、ついついこんなことを考えさせられる羽目に陥るのである。


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