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■■■ 多摩動物公園の見所 ■■■
2014.10.16


タマに氈鹿をじっくり眺める

特別天然記念物の哺乳類は4種。そのうち、ニホンカワウソは絶滅しているので、アマミノクロウサギ、イリオモテヤマネコ、カモシカの3種ということになる。
カモシカ以外は、特定の狭い地域のガラパゴス的種だが、カモシカはほぼ全国分布。と言っても、中国地方を除く本州と四国・九州だけだが。
それを考えれば、日本を代表する哺乳類動物はカモシカということになろう。

歴史的にも、古くから認知されているようで、日本書紀[巻24皇極2年/643年]に初出らしい。・・・
 時に童謡ありて曰く、
 「岩の上に 小猿米焼く 米だにも
 食げて通らせ 山羊の小父
」といふ。
   山羊、加末之々乃都乃[かまししのつの]
日本書紀の説明では、この歌は、宮を捨て、深山に隠れた山背王を指しているとされる。頭髪が斑雑毛で山羊こと、カモシカに似ていたらしい。古くは、そういうイメージの、誰でもが知っている有名な動物だったのである。

その割には、一時は忘れ去られていたほどで、現時点でも、それほど注目されている動物でもなさそう。
そもそも、名前が、"かま"シシ[肉用動物]から、"もうせん[氈]"シカ[鹿]と、全く異なるイメージに作り変えられているのが不可思議である。山羊の渡来で、もっぱら毛皮用動物になってしまい、食するのはマタギと化したということか。そして、さっぱり獲れなくなり、忘れさられるという流れ。そのため、古くから親しまていた感が湧かないのだろう。

と言うことで、タマには、カモシカ舎訪問も悪くないのでは。ただ、多摩丘陵の動物園にもかかわらず、緑ある土の運動場ではなく、コンクリートなのが見ていてつらい。単独生活者だから、寂しい風情が漂ってしまうのである。(もっとも、上野では蝦夷鹿Qチャンと同居だが。)多摩丘陵なら土や緑の環境の方が落ち着くような気もするのだが。
しかしながら、その構造は観客にとっては悪くない。手摺の下が空堀になっているから。遠くにいるので、ハンカチを振ったりすると、しばらくしてから、おもむろに空掘に降りてきて、下から見上げたりする。なかなかのご挨拶ぶりなのである。そのついでに、落ち葉やドングリを少々食べて、上に戻る。もちろん、そこには観客がよく見れるように枝葉の餌が十分すぎるほどある。
ただし、嫌いな臭いのする人間もいそう。そんな人が寄ってくるとさっさと離れていくから。

神経質な動物とされているが、野生では、ヒトを見かけても逃げずに、ジッと見つめ続けたりする。実に鷹揚な性情だから、人気が出ておかしくない。
食物豊富な場所で生活していないから、おそらく、食事時間は動きながらの採食で大忙し。だいたい満腹になれば、お好みの場所でのんびりしながら反芻活動に勤しむ生活だと思う。いつもの所で眺めを楽しむのもよし、気分転換に散歩がてらもよかろうといった調子では。そんな時に、「ヒト」を見かければ、最初はビックリするものの、好奇心が勝って見つめるのだと思われる。そこらは、一匹で遊ぶ猫とよく似た性格かも。
と言うことで、小生は、日本らしさ溢れる動物として、海外にアピールするのも悪くないと思うのだが。

と言うのは、現時点の棲息数は絶滅を心配する必要がないレベルに来ているらしいから。と言っても、おそらく、信州や秋田・山形辺りの山地で十分な数を達成したというだけの話だろう。

但し、世界的に見て、動物園が是非とも揃えたいと考えているのかはなんとも言えぬが。(検索でチラリと見た限りでは、重視している印象はうけない。---Zoo Vienna,Los Angeles Zoo,San Diego Zoo & Wild Animal Park,Berlin Zoo,Calgary Zoo,北京動物園)

その辺りの感覚がよくわからないのは、海外と概念が違うせいもありそう。

日本では「カモ"鹿"」。毛が絨毯というか、毛氈のように密集している「鹿」に映る訳だ。這松地帯に近いガレた地域に追い出された種というイメージがつくられていそう。
しかし、西洋的発想だと絶対に「鹿」類似とは見なすまい。
それに、日本の山岳地帯は、アルプスや中央アジアの岩だらけの地域とは全く異なる。従って、ニホンカモシカとは冷涼な空気に包まれた深い森に棲む「山羊」の祖先的な動物というイメージではあるまいか。西欧では珍しい環境ということになろう。
それに、アフリカの平原地帯に住んでいて、一部林生活の種もいるような「アンテロープ」の類に馴染みが深い点も、日本での概念形成との違いを大きくしている理由だと思われる。つまり、「鹿」的な細い足の跳躍力を持つ「山羊」の形質を抱えた種をよく知っているということ。
その目線でカモシカを眺めれば、これはアンテロープ」と「山羊」の中間ということになろう。
日本のカモシカの場合、短足、短角という外見に加えて、見た瞬間、そのおっとりとした性情が感じられる。従って、西洋の人々も、動物園で眺めることができれば、この種は古代に、日本というユーラシア大陸極東の辺境の地に残された山羊の曽祖先というイメージが脹らむのではなかろうか。

ちなみに、分類学上の「カモシカ[氈鹿]」とは、山羊系を除いた牛近縁の反芻動物。具体的には、シャモア族、サイガ族、ジャコウウシ族の3グループを指すそうだ。ここには、以下の8属が含まれている。
 カモシカ[氈鹿]/Serow
   ・ニホンカモシカ & タイワンカモシカ
   ・スマトラシーロー類・・・通称タテガミカモシカ
 Goral・・・通称チョウセンカモシカ
 白岩山羊/Mountain goat・・・通称シロカモシカ
 シャモア/Chamois・・・通称アルプスカモシカ
 Saiga
 Chiru[Tibetan antelope]
 麝香牛/Muskox
 ターキン/Takin
図鑑では、カモシカは麝香牛の仲間とか言われていたような気もするが、上記が「日本の常識」として通用する見方のようである。サイガやチルーは写真でしか見たことがないので、なんとも言えないが、少なくとも、麝香牛やターキンを一緒にするのは、素人には違和感ありすぎ。
多摩動物公園には、繁殖力を誇示するゴールデンターキンと、1頭モンブラン君になってしまい今や風前の灯であるシャモアが住んでいるので、カモシカ舎を眺めた後に訪れるとよいだろう。
カモシカ舎から道なりに、隣の同じウシ科動物が住む水牛舎(象舎新築工事で移動)から、四不像(こちらは鹿の仲間)に進み、雪豹ケージに出たら、レッサーパンダを経て、ターキン→シャモアと進めばよいだけ。その先でシャトルバスに乗れば、眺めながら正門に戻れる。

ちなみに、ウシ科動物の系統図を眺めると、これは再編すべきかも知れないという気もするがどうなんだろう。まあ、系図は色々あるから、なんともいえぬが。
素人が勝手に整理すると下記のような具合になろうか。

じっとこの系図を眺めていると、シナリオが浮かんでこないか。
草原から追い出され山地に追いやられてほとんどの種は滅びていったのだ。アフリカの平原では進化形の鹿型体型のアンテロープが棲み分けて群れることで大繁栄することになる。アジア大陸でも祖カモシカは古くに消え去ってしまっい、進化したGoralだけが辛うじて息吹を残している訳だ。欧州に押し出された連中は岩山で生き残ったシャモア以外は絶滅したのだろう。
ところが、ユーラシア大陸の東の辺縁には、山羊の祖といわれる連中よりさらに古そうな形質を持つカモシカが残っていたのである。この何百万年間というもの、ほとんど変化していない可能性もあろう。

┌─────【牛類】

┌───アフリカ系アンテロープ
│┌┤
││└───Saiga[アジア系アンテロープ─]
└┤
│┌───Chiru[チベットアンテロープ─]
└┤
┌─麝香牛/Muskox
│┌┤
│││┌Goral@蒙古〜中国〜朝鮮半島
││└┤
└┤カモシカ[氈鹿]/Serow
・ニホンカモシカ
 [亜種]タイワンカモシカ
・スマトラカモシカ,等

白岩山羊/Mountain goat
│┌┤
└┤└ターキン/Takin

│┌シャモア/Chamois
├┤
│└バーバリーシープ/Barbary sheep

│┌タール/Tahr
├┤
│└【山羊類】

└─【羊類】

ただ、カモシカ君拝見に遊びに行くといっても、難点がある。カモシカ君の気分がのっていないと、観客にソッポを向いたままの可能性も大いにあるからだ。残念だが、その時は諦めよう。
そんな場合は、山羊さん見物しかなかろう。

尚、ニホンカモシカ君達のお名前は以下の通り。(正確性は保証できない。◎が as of now 展示個体。)
名前を呼ぶとやってくるかは、定かではない。

上野>1頭
 ♂ナギ2009年6月@安佐
井の頭>3頭
 ♂ちびすけ2001年5月14日@大島
 ♀こゆき2000年保護@岩手県(via多摩)
  ↓2013年8月1日
  ♂こたろう→多摩
  ↓2014年6月30日
  ♂◎
 ♂ちびすけ
 ♀はるこ@日本カモシカセンター→n.a.
  ↓1999年
  ♂むさし→日本カモシカセンター→n.a.
  ↓n.a.
  ♀みなこ→大島
  ↓2006年4月8日
  ♀ちはる→多摩→埼玉こども動物自然公園
  ↓2007年5月31日
  ♂はるすけ→n.a.
多摩>1頭
 ♂こたろう@井の頭
 ♀ちはる@井の頭→埼玉こども動物自然公園
 ♂ひろし@安佐→n.a.
 ♀こゆき2000年保護@岩手県→井の頭
  ↓n.a.
  ♂たけし→n.a.
 ♀こまき→n.a.
<埼玉県こども動物自然公園 シカとカモシカの谷>3頭
 ♂クロベ◎2008年7月9日@大町山岳博物館
 ♀なでしこ◎2007年[埼玉県内保護]
 ♀ちはる◎2006年4月8日@多摩

─・─・─ 上記の詳細版系譜 ─・─・─
┌───────【牛類】
↑真性牛系反芻動物

↓牛近縁反芻動物

│┌──────Impala,Royal antelope,Suni
└┤
│┌─────Oribi,Blackbuck.Gazelle,Springbok
││Saiga@中央アジア
││
│├─────Klipspringer
│├─────Duiker@サハラ以南のアフリカ
│├─────Rhebok
└┤
│┌────Bluebuck[Blue antelope]
││オリックス/Oryx or Gemsbok
││多摩>シロオリックス
││Gnu[Wildebeest]
││Addax
││Rhebok,Waterbuck
││Sable antelope
││
││↑【アンテロープ系】
└┤
│↓【山羊類縁系】

│┌───Chiru[Tibetan antelope]@チベットチャンタン高原
└┤
┌─Muskox[麝香牛]
│↑寒冷地巨大化
│┌┤
│││┌Goral@アジア
││││Red,Chinese,Grey,Long-tailed
││││京都"ホンホン"
││││
││└┤【氈鹿系】
││
││カモシカ[氈鹿]/Serow@アジア
││★日本氈鹿/Japanese serow
││多摩
││上野
││井の頭
││★台湾氈鹿/Taiwan serow
││☆Other serows:,Sumatran,
││ Chinese,Red,Himarayan
└┤
└──↓

┌─Mountain goat[白岩山羊]@北米
┌┤
│└─ターキン/Takin
多摩>ゴールデンターキン@ヒマラヤ
│┌─シャモア/Chamois@欧州
││多摩
││井の頭
├┤
││┌バーバリーシープ/Barbary sheep@北アフリカ
│││上野
│└┤
└Arabian tahr@中東

│┌─Bharal[blue sheep]
├┤
││┌タール/Tahr
│││ヒマラヤタール/Himalayan tahr
│││多摩
│││Other tahrs:Arabian,Nilgiri,Trusty
│└┤
└【山羊類】

└──【羊類】

(参考)
かもしかのへや@まうごてん Last up date = 2006-07-10
かもしか君(j-serow.com) by まーくん
(日本書紀) 新編日本古典文学全集 小学館 1998

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