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■■■ 上野動物園の見所 ■■■
2015.6.1

白鼻芯の体質

ハクビシン[白鼻芯]や狸は夜行性と言われている。
確かに、多摩では遠くにある箱の中に入りっぱなしの展示状況だし、井の頭でも同様に寝ているだけだから、そうかも知れぬという気になる。ところが、上野はそれとは少々違うという話をしてきた。
マレーグマ同居者の場合、樹木の上の台で寝ていることがほとんどだが、クマ昼食用の餌設置が済むと突然降りてきたりする。まあ、クマが引き上げた後にせっせと動き回るのだろうが。
一方、子供向け展示域では、もともと寝床が観客から丸見えなせいか、飼育員さんが餌やりを始めると俄然元気を出してそこいらを動き回る。食べ終えると、しばらくして寝床に戻るか木の上でお休みとなる。眼前1mのところで枝を俣ではさんで堂々と毛繕いしたりしてから寝る体勢に入ったり。それを見ていると、夜行性とは、餌の都合でしかなさそうに思えてくる。

餌の時間でなくても、真昼間、木の上から下の様子を伺っていそうなこともある。その時は、位置を移しながら覗いていると、気が付くと見えて地面に降りてきて、しばし徘徊。そのうち、寝床の台にあがってから、こちらの顔を正面からじっと見つめたりして。なんなんだネ君は、とでも言いたげに。尻尾が切れており、治療してもらったのだろうからヒト慣れしているのかも知れぬ。

そんな状況をしばし眺めていると色々とわかってくることもある。特に、白鼻芯、本土狸、洗熊、日本穴熊の差がどこにあるのか考えると面白い。
  「雑食野獣揃い踏み」[2014.10.25]

独断と偏見で評価すると、こんなところか。・・・

ズル賢くてチンピラ的悪さをするのが大好きなのが洗熊。慎重居士だが、頭の回転が今一歩なのが狸。穴熊は唯我独尊的性格。頭のキレが良いのが白鼻芯。

そうだとすれば、食に対する姿勢も自ずと違ってくる筈。

洗熊はなんでも食べてみようとするタイプ。一口齧って、放りっぱなしにして次々と手をつけてみる。他の輩がなにかを食べているのに気付くと、すかさず強引に横取りしに行く悪ガキそのもの。
これと正反対なのが狸。多少我慢しても、じっくりなんでもできる限り食べる。ただ、餌で他と競争したくないとの哲学がありそう。滅多に、横取りはしないのである。そのかわり、一緒に食事をする訳で、そのような状況を厭わない訳だ。もっとも、烏は可能かも知れぬが、犬との平和共存は無理だろう。
穴熊は、食材範囲を無闇に広げる気はなさそう。無理はしたくないのだ。
こうした輩とは一線を画すのが白鼻芯。思想的には狸と同じようだが、それは建前。基本は美食家。旨いものには目が無いのである。

そんな風に思ったのは、マレー麝香猫が似た体質のようだから。世界で最も高価なコーヒーと言われる、インドネシア産"Kopi Luwak"は、糞から果肉がなくなった珈琲豆を採り出したもの。つまり、熟れた最高品質の豆ばかり選んで食べているということになる。美食体質が染みついている動物と言えよう。
実は、それは、動物園の食事風景を見ているとわかってくる。
馬肉の塊はそれほど好みではなく、なんといっても嬉しいのはバナナ。
もちろん出された肉はすべて食べる。だが、いかにもしかたなさそうに。鼻をつけるだけで、食べずに、そのまま下に落としたりする。運動神経が優れているのに、そんな失敗をやらかす訳がなかろう。
林檎も同じ。それほど好みではなさそうで、仕方なしに食べるといった風情。ボロボロ落とす。食べずに通りすぎることも。想うに、完熟ではないのだ。
バナナは違う。すかさず口に入れる。もっとも、こちらもよく落とす。
木の枝から糸で果物をブル下げてあると、いとも簡単に木に登り、綱を引き上げて食べる。ところが、餌がなくなっても、また戻ってきて紐を引き上げたりする。
そんなシーンを見ていると、頭が悪い上に、行儀悪く食べる輩とみなしがち。ところがこれが違うのである。
林檎やバナナでボロボロ落としている部分とはよくみると皮や、端の箇所。そんなものは食べたくないと主張しているのだ。紐を引き上げるのも、餌があると思っての行為ではなさそう。餌をつけろとの要求なのである。従って、要求が通らないと見ると、すぐに諦めて木から地上に降りて徘徊し始める。そして、落とした美味しくない部分の臭いを嗅いだりする。そうこうするうち、落としたなかでも、多少は美味しそうな部分が残っているものを食べたり。
まあ、そんなこんだで、時間をかけながら、結局のところ、落としたものすべてを食べ尽くす。美食は健康に悪しとの飼育員さんの判断が奏功していそう。

白鼻芯は、狸同様に23区の野生動物でもある。
狸はもっぱら側溝からご出勤とのことだが、こちらは綱渡りが得意なので電線を伝わって出没するとか。長い尾でバランスをとった綱渡りが大好きなようだ。これは他の中型動物にはできかねる技。
木に登るにしても、猫族のように爪を使わず、人間のように両掌と指で押さえつけるやり方だからこその能力。
なかなか面白い動物である。

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