■■■ 北斎と広重からの学び 2013.1.6 ■■■

   江戸の日本橋

江戸の日本橋界隈は江戸期の商業、金融、文化の中心地である。
それを、北斎と広重はどう描いたか眺めてみたい。

○広重 東海道五十三次 「日本橋(朝之景)」
夜明けと共に出立する当時の常識に合わせ、日本の中心地の朝の風情を描いた。
  ・朝焼けシーン
  ・ピカピカの橋(日本の中心としての象徴)
当然ながら、その中心に登場するのは、「堂々」と橋を渡る参勤交代の大名行列の先頭。ここにハイライトを当てる。
  ・先箱持(挟箱)
  ・その後に続く毛槍
それを「立体的」に引き立たせるために、橋の手前に「町の人」が配置され、さらに、その生活実感を示すための小物が左右に付け足される。現代のドラマにおける情景演出の基本型。
  ・魚行商人達(魚河岸出立姿)
どうでもよさそうなものが心をくすぐるのである。
  ・御高札(ご法度)
  ・どこにでもいそうな犬(街の野良)
さあ、東海道を出発しますぜというシーンとしては、お決まりを並べたというところ。まさに退屈以外のなにものでもないが、そこがウケる基本。これぞ定番。

○葛飾北斎 富嶽三十六景 「江戸日本橋」
奇麗事をじっくり描いた広重作品とは違い、北斎の方は馬鹿ばかしいほどの遠景重視。パッと見には、手抜きでいい加減に描いたように映る。
  ・空だらけ
  ・ステレイオタイプの富士山
  ・下から飛び出るのは江戸城本丸と二の丸
これらが屋根の上にくる訳。画題「日本橋」とくれば、富士山と江戸城との一般常識に合わせ、画面左半分の真ん中に配置したのである。
しかし、橋を描く気などさらさらない。メインテーマも、どう考えても、これらではなく、一番手前の川を横断中の町衆。その雑踏状況こそが、この絵の真骨頂。
  ・雑多で大勢の町人衆
  ・橋とわかるのは欄干1本(擬宝珠)のみ
通行人の誰一人として風景を愛でるという状況にはない。それぞれ全く違う職業であり、日々の仕事に勤しんでいる訳だ。日本橋市場の活況を描いていると見てもよかろう。
その感覚を一層引き立たてるのが無味乾燥とした川の情景。遠近法を矢鱈と強調することで、その異様さを浮き出させている訳である。まあ、カネという意味では、蔵が並ぶ景色とは威容そのものと言えなくもないが。
  ・両岸にびっしり詰まった倉庫群
  ・整備された荷揚場
  ・運船掟を遵守する高効率な満載荷船
  ・川というより運送用水路
ここでの富士山は、人々の日々の生活を見守っているだけ。それこそがテーマ。

(ご注意)
本稿の意図は、マインドセットからの解放につながるような、鑑賞手引きの提供です。こんな話に興味を覚える方のためのもので、浮世絵の素人芸術論を展開している訳ではありません。尚、現段階では、ウエブ上の閲覧対象としては、アダチ版画拡大版をお勧めします。


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