■■■ 北斎と広重からの学び 2013.1.7 ■■■

   生地屋繁盛店

江戸期は生地販売業者が繁栄した。
お江戸では新しい販売業態が生まれ、市場は一気に拡大。街道沿いでも名産として土産用生地を売るお店が大繁盛。

○葛飾北斎 富嶽三十六景 「江都駿河町三井見世略圖」
路地を挟んで建つ呉服商三井越後屋と、その間から城壁の上に見える富士山のコントラストが愉快。富士山は、仕事で道を究めようとの人間の営みの引き立て役に徹している訳だ。
  ・「現金掛け値なし」看板
   (呉服屋商売のシーンは全く描かれない。)
  ・一番の高所で瓦葺き作業中の職人チーム
これらが目立つのは、大きな建物と開けた空が最初に目に入るから。
  ・二階の細縦格子窓と屋根だけしか見えない「簡略化」した建物
  ・大空に高く揚がる2種類の凧
まさに、構図の妙である。富士山の三角形を様々な三角形が取り囲むことで、社会の断面を見せつける仕掛け。
  ・縁起凧の糸と長い足が作る三角形
  ・三井大店の瓦葺中屋根の三角形
  ・現金商売宣伝板の覆屋根の三角形
もちろん、これらは暗喩でもある。それぞれ、行事、瓦葺業、呉服業と、全く違うタイプの活動の表象となっている。しかも、新たなものを生み出す息吹を感じさせる動きをとらえている。北斎ならではの表現と言ってよかろう。

○広重 東海道五十三次 「鳴海(名物有松絞)」
広重の構図は大人しい。都会が題材でないからという訳でもなさそう。浴衣生地として有名な、有松絞りの販売店を題材にしているからだ。立ち込んでいる状況からは程遠いが、流行商品の販売店を描いている訳で、大繁盛を示している図なのである。
  ・立派な生地店の家並
  ・通りから店内を眺める旅人達(徒歩、籠、馬)
通りの特徴を抜き出して描いただけとも言える。描き出したいモチーフから見て、余計と思うものは一切省いてある。ただ、表現に多少配慮することで、余りに簡素という印象を与えないようにしている。おそらく、この街の最近の出来事を暗示しているのであろう。
  ・海鼠壁に虫籠格子
  ・天水桶
と言うことで、宿場町の情景を切り取り、それを忠実に描いているだけの作品に映る。だが、眺めていると、その見方がおかしいいことに気付く筈。道が矢鱈に広いからだ。舞台に張っている板のような質感というのもなにか変だ。要するに、この絵は、巷で話題になっている鳴海宿の姿をイメージ化してみただけのこと。従って、それなりに精緻に描いてはいるが、中味は凡庸そのもの。実は、これこそ、作者の意図するところ。ヒットさせるための肝。これは大衆相手の商業出版物なのである。もちろんのこと、お店の暖簾には、版元と作者の商標がくっきりと染め抜かれている。

(ご注意)
本稿の意図は、マインドセットからの解放につながるような、鑑賞手引きの提供です。こんな話に興味を覚える方のためのもので、浮世絵の素人芸術論を展開している訳ではありません。尚、現段階では、ウエブ上の閲覧対象としては、アダチ版画拡大版をお勧めします。


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