■■■ 北斎と広重からの学び 2013.1.10 ■■■

   品川の魅力

品川は高台が御殿山と呼ばれる。その南の方には品川神社。ここには地盛で作った富士が今でも残っており、今でも富士信仰が強い土地柄であることを物語る。もちろんこの地は第一義的には、江戸への荷揚げ港である。そして、今も船溜まりが残ることでもわかるが、漁師町でもあった。
魚介類は多種の上に新鮮で、目黒川上流から農産物も運ばれてくるから、美食家にはこたえられない地でもあった筈。
なにせ、ここは、徒歩でも、日本橋からわずか2時間程度で到達するのである。しかも風光明媚。気晴らしにはもってこいの地。ただ、宿場町としての役割も大きかった。ここで出立の宴を開催するのが便利だったせい。

○葛飾北斎 富嶽三十六景 「東海道品川御殿山ノ不二」
桜満開で、賑やかな花見風景が描かれている。常識的な桜の木の姿と違って、枝が伸びきっており、背が高く痩せぎすの樹木だ。そうならざるを得ないのは、枝の間から品川の海と遠景の富士山を描きたかったから。
しかし、テーマはそこでなく、ザワザワ、ガヤガヤの花見宴席。絵を見た瞬間、その賑やかさというか、都会的な喧騒が伝わってくる。
この絵を眺める側は、それと同時に、葉桜になった季節のシーンも想像してしまうことになる。静まりかえった高台から、房総半島をはさんだ広大な海を眺める訳だ。絶景。
そんな心象風景を生み出す仕掛けが施されているということ。

○広重 東海道五十三次 「品川(日之出)」
房総半島や富士山といった、風光明媚さを一切打ち出していないのが特徴。東海道には、他にも数々の名所があるから、それに比べれば品川を取り上げるまでもなかろうということか。ともあれ、淡々と、朝焼けの海と流れ行く雲を描いているだけ。実は、これが心に染みるのである。
そうそう、これだね、品川はといった感慨を呼び起こすモチーフなのだ。といっても、わかりづらいか。
情景は、大名行列の最後尾がようやく宿場町入り口に入っている瞬間をとらえたものだから。海に浮かぶのも大型船だし。しかし、ここは御殿山の崖下なのである。そして、人々が集う茶屋が並んでいる。ただし、お客さんはまだ入っていない。それは時刻のせいではない。よく見ればわかるように、顧客を目の前にして、客引き女が行列よ早く通りすぎてくれと願っているのだ。

(ご注意)
本稿の意図は、マインドセットからの解放につながるような、鑑賞手引きの提供です。こんな話に興味を覚える方のためのもので、浮世絵の素人芸術論を展開している訳ではありません。尚、現段階では、ウエブ上の閲覧対象としては、アダチ版画拡大版をお勧めします。


 北斎と広重からの学び−INDEX >>>    HOME>>>
 (C) 2013 RandDManagement.com