■■■ 北斎と広重からの学び 2013.1.11 ■■■

   2泊3日旅行の定番

戸塚から東海道を進み、境川に架かる大鋸橋(遊行寺橋)を渡れば「踊念仏」の遊行寺こと清浄光寺。一遍上人を開祖とする時宗の総本山だ。そしてここら辺りの街道沿いが藤沢宿。宿場町だが、実態としては門前街である。
一方、橋から南に向って道なりに一里ほど進めば江ノ島弁財天に至る。
そうそう、藤沢宿を通り越して、山側に大山道に入れば大山阿夫利神社に行き着く。
この3コースだが、江戸市中からだと、取り混ぜたりして、2泊3日で設定するのが普通。まあ、信仰と行楽の入り混じった定番の旅行コースということ。落語でご存知の通り、長屋の熊さんも団体で詣でたりする位に大衆化していたのである。

○広重 東海道五十三次 「藤澤 (遊行寺)」
こうした定番コース紹介を狙った一枚である。なにせ、藤沢は3コースの交通の要なのだから。
  ・橋の背後に、遊行寺の巨大な本堂
  ・橋の手前に、江ノ島弁才天の一の鳥居
  ・橋の上には、大山への奉納用の大きな木太刀をかつぐ男
はっきり言って、ここは雑踏に近い。藤沢は今や江戸繁華街並の大人気の地ですよと伝えることが主眼と言ってよさそう。世間並みの生活を目指すなら、藤沢に一度は足を運ぶしかなかろうとのメッセージを発信している訳である。

○葛飾北斎 富嶽三十六 「相州江の嶌」
北斎は3コースのうちから江ノ島を選定。
驚いたことに、絵は見える風景そのママ。といっても、画面の下方は大和絵伝統の雲形覆い。これで恣意的に余計なものを描かずじまいにしている訳だ。富士山と江ノ島の間の空も白一色の雲海とした。
そして、なんといっても一大特徴は、景勝としての江ノ島らしさを伝えるつもりが全く感じられない点。一応は岩礁が描かれてはいるから、島らしさの表現は皆無とは言えないが。あとは、塔が見えることで、宗教施設が存在していることがわかる程度でしかない。
そんなこともあって、どうしても目線が、引き潮を見計らって、片瀬海岸から江の島へと砂州を歩いていく人々の姿に行く。これが、とんでもなく小さい。どうだ、ここまで描けるんだぞと技量を誇っているかのよう。だが、それによって、物見遊山気分の浮ついた大衆行列感覚を消し去ることに成功しているとも言えよう。信仰対象である聖域に対する、北斎なりの畏敬の念を示したと見るべきかも。
さすれば、下の雲はいわゆる源氏雲ではなく、瑞雲と考えるべき。

(ご注意)
本稿の意図は、マインドセットからの解放につながるような、鑑賞手引きの提供です。こんな話に興味を覚える方のためのもので、浮世絵の素人芸術論を展開している訳ではありません。尚、現段階では、ウエブ上の閲覧対象としては、アダチ版画拡大版をお勧めします。


 北斎と広重からの学び−INDEX >>>    HOME>>>
 (C) 2013 RandDManagement.com