■■■ 北斎と広重からの学び 2013.1.12 ■■■

   浮嶋ケ原からの眺望

沼津と吉原の間には、「なつかしいアシの風景や湿原の貴重な植物との出会い」が可能な浮島ケ原自然公園がある。江戸期には、ほとんどが田圃になりそうにない湿地帯だった地域である。
  浮嶋が原はいづくよりもすぐれて見ゆ。
  北は富士の麓にて、西東へはるばるとながき沼有。
  布を引けるがごとし。・・・
  芦刈小舟所々に棹さして、むれたる鳥はおほく去来る。・・・
    影ひたす 沼の入江に 富士のねの
    けぶりも雲も 浮嶋ケ原
       [作者不詳 「東関紀行」 1242年]

○葛飾北斎 富嶽三十六 「駿州大野新田」
駿州大野新田とは、この近辺であろう。白鷺が飛ぶ沼沢地帯での早朝のシーンを切り取った訳である。
刈った葦満載状態の5頭の駄馬のような牛と背負子を担ぐ2人の農婦がゆっくりと歩んでいる。牛はもう限界といった表情。極く平凡な地元民の日々の生活のひとこま。
その脇を旅人が勝手勝手に行く。風景を眺めて感傷に浸るような姿はどこにもない。しかし、ここは、あの有名な浮島ケ原。雄大な富士山がすぐ近くで一望のもとという類稀なる地なのである。
これぞ北斎、真骨頂。

○広重 東海道五十三次 「原(朝之富士)」
原の宿場から朝立ちすると、すぐに静まり返った湿地帯に入る。凛とした気分になるもの。なにげなく眺めると、桁違いに大きく高い富士が迫ってくる。しかも均整がとれた姿だということに、今更のように気付かされる。広重は、そんな気分をこめて描いた訳である。
  ・山の東側の朝焼け色
  ・絵の外枠をはみ出した頂上
  ・前段の山塊の形状は乱雑
  ・振り返り見る旅人
そして、冬景色の定番。
  ・上空には渡り鳥の群れ
  ・田圃には二羽の鶴
モチーフ自体はえらく陳腐だが、だからこそ、人気が湧く一枚と言えよう。流石、プロの作品と唸らされる訳である。

(ご注意)
本稿の意図は、マインドセットからの解放につながるような、鑑賞手引きの提供です。こんな話に興味を覚える方のためのもので、浮世絵の素人芸術論を展開している訳ではありません。尚、現段階では、ウエブ上の閲覧対象としては、アダチ版画拡大版をお勧めします。


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