■■■ 北斎と広重からの学び 2013.1.14 ■■■

   大井川の渡し

大井川は川幅が広いというのに橋も舟も無い上、流れが早いとくる。川人足に渡してもらうしか手がない。従って、大名行列にとっては、悪天候や増水はえらく難儀だが、宿場町にとっては大儲けが自動的に転がり込む訳で、そう悪くない話。
江戸に攻め入る防波堤役のために架橋させなかったとされているが、増水量は半端なものではないから、架け替え工事だらけを避けただけかも。経済合理性を考えれば妥当な判断だったのではなかろうか。

○葛飾北斎 富嶽三十六景 「東海道金谷ノ不二」
金谷側から見た大井川の徒渡しと島田宿が描かれている。
一般大衆は肩車。大名行列の籠や荷物は連台。まさに、ピンキリ状況。
絵のテーマはあくまでもヒトの営み。
対岸には、増水時に水の流れを止めるための、巨大な蛇籠が設置されている。すでに、水量が大幅に増えているということだろう。皆、無事に渡ることだけで精一杯なのである。
とても富士山どころの話ではない。

○広重 東海道五十三次 「嶋田(大井川駿岸)」/「金谷(大井川遠岸)」
川越している大名行列のご一行が俯瞰的に描かれている。ヘリコプターにでも乗らない限り、こんな高い位置から眺めることができる訳がないのだが。
渡り終える情景の絵も、ここが旅の難所と言われる所以を説明している。川人足は渡し終えればしばしの休息で労苦終了感が湧くが、旅人は目的地を仰ぎ見て溜息の図なのである。なにせ、金谷宿は遠方の山の中腹に小さく見えている状態で、まだまだ苦労が残っていることに気付かされるからである。
その労苦感が重くのしかかる感覚を伝えるのが黒き山々。現在の地形から言えば、ここはお茶で有名な牧の原台地辺りに当たるのではないか。しいてあげれば、掛川宿で描かれている秋葉山(885m)を持ってきたということか。ともあれ、ここに、登る気にならないような山をどうしても欲しかった訳である。

(ご注意)
本稿の意図は、マインドセットからの解放につながるような、鑑賞手引きの提供です。こんな話に興味を覚える方のためのもので、浮世絵の素人芸術論を展開している訳ではありません。尚、現段階では、ウエブ上の閲覧対象としては、アダチ版画拡大版をお勧めします。


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