■■■ 北斎と広重からの学び 2013.1.15 ■■■

   田子の浦の富士

富士を題材にするなら、田子の浦は外せまい。
  天地の 分かれし時ゆ 神さびて
  高く貴き 駿河なる 布士(富士)の高嶺を・・・
と言うことで、「語り継ぎ 言ひ継ぎ行かむ」とされているのだから。
江戸期で考えるなら、その場所は、駿河湾に面した海上交通の要とも言えそうな吉原湊辺りと見るべきだろう。

○葛飾北斎 富嶽三十六景 「東海道江尻田子の浦略圖」
絵は3層構造で線が強調されている。
  ・富士山全景輪郭線
    -露払いは愛鷹山系
  ・砂浜の海岸線
    -多くの入々が働く塩田
    -防砂林に囲まれた家々
  ・駿河湾海面の波立ち線
    -力を入れ船を漕ぐ漁師
目に入るのは漁船である。躍動感が伝わってくるからだ。そして、よくよく見ていると、豆粒のような大きさの塩田で働く大勢の人々の存在に気付くことになる。
新古今の歌のように、田子の裏から雄大な富士山を眺めてはいるが、故意に、ヒトの活動が停滞する降雪時期を外した訳である。
  田子の浦に うち出でてみれば 白妙の
  富士の高嶺に 雪は降りつつ

○広重 東海道五十三次 「由井 (薩タ嶺)」
東海道は由比で、断崖の険しくて細い道となる。東海道随一の難所と言ってもよいのでは。おそらく避ける道もあった筈。断崖下の波打際を歩けばよいのである。しかし、それは荒波にさらわれる危険覚悟だから、そこまでする人は滅多にいまい。それに、大変な労力であるとはいえ、峠からの眺めは素晴らしいから、致し方ないだろうとなる。
そんな気分を絵にこめたのが、広重の油井。右に駿河湾、それを見下ろす富士山。
こちらは万葉集の世界を踏襲しているともいえる。峠に出ると突然にして壮大な景色。富士山だけ全面的雪景色。
  田子の浦ゆ うち出でてみれば 真白にぞ
  富士の高嶺に 雪は降りける

(ご注意)
本稿の意図は、マインドセットからの解放につながるような、鑑賞手引きの提供です。こんな話に興味を覚える方のためのもので、浮世絵の素人芸術論を展開している訳ではありません。尚、現段階では、ウエブ上の閲覧対象としては、アダチ版画拡大版をお勧めします。


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