■■■ 北斎と広重からの学び 2013.1.23 ■■■

   早朝出立

朝一番に出立する旅人達の姿を描きたくなるのはよくわかる。両者の作品を眺めてみよう。

○葛飾北斎 富嶽三十六景 「甲州伊沢暁」
街道シリーズの作品と間違いそう。明けゆく空の下での、笛吹川沿いの宿場が俯瞰的に描かれているからだ。早朝の旅立ちの人達であわただしい様子が見て取れる。
そのなかで富士山の情景は、朝霧が立ち込めているなかでの眺めなので、まだまだほの暗くモノトーン状態。
しかし、川面はすでに陽の光を反射しており、木々もその光を浴びてはっきり見えるまでになっている。
一方、当の旅人達は身支度に忙しく、とても、そんな景色を眺めている暇もない。しかし、朝日が自分達に当たり始めていることには気付いている筈。宿場町を出て、ふと富士を眺めた瞬間、感動を覚えるのであろう。
そんな心情描写を狙った絵なのだと思われる。

○広重 東海道五十三次 「三島(朝霧)」
夜明けの朝霧の中、三嶋大社の鳥居前を行く旅人を描いた作品。東海道中シリーズであるからして、雪、雨、夜の景色ではなく、旅人を題材にしているという点で、これを広重の代表作と見なしてもよいのでは。
実際、見事なイラストである。霧にけぶる状態なので、少し離れている旅人はよく見えない。それをシルエットで表現しているのが秀逸。樹木もモノトーン。それらが背景となり、3次元空間的効果を生み出し、なんとも幻想的。
一方で絵の中心の旅人達は詳しく描かれている。徒歩、籠、馬で箱根路に向かって進んでいるところだが、寒さを和らげるため身体を包んで、顔を伏せている状態。一方、駕篭かきはさあこれからということで肌を露出させて元気一杯。

(ご注意)
本稿の意図は、マインドセットからの解放につながるような、鑑賞手引きの提供です。こんな話に興味を覚える方のためのもので、浮世絵の素人芸術論を展開している訳ではありません。尚、現段階では、ウエブ上の閲覧対象としては、アダチ版画拡大版をお勧めします。


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