■■■ 北斎と広重からの学び 2013.1.24 ■■■

   風の悪戯

風の絵と言えば誰でもすぐに思い出す作品がある。ほとんど同じモチーフなのが面白い。それを取り上げてみよう。

○葛飾北斎 富嶽三十六景 「駿州江尻」
突風に煽られるの図。風除けになるものが一切なく、吹き曝し状態で街道を長時間歩くのだからたまらん。「江尻」という地名からして、海に突き出すような場所なのだろうから駿河湾からの海風が凄いところなのだろう。
それを描いた絵の迫力は見事。風の力で、様々なモノが吹き飛ばされている様子が一目瞭然。旅人達は身体を屈めて耐えるしかない。そうでもしなければ、ヒトそのものが風に持っていかれそう。
  ・頭巾姿の商売女が持っていた沢山の懐紙が空中散乱、
  ・菅笠がひっくり返って空高く舞う。
  ・傾いた木から葉っぱが千切れて飛んでいく。
泰然自若は富士山のみ。
だが主題はそこではなさそう。
前面に描かれている女性というか、その外見から想定される生き様である可能性が極めて高いからだ。あるいは、この姿は北斎自身なのかも。一枚一枚異なる形に映る懐紙は作品ということ。そこまで練りに練られた構想を元にして描きあげた作品と見て間違いないと思う。

○広重 東海道五十三次 「四日市(三重川)」
風のシーンが巧みに描かれているとされる。しかし、旅人を絵から取り去ってしまうと、強い海風で辺りに生える葦が大きくなびき、柳の木がしなっているという感じは失せてしまう。
それに、風に往生している旅人だが、風体が一般的でなさそう。冗談半分かと思うような描き方。
  ・飛ばされて転がる笠を焦って追いかける。
    ・・・オットット。
  ・裾はためく合羽を首でしっかり押さえ立ち尽くす。
    ・・・渡世人で御座い。
わざわざこのように描いてまで、四日市宿辺りに強風が吹くことを表現する必要性がどこにあるのかよくわからぬ。それに、この場所だが、繁盛している筈の港が遠くに見えるような地だし 、捨て小船があるような状況。どうも腑に落ちぬ。

(ご注意)
本稿の意図は、マインドセットからの解放につながるような、鑑賞手引きの提供です。こんな話に興味を覚える方のためのもので、浮世絵の素人芸術論を展開している訳ではありません。尚、現段階では、ウエブ上の閲覧対象としては、アダチ版画拡大版をお勧めします。


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