■■■ 北斎と広重からの学び 2013.1.28 ■■■

   躍動感表現

作品中に馬はしばしば登場するが、荷役用の駄馬が多い。武士を乗せてポコポコ歩いたり、休憩中の雄馬も描かれてはいるものの、それに意図があるなら別だが、本来の姿から程遠くつまらぬシーンである。
従って、絵師としては、シリーズ作品なら、そのどこかで馬が走る姿を取り入れたくなる筈。馬を通じた躍動感表現とでもいえようか。
ただ、よく考えれば、それは無いものねだりに近い。浮世絵は線画は描けるが、極めて平面的な描写になってしまい、色彩もぼかしのような曖昧さしか表現できないので、動的感覚が乏しくならざるをえないからだ。にもかかわらずの挑戦。そんな絵を眺めてみよう。

○葛飾北斎 富嶽三十六景 「隅田川関屋の里」
所は、千住近くの隅田川近辺。人っ子一人いない早朝、わざわざ狭い堤道を選んで、早馬が疾風のように次々と駈け抜けて行く。風景など眺める心の余裕など全くなさそう。眺める方は、一体全体、何事だろうと気にかかる。心を騒がせることで躍動感を与える訳だ。
当然ながら、動的な構図になる訳だが、色彩的には意外と穏やか。それは配色の妙とも言えそう。・・・先頭の赤馬、それを追う次の騎上の武士の赤い着衣、街道沿いの一本の赤松、遠方に臨む赤富士が並ぶからである。

○広重 東海道五十三次 「宮(熱田神事)」
テーマは、熱田神宮の祭りでの駈馬。村々から奉納され、た馬を追いたてて競争する行事らしい。
派手な色の揃いの衣装で駆けていく男衆の迫力を描くことで、馬の躍動感表現に替えた訳である。これはお祭りだと頭で理解すると、俄然、画面が動き出すということ。

(ご注意)
本稿の意図は、マインドセットからの解放につながるような、鑑賞手引きの提供です。こんな話に興味を覚える方のためのもので、浮世絵の素人芸術論を展開している訳ではありません。尚、現段階では、ウエブ上の閲覧対象としては、アダチ版画拡大版をお勧めします。


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