■■■ 北斎と広重からの学び 2013.2.4 ■■■

   材木置き場が見えるシーン

材木商は豪商であり、大衆向け出版物である浮世絵が、材木町辺りを題材にしない訳にはいくまい。

○葛飾北斎 富嶽三十六景 「本所立川」
本所の竪川筋に並ぶ材木問屋が題材。絵は、材木作りの仕事場である。材木職人達がきびきびと働いており、それ自体が美しく仕上がっている。使い勝手のよい汎用形状の材木を直方体状に乱れなく高く積み上げ、長い角材を直立して保管している情景も素晴らしいものがある。プロフェッショナルの生み出す成果の美を見出すことができよう。
これは、機能美という手のものではなく、他のことなど忘れ、自分の仕事をとことん追求する職人魂の凄さからくるもの。北斎はそこに共感を覚えるのであろう。
材木の書き込みに、版元名や住所、「新板三拾六不二仕入」が見えるのが愉快。

○広重 東海道五十三次 「吉田(豊川橋)」
タイトルは橋だが、絵を見ると大名行列が通行中なのがかろうじて分かる程度にしか描いていない。明らかに添え物。目立つのは改修中の吉田城と広々とした豊川の水面の方。
お城には、高い所まで丸太の足場が組まれており、3人の職人が働いている。チームで動いている訳ではなく、鳶は遠くを眺めているし、二人いる左官はバラバラに仕事中。この情景も、これといった印象を与えるまでの存在感は無い。従って、どうしても足場の木ばかり目に付く。
それは、対岸に見える宿場町に材木町が同居しているからでもあろう。相当な材木量である。そうなると、絵とは違い、豊川は奥三河から流されてくる原木で満杯だった可能性もある。
それともう一つ垂直の線として、川舟の帆柱があげられる。
これらは、どうも風景にしっくりこない。存在を自己主張している感じがするからだ。そんな印象を与えるのは、上空の空間を恐ろしく広くとっているせい。
人の活動が小さなものにすぎないと言いたいのかも。

(ご注意)
本稿の意図は、マインドセットからの解放につながるような、鑑賞手引きの提供です。こんな話に興味を覚える方のためのもので、浮世絵の素人芸術論を展開している訳ではありません。尚、現段階では、ウエブ上の閲覧対象としては、アダチ版画拡大版をお勧めします。


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