■■■ 北斎と広重からの学び 2013.2.7 ■■■

   海路の船

船そのものに焦点を当てている絵は意外と少ない。大都会の需要に応えるために船によるヒトとモノの輸送は急増していた筈であり、船への関心は高かったと思うのだが。
ただ、商業的成功を考えれば、絵の題材としては、海よりは、圧倒的に山になるのは致し方ない。猫も杓子も「山へのお参り」状態だったからだ。
ということで、船にどんな思いがあったか、絵を眺めてみることにした。

○葛飾北斎 富嶽三十六景 「上総ノ海路」
「上総ノ海路」という題名だと、日本橋/江戸橋の専用河岸と木更津港を定期航行する川船兼用船と考えがち。しかし、絵の船はそんなものではない。帆柱は高いし、橋の下を通れそうにない。風で膨らむ帆は大きく、外洋用の大型貨客船。まあ、そんなことはどうでもよかったのかも。それに、一見すると随分と精緻に描いているようだが、よくよく見ていると、物理的になんとなくおかしな感じがしてくる。故意に歪めて描いている可能性もありそう。なにか仕掛けがあるのかも。
眺めから判断すると、ここは浦賀水道辺りのようだ。ほとんど湾口だが、不思議なことに波静か。それは、水平線に視線を集中させようとの魂胆。
とにもかくにも、ここで驚かされることになる。水平線が弧を描いているからだ。新時代の息吹を感じさせようという訳である。

○広重 東海道五十三次 「桑名(七里渡口)」
これは正しく観光宣伝用イラスト。
桑名城を望む船着場に2艘の大型帆船が着岸する、「渡口」そのものずばりの図である。
帆を降ろし、船頭が鉢巻を締めなおし、いよいよ最後の一仕事というところ。一方、乗客達は、すし詰め状態だったにもかかわらず、七里の航行に十分堪能した模様。
次々と船は発着。

(ご注意)
本稿の意図は、マインドセットからの解放につながるような、鑑賞手引きの提供です。こんな話に興味を覚える方のためのもので、浮世絵の素人芸術論を展開している訳ではありません。尚、現段階では、ウエブ上の閲覧対象としては、アダチ版画拡大版をお勧めします。


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