■■■ 北斎と広重からの学び 2013.2.10 ■■■

   旅での驚き

「自然の驚異」という言葉がよく使われるが、様々なレベルをすべてこの言葉で現すのは適切とは言い難い。人の存在など消し飛ぶような、大陸的なものもあれば、珍しいというだけのものに、同じような感動を覚えるとは思えないからだ。日本のような、箱庭的景色の場合は後者がほとんど。前者の感動と比べるべくもないのだが、そこには人間臭さもあるため、それなりの情緒感を生み出すため、これはこれでなかなか良いものなのである。
その辺りの機微をついた作品を取り上げてみたい。

○葛飾北斎 富嶽三十六景 「甲州三嶌越」
誰だって、巨木に出会えば、その存在感に圧倒される。同時に、強い生命力をもつ巨木にあやかりたいと考える人が多い。
それが、盛夏の山道なら尚のこと。幹に触れ、その精気を感じたくなる。そんな感覚で、巨木を旅人達が手を回して太さを確認しようと試みているのが、この絵。
一方、見慣れている地元の人はそんなことはおかまいなしで、薪運びに精をだすだけ。裸足である。

○広重 東海道五十三次 「日坂(佐夜ノ中山)」
薄暗い急勾配の山道の鞍部に大きな丸石がゴロリ。それが絵の中心。
誰が見ても異様だが、これぞ、知る人と知る、伝説の「夜泣き石」である。
石を取り囲む旅人達はそれぞれ違った反応。
  ・傍らに立ち、冷静に観察する。
  ・そばに寄り、じっと見つめ、自分の想いを石に伝える。
  ・離れたところから、会釈し、敬意を払う。
  ・先を急いでいるが、気になるので、振り返って眺めたり。
石には文字が彫られていそう。ある種の鎮魂碑であるが、人工的な石碑でないところが人々に新鮮な驚きを与える訳だ。

(ご注意)
本稿の意図は、マインドセットからの解放につながるような、鑑賞手引きの提供です。こんな話に興味を覚える方のためのもので、浮世絵の素人芸術論を展開している訳ではありません。尚、現段階では、ウエブ上の閲覧対象としては、アダチ版画拡大版をお勧めします。


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