■■■ 北斎と広重からの学び 2013.3.5 ■■■

   流派作り

北斎と広重が有名になったからといっても、江戸期において、画壇で力を持っていたのは明らかに狩野派。室町幕府から江戸幕府まで、ほぼ4世紀に渡って、支配的な力を持つ血族画家集団である。
当然ながら、流派維持のためには、絵手本(粉本)主義となるし、相伝的な筆法習得をなによりも重視せざるを得ない。しかも、当主が一切をとりしきる。乱れを生みかねない、絵師の個性表出はタブーだったに違いない。しかし、だからこその安定。幕藩秩序維持の上でも、狩野派支配体制は好都合だったろうし。
当然ながら、こうしたしがらみを嫌う絵師がいておかしくないが、いかんせんパトロン不在ではどうにもならない。しかし、町人が裕福になり、都市化が進むと、障壁画中心の世界から、町屋向けの絵画の市場が広がってくる。狩野派もこれに対応し、奥絵師(4家)、表絵師(15家)、町狩野という、ピラミッド型ヒエラルキーの大組織を作り上げた。画家集団は産業を形成するまでに至った訳である。
 ***系譜***
  正信−嫡男・元信−三男・直信(松栄)−嫡男・永徳(州信)
   −長男・光信/次男・孝信−
     +(光信嫡男・貞信---早世)
     +[中橋・宗家] 孝信三男[貞信養子]・安信
       −嫡男・時信−嫡男・主信
     +[鍛冶橋・分家] 孝信長男・探幽(守信)
     +[木挽町・分家] 孝信次男・尚信
       −[浜町・分家] 尚信長男・常信の次男・岑信

ここから逸脱した一匹狼的絵師もいるが、北斎、広重は勃興した派閥に属することになった。広重の場合は歌川一門である。都市化の流れに乗って、大衆向け浮世絵出版業界の圧倒的主流派の地位を占めた流派だ。特に版画はギルド組織からなる分業システムだから、飛び抜けて強力な集団にのし上がったと思われる。その結果、組織防衛上、閉鎖的文化が蔓延していたと思われる。特に、「役者絵」というドル箱ジャンルではそれが通用しそう。
広重はその組織文化にどっぷり漬かっていたのは間違いなさそう。人気絵師ではあったが、豊国似顔絵、国芳武者絵、広重名所絵という順の3番手でしかなく、流派の総帥になる可能性はなかったから、自由の道を選ぶこともできた訳だが、生活防衛上ギルド組織脱出は難しいということなのだろう。
結局、歌川一門隆盛に尽くしながら、自らの分派をつなぎとめる方向に進んだ訳である。
 ***系譜***
  歌川豊春−豊広−[嫡男]豊清
  +{豊春門下]豊国−二代目(豊重)、三代目(国貞)、国芳
    +{豊広門下]広重−二代目([入婿前]重宣)−三代目([入婿後]重政)−
       四代目(菊池貴一郎)−五代目(菊池寅三)

ちなみに、大衆向け版画絵師の元祖的存在の菱川師宣の場合は、流派としての伸張という方向には進まなかったようである。というか、仕組み作りの人達の集団ではなかったということだろう。
まあ、歌川派に組織的に対抗できたのは、歌舞伎界とのコネで、芝居専属的絵師集団の道を追求した鳥居一門くらいかも。1687年に江戸に移住してきた鳥居清元から、大看板絵と番付絵製作の家として、現在の九代目まで3世紀に渡りそのお家を守ってきたのだから。

さて、北斎だが、どうも、この手の組織文化とは折り合いが悪かったようである。勝川一門に入って春章から春朗との号をもらったにもかかわらず、1794年破門されているからだ。死罪まで出すことになった狩野派との関係を知りながら、係わりをもったので怒りをかったのかも。尚、二代目春朗は存在するようだ。
 ***系譜***
  宮川長春−(勝)宮川春水−勝川春章−春亭−2代目−春雪
そこで、江戸の琳派絵師の頭領、二代目俵屋宗理となる。ところが、すぐに三代目に画号を譲渡。大衆的な版画を描けず、狭い装飾的絵画の世界に埋もれている流派のなかで生きていける訳がない。組織人ではないのである。狩野派の理不尽な横暴に「勝」ったと自負する勝川流になぞらえるげき、組織に「勝つしか」ないと考え葛飾を名乗ることになっただろうか。と言っても、ご存知のように、画号を次々と変えていく絵師である。弟子の数は多かったが、流派として維持していくことにさしたる関心はなかったようである。息子二人は画業と無縁だし。二代目(鈴木北斎,橋本北斎)もいたようないないような。おそらく、閉鎖的で増殖するだけの組織は肌に合わなかっただろうから、緩い絵師集団だったのだろう。画号も気楽に弟子に売っていた可能性がありそう。
もともと、門下生でないと練習用のお手本下絵も手に入らないような閉鎖的な業界だったから、そんな状態にもちろん批判的。たからこその「北斎漫画」執筆である。


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