■■■ 北斎と広重からの学び 2013.3.7 ■■■ 名所絵の「ゴール」拝見 「東海道五三次」で名所絵随一の絵師という評判をとった広重(1856年没)だが、その先、どのような作品に結実しているか見ておこう。その場合は、文句なしに、「名所江戸百景」(1856年から)だろう。 目録に「一立齋廣重 一世一代 江戸百景」と記載されているから凄い。還暦辺りからコレラで死ぬ直前までの僅か2〜3年間に於ける作品なので、言葉の綾的なニュアンスもなきにしもあらずだが、木版画の技巧という点で眺めれば、誰が見ても頂点を極めた作品。大袈裟な表現でもなかろう。なにせ、素人が見ても、技術の大幅な進歩がありありなのだ。 ・彫り超細密化 ・様々な刷り技法駆使(超多重刷り) ・混合色や雲母配合による綿密な彩色 まあ、簡単に言えば、超高級仕様ということ。実物を見れば一目瞭然。 それに、よく見かける追善絵は、剃髪した僧侶姿。還暦を迎えて、心機一転し、覚悟の上で名所絵に全精力を傾けた可能性は高い。そう思わせるのは、「東海道五三次」と異なる点がありすぎるからだ。 一つ目は、横用紙から、縦用紙へと転換したこと。 遠近法を駆使した風景画なら、前者を選ぶのが普通。ただ、それは西洋風であるのは間違いないが。ただ、和の伝統でも、屏風絵や絵巻物のようなお話やパノラマビューなら横幅が広い方が描きでがある。それを止めたのだから驚き。 風景を役者絵のような肖像画的なものにしようと考えたのかも知れぬ。 二つ目は、人がいないというか、登場人物が生み出す情感が感じられない点。鳥瞰的な渡し場や、遠景パノラマでは、そうならざるを得ないが、それ以外ではヒトのぬくもりを大事にしてきた絵師だった筈。従って、方針の大転換と言えよう。 もちろん、人の姿が見えない訳ではない。と言うか、人の存在はわかるのだが、蟻のように小さかったり、少し大きめだと後向きだったり、傘で頭が隠れていたりする。大きく描かれている場合は、それこそ手足だけだったり。例外はあるが、ヒトはあくまでも風景のつけたしでしかないのである。 これに関連して、三つ目としてあげておけば、例外的に顔を見せている登場人物の選び方。夜鷹や芸姑、芸者が入っているのである。 こうした風俗は、避ける体質かと見ていたが、心変わりしたのかも。とはいえ、こうしたヒトはあくまでも風景の小道具でしかないが。にもかかわらず気になるのは、遊女達が自立して生きている姿を描こうという姿勢に転じたように映るから。 人物を直接描かず、障子に映る影や、簪と猫で、遊女の生き様を想像させるような手も使っており、風景画でありながら、格調高い風俗画になっているとも言えそう。 還暦で、ふっきれたのかも知れない。 四つ目は、自らのイマジネーションで生み出したシンボルを前面に出す冒険に挑戦したこと。 言うまでもないが、シンボルといっても名所とは無関係な代物。絵師の情念の表出物である。実は、これこそが、縦用紙にこだわった所以。シンボリックなモチーフを風景の最前面に打ち出すには好都合なのである。 常識的には、「狐火」を取り上げたり、画面の上部を急降下する鳥が占める構図設計の絵が、名所絵と呼べる筈がない。 五つ目は、名所と称しながら、超有名な場所を避けている点。武家に関係する場所を扱わないようにするのは当然だとしても、余りに露骨な選択。例えば、目黒のお不動さんは誰でもが知っていた筈だが、登場するのは人工造形物の富士塚であり、それも2箇所とくる。関口から高田辺りを取り上げるなら、護国寺や雑司ヶ谷鬼子母神こそ名所として選ぶのが普通だろう。根津や白山の権現様もよく知られているが、日暮里から千駄木辺りの方がお好みなのである。人気があった、赤坂の豊川稲荷や虎ノ門の金毘羅社も選んでいないし。富士山あるいは筑波山の眺望や、愛でる花がないということでもないだろうが。(富士山登場は24シーン。筑波山は11。) それと、江戸域外の市川を含めているのも解せぬところ。川口や羽田の渡しもわざわざあげるほどでもなかろうと思うのだが。 ともあれ、現代の観光にも使われるのだから、たいしたものである。 -----「名所江戸百景」----- <<<北行 日光街道等>>> ○日本橋 (001)日本橋雪晴[春・雪・富士山] (008)する賀てふ[春・富士山]三越本店 ○神田 (076)神田紺屋町[秋・富士山] (009)筋違内八ツ小路[春]旧万世橋駅 (010)神田明神曙之景[春] ○湯島 (118)湯しま天神坂上眺望[冬・雪] ○上野 (013)下谷広小路[春]上野広小路の松坂屋 (012)上野山した[春] (011)上野清水堂不忍ノ池[春・桜] (090)上野山内月のまつ[秋] *上野の谷中側から王子を経て川口 ○日暮里−千駄木 (014)日暮里寺院の林泉[春・桜] (015)日暮里諏訪の台[春・桜・筑波山] (016)千駄木団子坂花屋敷[春・桜] ○王子=石神井川下流 (017)飛鳥山北の眺望[春・桜・筑波山] (018)王子稲荷の社[春・筑波山] (019)王子音無川堰棣[春・桜] (047)王子不動之滝[夏] (089)王子瀧の川[秋・紅葉] (119)王子装束ゑの木大晦日の狐火[冬] ○荒川(岩淵-舟戸) (020)川口のわたし善光寺[春] *上野から昭和通り北行で千住大橋 (103)蓑輪金杉三河しま[冬]三ノ輪 (104)千住の大はし[冬] <<<北行 隅田川(両国から上流)>>> ○日本橋−両国橋−吾妻橋 (001)日本橋雪晴[春・雪・富士山] (008)する賀てふ[春・富士山]三越本店 (007)大てんま町木綿店[春]人形通り (075)大伝馬町ごふく店[秋] (006)馬喰町初音の馬場[春] (054)両国橋大川ばた[夏] (005)両ごく回向院元柳橋[春・富士山] (069)浅草川大川端宮戸川[夏・筑波山] (099)両国花火[秋] (055)浅草川首尾の松御厩河岸[夏] (106)御厩河岸[冬] (056)駒形堂吾嬬橋[夏] (039)吾妻橋金龍山遠望[春・富士山] (034)真乳山山谷堀夜景[春] (092)請地秋葉の境内[秋・紅葉]向島秋葉神社 ○浅草界隈 (100)浅草金龍山[冬・雪]浅草寺 (091)猿わか町よるの景[秋]浅草六丁目 (101)よし原日本堤[冬] (102)浅草田甫酉の町詣[冬・富士山]吉原妓楼・大鳥神社 (038)廓中東雲[春・桜] ○吾妻橋−鐘か淵 (037)墨田河橋場の渡かわら竈[春・筑波山] (036)真崎辺より水神の森内川関屋の里を見る図[春・梅・筑波山] (035)隅田川水神の森真崎[春・桜・筑波山] (093)木母寺内川御前栽畑[秋] (070)綾瀬川鐘か淵[夏・合歓の木]綾瀬川・隅田川・荒川の合流点 ○川向こう (057)堀切の花菖蒲[夏・菖蒲] (033)四ツ木通用水引ふね[春]越谷からの水路 (094)にい宿のわたし[秋]新宿、中川の対岸は亀有 <<<千葉県側>>> (095)真間の紅葉手古那の社継はし[秋・紅葉・筑波山]市川真間 (096)鴻の台とね川風景[秋・富士山]市川国府台 <<<東行 日本橋川>>> (004)永代橋佃しま[春] (045)鎧の渡し小網町[夏] (001)日本橋雪晴[春・雪・富士山] (043)日本橋江戸ばし[夏] (063)八ツ見のはし[夏・富士山]呉服橋交差点 <<<東行 永代通りから葛西橋通り>>> (001)日本橋雪晴[春・富士山] (045)鎧の渡し小網町[夏] (004)永代橋佃しま[春] (060)深川八まん山ひらき[夏]深川富岡八幡宮 (072)深川三十三間堂[夏]江東区富岡二丁目 (107)深川木場[冬・雪] (029)砂むら元八まん[春・桜]深川洲崎 (062)利根川ばらばらまつ[夏]妙見島 (097)堀江ねこざね[秋・富士山]浦安市猫実 <<<東行 隅田川−小名木川>>> (053)大はしあたけの夕立[夏]新大橋 (068)みつまたわかれの淵[夏・富士山]日本橋中洲の分流点 (052)深川萬年橋[夏・富士山]小名木川西端 (108)深川州崎十万坪[冬・雪・筑波山] (098)小奈木川五本まつ[秋] (071)五百羅漢さゞゐ堂[夏]江東区大島三丁目 (061)中川口[夏]小名木川・中川・新川の合流点 <<<東行 隅田川−曳舟川−亀戸>>> (105)小梅堤[冬]押上・曳舟川 (032)柳しま[春・筑波山]墨田区業平五丁目 (058)亀戸天神境内[夏・藤] (030)亀戸梅屋舗[春・梅] (031)吾嬬の森連理の梓[春]墨田区立花一丁目 (059)逆井のわたし[夏]亀戸七丁目 <<<東行 湾岸>>> (109)芝うらの風景[冬] (078)鉄砲洲稲荷橋湊神社[秋・富士山]中央区女性センター (079)鉄砲洲築地門跡[秋] (051)佃しま住吉の祭[夏] <<<西行 神田川(上水)>>> (046)昌平橋聖堂神田川[夏] (064)水道橋駿河台[夏・富士山]本郷富士見坂 (040)せき口上水端はせを庵椿やま[春・桜] (116)高田の馬場[冬・富士山] (117)高田姿見のはし俤の橋砂利場[冬] (088)井の頭の池弁天の社[秋]井の頭公園 <<<西行 市ヶ谷−赤坂>>> (066)糀町一丁目山王祭ねり込[夏]半蔵門 (041)市ヶ谷八幡[春・桜] (086)紀ノ国坂赤坂溜池遠景[秋] (048)赤坂桐畑[夏]山王 (049)赤坂桐畑雨中夕けい[夏] <<<西行 玉川上水(新宿−吉祥寺)>>> (087)四ッ谷内藤新宿[秋] (042)玉川堤の花[春・桜]新宿御苑正門 (065)角筈熊野十二社俗称十二そう[夏]新宿中央公園 (088)井の頭の池弁天の社[秋]井の頭公園 <<<南行>>> ○日本橋−銀座中央通り−日比谷公園 (001)日本橋雪晴[春・雪・富士山] (044)日本橋通一丁目略図[夏]コレド日本橋 (074)市中繁栄七夕祭[秋・富士山] (077)京橋竹がし[秋] (115)びくにはし雪中[冬・雪]銀座一丁目西銀座ランプ (003)山下町日比谷外さくら田[春・富士山]泰明小学校 ○桜田通り (067)外桜田弁慶堀糀町[夏]桜田門 (002)霞がせき[春]国会下霞ヶ関官庁街 ○新橋−虎ノ門 (113)愛宕下薮小路[冬・雪]西新橋一丁目と虎ノ門一丁目の間 (114)虎の門外あふひ坂[冬] ○芝 愛宕山 (021)芝愛宕山[春] ○芝 増上寺 (080)芝神明増上寺[秋] (050)増上寺塔赤羽根[夏]赤羽橋 ○金杉橋 (081)金杉橋芝浦[秋]第一京浜と古川*の交差地点 *古川沿いから西へ* ○古川橋 (022)広尾ふる川[春]上流は渋谷川、下流は赤羽川 ○山手通り中目黒近辺 (024)目黒新富士[春・桜・富士山]中目黒2丁目別所坂 (025)目黒元不二[春・桜・富士山]上目黒1丁目目切坂 (085)目黒爺々が茶屋[秋・富士山]三田茶屋坂 (023)目黒千代か池[春・桜]三田公園 (112)目黒太鼓橋夕日の岡[冬・雪]下目黒1丁目行人坂下 ○洗足 (111)千束の池袈裟懸松[冬] *第一京浜を南へ下る* ○品川駅付近 (082)高輪うしまち[秋]泉岳寺駅 (083)月の岬[秋] (084)品川すさき[秋]東品川一丁目利田神社 (028)品川御殿やま[春・桜] (110)南品川鮫洲海岸[冬・筑波山]東大井一丁目 ○大森−蒲田−羽田 (026)八景坂鎧掛松[春]大森駅西口 (027)蒲田の梅園[春・梅] (073)はねたのわたし弁天の社[夏]対岸は川崎大師 (番号は目録季節区分順) 春の部[001-042]、夏の部[043-073]、秋の部[074-099]、冬の部[100-119] 北斎と広重からの学び−INDEX >>> HOME>>> (C) 2013 RandDManagement.com |