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■■■ 北斎と広重からの学び 2014.9.22 ■■■


北斎的コンポジション[続]

先日、「冨嶽三十六景」全46枚を見に行ってきた。(@熱海MOA美術館)

観賞のテーマ別に並べてあり、それぞれのポイント解説がわかり易い。
  ・藍摺の魅力 相州七里濱, 甲州石班澤, 常州牛堀
  ・富士山信仰と旅 諸人登山, 等々
  ・三大傑作 神奈川沖浪裏, 凱風快晴, 山下白雨
  ・奇抜な構図の面白さ 尾州不二見原, 江戸日本橋, 等々
  ・表富士と裏富士 輪郭線藍摺り v.s. 黒摺り
  ・生き生きとした人物描写< 穏田の水車, 等々

保存状態が良い実物に、十分に明るい環境で接することができるのが、なんといっても嬉しい。

題名が「富嶽」とされていても、富士の山体そのものを描いた作品シリーズではないということに気づかされるのも愉しい一時である。なにせ、ほとんどは、人々の日々の生活を対象とした絵なのだから。富士の姿は極めて小さく、一種の花押のような印象さえ。
そういう意味では、不二信仰とはなにかを、思わず考えさせられる作品群とも言えよう。
この辺りが広重の姿勢と異なる点でもあろう。

藍一色の作品もよいものである。
特に、甲州石班澤の素晴らしさは実物を見なければわかるまい。
濃淡から生まれる立体感の素晴らしさもさることながら、モノトーンがかえって色彩を感じさせることに気づかされる。そこには、洒脱な日本的侘び寂び感があるようにも思える。
アクリル絵具の水墨画たる、千住博「ウオーターフォール」(1997)とも共通な精神が通い合っていそう。

解説パネルで、北斎漫画の図絵を用いて解説されているせいもあるが、一通り眺めると、「斬新で大胆な」構図の素晴らしさを堪能した感が生まれる。
もっとも、解説図絵のお蔭で、徹底的に計算された構図であることに気付いたという訳ではなく、そんなことを感じさせないからこそ素晴らしいのである。

構図と僅かな色数でのベタ塗り彩色と言えば、Piet Mondrian(1872-1944)の「コンポジション」が頭に浮かぶが、それは小学生でも定規を使えば描けそうな抽象画。

こうした類の絵は実物の質感なくしては、さっぱり面白味というか、美しさはわからない。圧倒的なデッサン力があり、様々な表現技法にも卓越してる画家の作品であることがわかるのは実物に接して初めてわかること。

人によるだろうが、そこから浮かぶ情景とは、ニューヨーク的都会の風景かも知れぬ。絵の写真だと単なるイラスト以上でも以下でもないが。

北斎のコンポジションと言えば、目立つのは西洋からの遠近法導入だが、本来の意義である奥行き感を出すために使ってはいないようだ。この画法の本質は、地平線を提示することにありと看破したようで、それはある意味、世界をどう見ているのかという思想を反映しているから、そんな観点で遠近法を用いるべしという発想がありそう。
それが宗教観からきているのか、美的センスなのかはわからぬが、それが「冨嶽三十六景」の魅力だろう。

同じ遠近法でも、「東海道五十三次」とは一味も二味も違うのは、そのせいでは。

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