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■■■ 絵が語る 2015.12.29 ■■■


猫絵話

猫の写真も悪くないが、[→2015.8.4]思想性を感じさせる絵画は素晴らしい。現代的な<Pop Art>ネコ画も結構楽しいものである。
"The Colorful Cats of Andy Warhol"Thu, Jan 28, 2010@MODERN CAT

しかし、ネコのみだと、絵画の面白味に欠ける。女性が入るとそのインパクトは強烈なものとなる。けだるいというか、無為に時間を潰す姿を描いた<Victorian Neo-classicist>調の絵画での猫の存在は秀逸。
John William Godward "The Tease, The Favourite, Idleness I/II"

ただ、成熟した女性よりは、少女と猫のモチーフの方が基本的モチーフのような気がする。ルノワールの絵の印象が強いのかも知れぬが。
 オーギュスト・ルノワール「ジュリー・マネの肖像、あるいは猫を抱く子供」
 レオナール・フジタ「猫を抱く少女」
 ピエール ボナール「子供と猫」[→]

理由は知らぬが、印象派の画家には猫好きが多かったようだ。 (James H. Rubin:「Impressionist Cats and Dogs: Pets in the Painting of Modern Life」 Yale University Press 2003)
キャバレー遊びと関係しているだけの可能性もありそうだが。
Theophile Alexandre Steinlen「Le Chat Noir」

そんな観点から言えば、裸婦と猫が本流と見るべきか。
Edouard Manet「Olympia」
Léonard Foujita/藤田嗣治「femme nue à la tapisserie/タピスリーの裸婦」 (C)Foundation Foujita / ADAGP
さらに付け加えるなら、少女の危うさを描いたBalthus「Thérèse Dreaming」も独特な位置を占めていると言えそう。
鈴木布美子:"猫と少女から見る、巨匠バルテュスの世界"@CREA

ともあれ、ネコ絵は相変わらず人気を集めているようだ。

2014年春に松濤美術館が開催した「ねこ・猫・ネコ」展 [→]は大入りでカタログも早々と完売。
ただ、少々真面目すぎるきらいはある。
今の流行りは、猫を全面に出さないが、それとなく画中に潜り込ませている<泰西猫名画>の鑑賞や、有名画に無理矢理猫を描き加えた<古今東西名画の猫パロディー絵>の方に移行しつつあるからだ。

確かに、後者など思わず吹き出してしまうものが多い。
そんな絵にご興味おありの方は、画家とのインタビュー記事に目を通されることをお勧めしたい。もちろん文字ではなく、絵の方。
そのアーティストとは、モナリザが抱くデブ猫の絵で知られるロシアのオンライン作家、Svetlana Petrovaさん。モデルは亡くなった母親の愛猫Zarathustraだそうである。
"The paintings 'made better with cats'" By Genevieve Hassan BBC News 27 May 2014
気に入ったらギャラリー拝観も楽しかろう。
"Fat Cat Art"

この手の絵にもともと関心をお持ちだと、こちらのアーティストも加えておくべきか。代表的な出版物はこんなところ。・・・
Susan Herbert:
  「Cats Galore―A Compendium of Cultured Cats」 Thames & Hudson 2015
  「The Cats History of Western Art」Bulfinch Pr 1994

上記最新刊本表紙はフェルメールブルー。[→]

マ、<泰西猫名画>は解釈は色々と可能。素人話もナンダカネになりかねないので、ここでは取り上げないことにしよう。もっとも、上記の猫と女性は、そこに含まれていると言えなくもないが。

日本のネコ絵も引いておこう。・・・

   ネコにくらべてイヌは人間の言うことに気をつかうので
      それほど好きではありません

  →「画文集 熊谷守一の猫」 求龍堂 2004年
  →竹内栖鳳「斑猫」@山種美術館
     〃「徽宗猫図模本」
     〃「白き猫」
  
→[重要文化財] 菱田春草「黒き猫」
  →加山又造「猫」@成川美術館
  →小林古径「猫」@山種美術館
  岸田劉生「猫図」, 等々。

浮世絵を除外したままで終わる訳にもいかないので、簡単に触れておこう。

江戸時代は猫浮世絵大流行だったようで、そのなかでもねこ絵師と言えば、歌川国芳。パロディにもことかかないが、他の絵を茶化するより、ママで笑わせる手で勝負をかけたようだ。
膨大な数の作品のなかから代表作を選ぶのは難しいが、「其のまま地口猫飼好五十三疋」と「鼠よけの猫」か。
「浮世絵猫百景ー国芳一門ネコづくしー :2012年」@太田記念美術館

当然、少々危ない絵も少なくない訳だが、「オランピア」の黒猫に対応する作品としては、歌川広重「名所江戸百景 浅草田圃酉の町詣」 [→]の白猫があげられようか.人は存在せず、猫が窓の外を眺めているだけだが。

浮世絵のパロディもあげておこう。
東海道五拾三次大磯宿の絵を背景にした上半身裸の行水中の浮世絵がある。渓斎英泉「美人東海道 大磯驛 九」(濡色に曙寒し若葉山)。艶めかしさがウリのシリーズもの。歌川広重はこの猫パロディ版を仕上げている。ワッハッハもの。(www.ccma-net.jp/search/index.php?app=shiryo&mode=detail&list_id=60407&data_id=4302 www.intofineart.com/upload1/file-admin/images/new11/Hiroshige,%20Ando-533459.jpg)

こうした猫絵ブームはかなり長く続いたようである。国芳の系譜に属す、月岡芳年「見立多以盡 とりけしたい」[→]のような方向に進んだようである。絵に登場する女性が読んでいる「かなよみ」とは仮名読新聞。おそらく、連載物の「猫々奇聞」に関心がある訳だ。この新聞、例えば、"腹の上野の交艶地 臍の下谷の池の端"と言った調子。言うまでもないが、猫とは芸妓のこと。
(画中文章) 出て三日人なら如何に猫の恋。と故人もいひし早咲の。梅も盛のつく頃に。墨田の上流の夜泊ハ。足もと暗き朧月に。顔をそむけて忍びがえし。浮雲くわたる糸爪を。研や。遂ぞや。挑まれつ争みつ狂ふ恋中の。嗅出されてハ最う仮名讀の。先生實に情ないといはん。 転々堂主人戯誌◇
(参考)
ありとある見立てにも似ず三日の月[芭蕉]
猫の恋やむとき閨の朧月
室の早咲きそれがほんの色ぢゃ{鐘ヶ岬/道成寺]
(かなよみを立ち上げた人物の他の企画)
仮名垣魯文「珍猫百覧会開筵」/歌川広重「百猫」

愛すべき明治のねこズ。@国文学研究資料館

とりあえず、こんなところまででお開き。

【参考】
シュー・ヤマモト(山本俊一):
  「ART BOX フェルネーコ」 講談社 2015年
  「ニャーヴル美術館 ねこあーと in ルーヴル」 講談社 2015年
  「キャット・アート―名画に描かれた猫」 求龍堂 2012年
マイケル・パトリック/Michael Patrick[柳瀬尚紀訳]::
  「名画に迷い込んだ猫」 河出書房新社 1999年

赤瀬川原平(尾辻克彦)::
  「ニャーンズ・コレクション MUSEUM OF MATATABI ART」 小学館
井出洋一郎::
  「名画のネコはなんでも知っている」 エクスナレッジ 2015年

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