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2004.7.22
 
 


Samsung 成功の教訓…

 Forbes Magazine 2004年7月26日号に、「Samsung's Next Act」(Heidi Brown/Justin Doebele 著)との記事が掲載されている。
 2004年第1四半期の利益が、Microsoft、IBM、Intel を越えたことで、その経営の秘訣に迫ったものである。

 10年前は、Samsung は、携帯電話業界のプレーヤーというだけだったが、今や、リーダーの一角を占めている。2010年までには、世界1を目指すそうだ。驚異的な躍進といえる。
 新製品開発期間も5ヶ月まで短縮され、450人もがデザインに注力しており、魅力的商品といえばSamsung 製と呼ばれるようになるよう、ブランド育成にも徹底的に注力している。
 米国では、この成果が如実に現れている。
 競争相手のMotorola は、収益性向上のため製品ラインを絞り込んだため、Samsung 製品のバラエティ化が目立つ。おそらく、投入モデル数は、Motorola の3〜4倍に達しているだろう。
 この結果、多機能なSamsung 製品が市場に浸透し、平均価格もMotorola より高価格になっている。当然ながら、Samsung の方が高収益である。

 要するに、Samsung だけが、最先端のCDMAケータイの開発要請に応えられる力を持っていたのである。Motorola やQualcomm のパートナー企業達のように、独自技術で勝負はできなくても、新製品開発競争のトップランナーになることで、他社を蹴落としたのである。
 つまり、開発エンジニア/デザイナー集団を一気に巨大化させ、市場のニーズに応える体制をとったのである。このマネジメントの決断が勝利に結びついたといえよう。攻めの経営を続けている訳だ。

 日本企業のマネジメントは、こうした話しを聞くのが嫌いである。マネジメント力が欠けていると指摘されかねないからだろう。しかも、語りたくても、語れないタブーもある。
 どう見ても、Samsung の飛躍を支えたのは、韓国の通信インフラだからだ。
 国内向けの最先端製品を開発して、市場の商品に対する反応を見ながら、米国市場に持ち込む体制が作れたことが、大きい。かつての、日本のAV 商品のパターンと同じである。通信インフラを整え、高機能商品を好むリードユーザが存在している韓国と、音質そのものが悪く、発展余地も無い、日本独自規格の日本では、スタート時点ですでに勝負がついていたのである。

 かつてのSamsung のイメージは、DRAM のようなコモディティ製品メーカーだった。面白みを欠く、安さだけを取り柄とするような企業だったと思う。
 これが大変身を遂げたのである。

 この成功の秘訣を1つにまとめれば、企業に走る緊張感だろう。  Jong-Yong Yun副会長/CEOの発言が引用されているが、この考え方がすべてを物語ると言えそうだ。
 世界の強豪を上回る収益をあげるようになっていても、未だに、SONY より、Samsung の方が心配だという。明日にも破産する可能性あり、との気持ちで経営を進めているそうだ。

 効率性とスピード経営を旨とし、人を育て、常に挑戦を続けているのだ。これを見ていると、日本の優良企業とよく似ていることに気付く。
  → 「危機感の重要性」 (2004年5月25日)

 ドライで厳しい人の管理をしていると言う人が多いが、それは人の力を生かすべき施策ともいえる。  Byung-Chull Lee 創業者のマネジメント思想「A Company is Its People」が生きているのだろう。(1)

 儒教の影響が濃い社会で、実力主義の企業文化を作り上げたのだから、たいしたものである。
 社会通念を守るのではなく、信念のもと、リスクを省みず挑戦するからこそ、見返りが大きい訳だ。(2)

 実際、明日にも破産する可能性ありというのも、あながち誇張とも言えない。Samsung の戦略は、常識で考えれば、技術のリーダー以外は避けるべきものである。
 ケータイにしても、DRAMにしても、技術は進歩しているとはいえ、基本技術は成熟しているのだ。しかも、高い技術力を誇る競争相手に、後発が勝てる保証など無い。
 魅力といえば、今後も市場は膨らむという点だけである。しかし、いづれは伸びは鈍化する。
 こんな分野で後発から一気にトップを狙うのである。

 その方法は、ケータイでわかるように、ダイナミックなものだ。他社と比類すべきもない巨大な研究開発体制を構築し、膨大な一貫生産能力を持つ。これにより、巨大な需要に応えながら、次ぎ次ぎと新製品を上市していく体制を敷くのである。

 液晶にしても同じことである。大型ガラス基板による大量生産で圧倒的コスト競争力を発揮する目論みである。一気に大型化して、歩留まりが保てるか疑問も湧くが、競争に勝つためには挑戦以外の道は無いのである。(*)

 すべてが、一歩躓くことも許されない。正に、不退転の決意で臨まざるを得ない挑戦と言えよう。この緊張感が、この企業の生命線であることは間違いあるまい。

 --- 参照 ---
(1) http://www.samsung.com/PressCenter/images/Press%20Kit.pdf
(2) 洪夏祥著、宮本尚寛訳「サムスン経営を築いた男―李健煕伝」日本経済新聞社 2003年11月
  1987年、会長に就任した李健煕氏は、役職員に危機意識と認識の転換を促し、「第2の創業」を宣言した。
  1993年には、大企業病一掃を図り、「グローバル競争力を確保した企業でなければ21世紀には生き残れない」として、
   「妻・子供以外は全て変えてみよう!」をスローガンに、「New Management」運動を繰り広げた。

(*) 2004年に稼動したシャープ亀山工場は第6世代である。第6世代基板1枚からは32インチ板が8個、第7世代なら12個取りできる。
   亀山の生産能力は順次増強されるが5万枚未満のようだ。これに対し、サムスンは6万枚の予定である。


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