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2003.10.16
 
 


燃料電池車競争 (1:誰が顧客か?)…

 2003年10月、GMが日本の戦略提携企業3社とともに、「画期的な燃料電池コンセプト」を紹介すると発表した。 [GMテックツアー:有明TFTホールで開催]
 (http://www.fhi.co.jp/news/03_10_12/03_10_06c.htm)

 このため、マスコミもGMの技術をようやくとりあげるようになった。といっても、静かな報道である。
 (http://www.mainichi.co.jp/life/money/invest/0310/06/001.html)
 GMの燃料電池車は、都内でFederal Expressの配送業務(緑ナンバー)に利用されているのだが、二番手の取り組みだから、報道価値は小さいのだろう。

 燃料電池車に関する報道では、2002年が大騒ぎの年だった。燃料電池車発表競争に日本が勝ったといわんばかりの記事が氾濫した。
 確かに、年末までに、日本の3大車メーカーが国土交通省大臣から認定を受けることになったし、12月には、大々的な政府の納車イベントが行われたから、日本企業の底力が明かになったといえる。
 しかし、力量比較でいえば、欧米と拮抗していると見た方がよいと思う。
 DaimlerChryslerは11月にコンパクトカー(Aクラス)を発表しているし、GMも12月に「HYDROGEN3」(オペルのコンパクトバン「ザフィーラ」版 日本では富士重工「トラビック」で対応)の試乗会イベントを行ったからである。

 燃料電池車発売トップランナー競争はマスコミにとっては面白い題材だが、これは低公害エンジン搭載とは性格が異なる。競争の質が違うから、トップ争いにさしたる意味はないと思う。
 どう考えても、競争の勝利者は、100万台生産を先に実現し、業界標準を確立した企業だろう。最初に発売した企業が、その地位を獲得できる保証などどこにもない。

 そう思うのは、他業界の大乱戦を想起させるような、動きに映るからだ。
 コンピュータ業界のでのメインフレームからサーバ/クライアント(パソコン)への流れを見れば、先行者が有利だったとは言い難いのだ。。
 先駆けのAppleは結局はマイナーな地位に落ちこぼれた。先駆者で残ったのは、CPU周りの知的所有権で戦うことができたIntelだ。
 一方、トップランナーでもなく、資本力もなかった企業がトップに上り詰めている。キー顧客で急所を押さえ、力をつけた上で、産業の仕組みを変え、自社を優位な地位に導いたのだ。DellやMicrosoftといった企業である。
 同じことが、燃料電池車でもおきるかもしれない。

 そう考えると、成功するためは、以下の質問に明確に答えることが必要だと思う。

 ●誰がキー顧客か?・・・燃料供給インフラがなければ誰も買わないのだから、どこから立ち上げるかが、浸透の鍵になろう。
 ●どれだけ安く売れるか?・・・燃料電池駆動車では、今までの仕組みと全く異なるイノベーティブなマスプロダクションの仕組みが可能になる。

 まず、「誰が顧客か?」から考えてみよう。

 日本で、新しい燃料供給の仕組みをつくるなら、タクシーや小型貨物バンを対象としているLPGスタンドでの水素供給が一番の早道だと思う。
 ところが、日本では、先頭を切るべき領域を明確にして、市場を拓こうとの気概はない。すべての分野を対象として、様々な技術を試させるだけである。
 欧米の動きばかり気になるようで、間違っても遅れるな、という発想の動きに映る。ともかく手を出して技術だけは確保しようというのだ。一見妥当そうに見えるが、見方を変えれば、先駆けを抑える方針ともいえる。

 独自の将来ビジョンを作る能力を抑え続けてきたため、未だにこの流れが続いているようだ。

 そもそも、日本が最初の市場として適切かも疑問な点がある。短距離不規則走行が多すぎるからだ。
 お蔭で、発電以外にも、電気貯蔵の仕組みが必要となる。しかし、長距離でスムースな走行が基本なら、このような仕組みが無くとも機能する可能性が高い。

 つまり、ガソリン車が次第に水素燃料車に「代替」されていくとのシナリオが成り立つとは限らないのである。
 徐々に代替されていくなら、ハイブリッド車の意義は大きいが、現在の車とは異なるコンセプトの車が勝利を収めるかもしれない。
 様々な将来シナリオが考えられる。確実なシナリオなど1つもない。
 それなら、独自の魅力的なシナリオを発信して、産業界の流れを作り、社会の支持を得るよう努力するしかあるまい。
 どのシナリオにも対応できるように、頑張っているだけでは没落の道を歩みかねない時代といえよう。


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