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2008.10.30
 
 


水平対向エンジンの本の読後感…

International Engine of the Year 2008(1)
〜1 Toyota 直列3気筒
1〜1.4 Volkswagen 直列4気筒
1.4〜1.8 BMW-PSA 直列4気筒
1.8〜2 Volkswagen/Audi 直列4気筒
2〜2.5 Subaru 水平対向4気筒
2.5〜3 BMW ☆ 直列6気筒
3〜4 BMW V型8気筒
4〜 BMW V型10気筒
 2008年の“Engine of the Year”(1)の排気量2〜2.5リットルクラスに「水平対向4気筒」エンジンが選定された。車好きにはよく知られているが、水平対向エンジンを搭載しているのは、スバルとPorscheだけ。両者とも、このタイプにこだわり続けている。
 カーマニアを対象とした、商品の差別化という点では、えらくわかり易いやり方である。他のタイプとは、排気音がかなり違うから、「水平対向」大好きドライバーは離れなくなるとも言われている。そこだけ見れば、成功のパターンと言えないこともないが、技術の流れから見るとリスクが高い方針を貫いているのは間違いないと思う。ほとんどの企業が止めてしまった技術で作り続けるのは、たいていの場合、容易なことではないからだ。
 気になってはいたのだが、生憎素人で、技術雑誌を読む気もしないから、それっきりにしていたのだが、フリーランスライターの方が「水平対向エンジン」をまとめた本を出版されたので、ざっと眺めてみた。(2)

 う〜む。
 本を読んだ印象だが、このタイプの技術は、ビジネスマンなら避けて当然との感じがした。
 ただ、特段の知識を持っている訳でもなく、一冊の本を読んだだけの感想であるから、ポイントを外しているかも。それに、本自体にもバイアスされた意見が持ち込まれている可能性も否定できない。  しかし、冷静に考えれば、かなりのところまで状況は読み取れそうな感じがした。様々な経緯が記載されていたからである。

 経緯が記載されていると、細かなことがわからなくても、なんとなく全体像が見えてくる。大所をどう見るべきか、考えることができるからだ。
 例えば、スバルとPorscheを同じ「水平対向」だから、一緒にメリット/デメリットを考えても、たいした意味はないとわかってくる。もっとわかり易くいえば、軽飛行機やオートバイ用エンジンを含めたメリット/デメリットなど、自動車ビジネスにはたいした意味などなかろうということ。つまり、原理を踏まえることは重要だが、原理的なところばかりにかかわると、現実はかえってよくわからなくなってしまうということ。

 例えば、主流である「直列」方式にしても、10年前と現在が同じようなエンジンとは思えまい。原理的なデメリットがあろうが、それを乗り越える技術が登場すれば、実践的には優位になるということ。
 原理的に優れたタイプの液晶ディスプレーの事業が、結局のところ撤退に追い込まれた例を知らない人はいまい。ビジネスとはそういうものだ。

 そんな観点で本を読むと、「水平対向」を選ぶには、相当な勇気が必要であることがわかる。「水平対向」エンジンを核として素晴らしい車を作るという強い意志がなければ、とても踏み切れるものではないと思う。
 どうしてそう考えたか、マネジメント上問題がありそうな点を考列挙してみた。要するに、これらを突破できる自信がなければ、無難な「直列」路線を選ぶことになるのは必定。
 ・シリンダ部分が2つあり、部品が増えるのでコストが嵩む。
   -コストの塊に見える複雑なバルブ系が2つ必要となる。
   -燃焼コントロールは電子化されているので、
    調整点が離れたり、増えたりすると開発時間がのびる。
 ・この方式にのみ必要となる様々な技術は結構大変そうなものが多い。
   -シリンダーを横倒しにすると、潤滑油は重力でパン上に落ちない。
    このコントロール技術は複雑化しそうだ。
   -排気管の出口が分かれるから、配管部に工夫が必要となる。
    排気ガス浄化の仕組みが複雑化しかねない。
   -呼気側の空気の流れを確保するためのノウハウ蓄積が不可欠となろう。
   -配管設計によっては、重心を低くできるというメリットが失われかねない。
   -コンパクト化のためにシリンダ間隔を詰めることになる。
    クランクを留める部品を極薄化する必要に迫られよう。
 ・エンジンブロック軽量化メリットはそう大きなものではなさそうだ。
   -他のタイプは、カム構造やタイミング機構の簡素化余地がある。
    軽量化に注力すると差はつまる。
   -エンジン以外の重量を減らす効果はない。
 ・生産ラインを考えると、工数が増えそうな感じがする。
   -平坦な形状だから、組み立ての際に、裏返しや、下に潜る作業が発生するのではないか。
 ・車のデザイン上の制約が多くなりがち。
   -「直列」搭載の車に載せるのは無理だろうから、他社とのエンジン共通利用は極めて難しい。
   -幅が広いので、搭載できる車台も限られるから、生産ロットが小さくなりがち。
   -管の取り回し上、レイアウトの柔軟性に欠けていそうだ。
 ・構造上整備が厄介かも知れない。

 つまり、原理的には、縦振動は小さく、重心も低くできるとはいえ、そのメリットを生かせるかは、技術マネジメントの巧拙で決まるということに他ならない。
 逆の立場で考えればわかり易い。重心を低くしたいだけなら、「V型」を用いて車全体の設計を工夫してもできそうだし、振動なら、「直列」でカムを工夫する方策もある。「水平対向」並みにできるなら、上記の面倒が無いだけ、優位に立てると判断する人も多かろう。「水平対向」の良さを生かすには、部材コスト/製造費用・研究開発費の増加は必須に見えるから、躊躇して当然だと思われる。

 しかし、これは一般論。「水平対向」大好きドライバーは存在しているのだから、この路線が成り立たない訳ではないからだ。顧客の琴線に触れることができれば、代替製品はないから、高収益化もあり得る。
 BMWやAudiといった企業と似た企業文化が必要ということでもあろう。

 --- 参照 ---
(1) http://www.ukipme.com/engineoftheyear/categories.html
(2) 武田隆: 「水平対向エンジン車の系譜」 グランプリ出版 2008年9月


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