↑ トップ頁へ

2009.6.11
 
 


自動車産業は不況業種化するかも…

 未曾有の経済危機と話す人は少なくないが、よく聞くと、結構楽観的な見方をしていることが多い。バラマキだろうが何だろうが、当座、経済の急速な落ち込みさえ防ぐことさえできれば、自動車産業がそのうち復活してくるから、日本経済はなんとかなるということらしい。
 米国と違って、日本は金融システムが壊れた訳ではないから、世界の貿易の仕組みが壊れたりしなければ、早晩、日本経済はゼロ成長路線に戻るだろうが、自動車産業への過度の期待は禁物ではないか。
 まあ、国内でハイブリッド車が売れ始めているし、その技術では先頭を走っているから、米国経済が持ち直してくれば大丈夫と考えている人が多いのはわからないでもない。確かに、そうあってくれれば有難いが、それがどれだけ難しいものか、現実をしっかりと見据えておく必要があるのではないか。

 先ずおさえておくべきは、ハイブリッド車と言っても、音が静かで燃費がよいだけで、車の機能が変わった訳ではない点。ヒットしても、車の販売台数減少の趨勢は変わらないかも。
 従って、プリウス販売が絶好調だからといって、(1)復活の糸口ありと喜んでよいかはわからないのである。若年層が購入に走ったという話を耳にしないからだ。と言うのは、生活に余裕のある高年齢層が、エコカー補助金のインセンティブで買い替えを始めた可能性があるから。もしそうなら、需要の先取りでしかないかも。この層は、エコ重視思想から、この先、車が壊れるまで買い換えないということもなきにしもあらず。
 市場の先細りを意味する現象かも知れないのである。
 顧客の本音は、まだ誰もわかっていないのだから注意した方がよい。

 国内市場に期待が持てそうになければ、あとは北米頼みとなる。
 しかし、米国経済が復活するのと、自動車市場が元のようになる話が連動するとは限らない。
 住宅バブルは住宅価格上昇を前提としたサブプライムローンで弾けたが、自動車も似た構造だからである。中古車は、メキシコに回せば売れるから、ローンでお気軽に買い替えできるように設定された。このお蔭で、市場が膨張したと見ることもできるのだ。
 しかも、トラック型の遊び車市場が巨大化してしまった。大きな住宅同様、アメリカ人好みの車であることは間違いないが、いかにもバブル臭いではないか。(トヨタ車のブランドでは、Tundra、Highlander、Harrie等が該当する。)
 エコムードが高まるなかで、燃料ガブ飲み車の市場が、元通りの市場規模に復活することは難しいのでは。モータースポーツは下火になるかも知れないのである。と言って、2割に達しない小型車に人気が移るものだろうか。
 ここら辺りも、顧客層がどう動くか皆目わかっていないのである。

 わかっていることと言えば、この大変動で米国メーカーが深手を負ったこと。ただ、他のメーカーも甚大な影響を被った。特に、トヨタ自動車の状況が目立つ。
 09/3期連結販売台数は、前期の8,913万台から大きく落ち込んだ7,567万台だった。10/3期の見込みは、さらに減って、6,500万台。(2)生産能力は1,000万台近辺だろうから、とんでもない設備過剰。
 もし、需要が回復しなければ、先進国市場では、自動車産業は供給過剰の不況業種化することになる。自動車は丈夫になっているから、これが杞憂とも思えないから怖い。どうなるか誰もわからないのである。

〜 連結営業利益増減要因(2)
 [2009年3月期実績]
販売額 −14,800億円
為替変動 −7,600億円
収益改善 +1,300億円
 [2010年3月期見通]
台数・構成 −8,000億円
為替変動 −4,500億円
原価改善 +3,400億円
固定費削減 +4,600億円
 ともあれ、トヨタ自動車のように潤沢な内部留保があっても、相当深刻な事態に陥っていることは確かなのである。
 もしも、米国の市場が元に戻らないなら、設備や雇用の大規模削減に踏み切らない限り、赤字脱却は至難の業ということになるからだ。
 特に厄介なのは、米国特有のトラック型乗用車市場に不退転の決意で臨んだため、収益の足枷になっている可能性が高いこと。
  ・トラック型乗用車のローン残高にリスクを抱えているかも。
    →不良債権化の可能性がありそうだ。
  ・トラック型乗用車ビジネスの収益性が地を這う状況に陥ってもおかしくない。
    →GM車の叩き売りと、中古価格下落で、市場では底値状態が続くかも。
    →共用部品はなさそうだから、原価率が急速に高まる。
    →非熟練工中心だから、生産現場の改良積み重ねは期待薄。
  ・トラック型乗用車専用工場体制を敷いたが、工場閉鎖は難しそうだ。
   (政治問題化するから)
    →米国での生産能力過剰状態は解消できそうにない。
    →車種転換しかないが、多車種生産向きに設計していないから、簡単ではなかろう。
    →生産性が低い工場を生み出すことになりかねない。

 こうした問題は、従前のトヨタ文化で、慎重かつ生真面目に対処していれば、発生しなかったとは言い難い。又、その伝統に忠実なら、直面する問題を解決できるとも思えない。今まで遭遇してきた問題とは違い、じっくり考えれば流れが読めるというものでもなかろう。

 どう見ても、自動車産業の将来像を描いて、そのなかで自社の位置づけを考え、大胆に方向を決めて突き進むしかないのでは。流れを読むと言うより、流れを作るということ。当然ながら、読みが当たれば飛躍できるし、外れれば没落止む無し。リスクは高いということで決断を躊躇していれば、構造的不況に巻き込まれかねないのでは。
 新しい時代が始まったということだろう。

 --- 参照 ---
(1) 2009年5月:プリウスは10,915台で新車乗用車販売台数ランキング1位
  http://www.jada.or.jp/contents/data/ranking/index.php
(2) 2009年3月期決算説明会 トヨタ自動車(株) [2009年5月8日]
  http://www.toyota.co.jp/jp/ir/financial_results/2009/year_end/presentation.pdf


 自動車の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2009 RandDManagement.com