→INDEX ■■■ 曼荼羅を知る [2019.2.7] ■■■ [12]胎蔵曼荼羅 帝釈天 曼荼羅曼荼羅は12区画分割のようで、最外周は謂わば「その他」である。区域名称としては、外金剛部院とされている。 これまでの11区画の尊像の数は200弱のようだだが、こちらは約200で総勢400と膨大である。その姿も色々なのでまさにゴチャゴチャ感想満載の図絵だ。しかし、全体を俯瞰すれば、中央の大日如来を囲む3重の正方形になっており、系統性とヒエラルキーを感じさせる構成に仕上げてある。 そのうち、一番の外枠である外金剛部院は、いかにも、それぞれのバックグラウンドストーリーを反映していそうなので面白い。 要するに、正統な仏とその下で活動してきた系譜とは無縁な信仰領域を描いた訳である。 従って、長らく敵対的関係だった勢力も含まれていておかしくない。ともあれ、結局のところ、部外者も仏教に帰依しお仲間として迎え入れることになったと語っている訳だ。 曼荼羅の構想としては、釈尊登場以前の信仰を仏教のヒエラルキーとして再構築しようとの目論見だろう。 但し、そこに特別な論理があるとは思えないから、事情に応じてバージョンはいくらでも生まれておかしくない。しかし、釈尊はそれらを一つのイメージにまとめあげて語っていたようである。須弥山世界という宇宙イメージとして。但し、どう見ても、胎蔵曼荼羅図絵は須弥山の平面地図ではないが。 どもあれ、須弥山世界のイメージの豊かさと美しさが人々の琴線に触れたからこその仏教の広がりとも言えよう。その美しさが失われれば、脆くも崩れ去る可能性を秘めていることになる。 唐代の書 「酉陽雑俎」には、そこらの仏教薀蓄が語られており、そこらがよくわかる。神話を完全消滅させ、個人の精神領域まで官僚が管理するようになった中華帝国社会への挽歌として、当時の第一級インテリがどうしても書き残したかったのである。 換言すれば、外金剛部院の"雑多"で膨大な数の信仰対象があってこその、"佛"像の美しさ、と気付いたからこそ、どうしても筆をとりたくなったということ。書名でわかるように、そのような感覚は中華帝国内では早晩絶滅させられるに違いない感じていたからでもある。 さて、曼荼羅の構図だが、この外金剛部院は額縁型。上下左右の4辺と4隅に尊像をどのように配置するかは、それなりに厄介な問題といえよう。 と言っても、最初の使用は、仏の魂を弟子に与える僧侶入門の灌頂儀式に於ける敷曼荼羅だったようだ。一種の開眼であり、平面図絵だが須弥山世界の立体感を感じさせる表現が駆使されていたと思われる。図絵の前に東面して座るから、目視的には上が東になるだけのこと。太陽が昇る方角を上方に、沈む方角を下という意味はなさそうだ。それにしても、地図で上方が北に馴れている人間にとっては戸惑う様式である。 上[U]=東方 下[D}=西方 右[R}=南方 左[L]=北方 後、掛曼荼羅となると、その伝統で上辺東方が決まり事になってしまったのだろう。 さらに空海が修行者の両横手に掲げる様式を確立したので、東側横手の胎蔵曼荼羅は上辺東に確定しまったようだ。もちろん、対面する金剛界曼荼羅は上辺西になる。 (南面する佛堂に安置された本尊とその前の修法壇に、僧侶が対面して座すと考える訳だ。 但し、金剛界曼荼羅は仏との一体化を目指す修行に用いるものだと思われ、大陸では、悟りをひらいた僧侶は尊像的に西向きに坐したかも知れない。) こう考えるなら、本来的には、胎蔵曼荼羅の尊像はすべて中心に座す大日如来方向を向いた放射配置と考えるべきだろう。 ┼┼┼┼┼┼┼┼Ⓔ ┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼↓除蓋障院 ┌────────────────┐ │┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼│ │┼┌─┬────────┬─┐┼│ │┼│┼│┼┼┼┼┼┼┼┼│┼│┼│ ←文殊院 │┼├─┼────────┼─┤┼│ │┼│┼│┼┼┼┼┼┼┼┼│┼│┼│ ←釈迦院 │┼│┼├─┬────┬─┤┼│┼│ │┼│┼│┼│┼┼┼┼│┼│┼│┼│ ←遍知院 │┼│┼│┼├────┤┼│┼│┼│ [左隣接]観音院 │┼│┼│┼│┼┼┼┼│┼│┼│┼│ │┼│┼│┼│┼┼┼┼│┼│┼│┼│ ←中台八葉院 │┼│┼│┼│┼┼┼┼│┼│┼│┼│ │┼│┼│┼├────┤┼│┼│┼│ [右隣接]金剛手院 │┼│┼│┼│┼┼┼┼│┼│┼│┼│ ←持明院 │┼│┼├─┴────┴─┤┼│┼│ │┼│┼│┼┼┼┼┼┼┼┼│┼│┼│ ←虚空蔵院 │┼├─┼────────┼─┤┼│ │┼│┼│┼┼┼┼┼┼┼┼│┼│┼│ ←蘇悉地院 │┼└─┴────────┴─┘┼│ │┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼│[外周]←外金剛部院 └────────────────┘ ┼┼┼↑地蔵院 尊像は200を越えている上に、様々な姿で大きさもえらく異なるので、全体像を俯瞰するのは簡単なことではない。 そうしても分析的になってしまうが、尊像を仕分けしてみることで、どうなっているのか見ていこう。 先ずは、分かり易い天体から。 太陽と月は別格だが、他に特殊な挙動を示す5星はメソポタミア辺りの占星術の基本だった筈である。すぐに、インターナショナルに通用するようになったに違いない。中華帝国の五行とは何の関係もない筈だ。 【七曜】 [U] 日曜🀀 [U] 日曜眷属🀀 [D] 月曜🀂 [R] 火曜🀁 [D] 水曜🀂 [R] 木曜🀁 [L] 金曜🀃 [D] 土曜🀂 黄道十二宮もメソポタミアで生まれたと見られている。どこでも星座そのものより、その絵の面白さに惹かれるもの。古代、星に関心が薄いのは、山と森だらけの箱庭風土の日本位のもの。 【十二宮】星座 [U] 牛宮🀀…牡牛座 [U] 羊宮🀀…牡羊座 [U] 男女宮🀀…双子座 [U] 男女宮🀀…〃 [R] 賢瓶宮🀁…水瓶座 [R] 摩竭(=怪魚)宮🀁…山羊座 [R] 双魚宮🀁…魚座 [D] 秤宮🀂…天秤座 [D] 弓宮🀂…射手座 [D] 蝎宮🀂…蠍座 [L] 少女宮🀃…乙女座 [L] 蟹宮🀃…蟹座 [L] 獅子宮🀃…獅子座 二十八宿は定番である。 [→"星祭り"「酉陽雑俎」の面白さ(2016.4.17)] 【四方七宿】 [U] 昴宿🀀 [U] 畢宿🀀 [U] 参宿🀀 [U] 觜宿🀀 [U] 鬼宿🀀 [U] 柳宿🀀 [U] 井宿🀀 [R] 軫宿🀁 [R] 七星宿🀁 [R] 亢宿🀁 [R] 張宿🀁 [R] 翼宿🀁 [R] 角宿🀁 [R] 氐宿🀁 [D] 斗宿🀂 [D] 牛宿🀂 [D] 女宿🀂 [D] 箕宿🀂 [D] 尾宿🀂 [D] 心宿🀂 [D] 房宿🀂 [L] 虚宿🀃 [L] 危宿🀃 [L] 室宿🀃 [L] 奎宿🀃 [L] 壁宿🀃 [L] 婁宿🀃 [L] 胃宿🀃 インド天文学の粋とも言える、白道と黄道の交点での昇交と降交を意味する星。 【特別な星】 [U] 彗星(計都)🀀 [U] 流星🀀 [R] 羅睺星🀁 【十二天-八方】 [U] 帝釋天🀀…インドラ [n.a.](帝釋后) [U] 守門天女🀀 [U] 守門天🀀 [U] 守門天🀀 [U] 守門天女🀀 [R] 閻魔天王(焔摩天)🀁…ヤマ [n.a.](焔摩)后 [R] 黒闇天女🀁 [R] 太山府君🀁 [R] 死鬼衆🀁 [R] 死鬼衆🀁 [R] 鬼衆女🀁 [R] 鬼衆女🀁 [R] 鬼衆🀁 [R] 鬼衆🀁 [R] 鬼衆🀁 [R] 鬼衆🀁 [R] 鬼衆🀁 [R] 鬼衆🀁 [R] 羅刹童子🀁 [R] 羅刹童女🀁 [D] 遮文荼🀂 [D] 水天 1🀂…ヴァルナ [D] 水天眷属🀂 [D] 水天 2🀂 [D] 水天妃(水天后)🀂 [D] 水天妃眷属🀂 [D] 対面天🀂…門 [D] 難破天🀂…門 [L] 毘沙門天/多聞天🀃…ヴァイシュラヴァナ [n.a.](毘沙門后) [R] 薬叉持明/夜叉🀁 [R] 薬叉持明女🀁 [R] 薬叉持明女🀁 [UR] 火天🀀🀁…アグニ [UR] 火天后🀀🀁 [DR] 涅哩帝王(羅刹天)🀂🀁…ラークシャサ [n.a.](羅刹后) [DR] 羅刹🀂🀁 [DR] 羅刹女🀂🀁 [DL] 風天🀂🀃…ヴァーユ [n.a.](風天后) [DL] 風天妃眷属🀂🀃 [DL] 風天妃🀂🀃 [DL] 風天童子🀂🀃 [DL] 風天童子🀂🀃 [DL] 風天童子🀂🀃 [DL] 風天童子🀂🀃 [UL] 伊舎那天/大自在天/摩醯首羅)🀀🀃…イシャーナ/マヘーシュバラ(シバ神) [UL] 伊舎那天后🀀🀃 [D] 摩訶迦羅/大黒天🀂…マハーカーラ(シヴァ神) [U] 喜面天🀀…子 [U] 常酔天🀀 [U] 器手天🀀…血手神 [U] 器手天后🀀 [R] 自在天女🀁 [D] 大自在🀂 [D] 烏摩妃🀂…パールヴァティー 【十二天-天地日月】 [U] 大梵天🀀…ブラフマー [D] 梵天女🀂 [U] 堅牢神🀀…"地天" プリティヴィー [U] 堅牢神后🀀 [U] 日天🀀…スーリヤ [U] 日天后🀀 [L] 戦鬼(眷属)🀃 [D] 月天🀂…チャンドラ [D] 月天女🀂 [D] 鼓天🀂 [D] 歌天🀂 [D] 歌天女🀂 [D] 楽天🀂 【帝釈四王天】 [L] 帝釈天🀃…インドラ (注意)重複しており<北>の多聞天/毘沙門天と違うか。 [L] 帝釈后🀃 [n.a.](多聞天/毘沙門天…北倶盧洲) [U] 持国天🀀…東勝身洲 (n.a.眷属)乾闥婆 (n.a.眷属)毘舎遮 [R] 増長天🀁…南贍部洲ドゥリタラーシュトラ [R] 使者🀁 [R] 鳩槃荼(眷属)🀁 [R] 鳩槃荼女🀁 (n.a.眷属)薜茘多 [D] 毘楼博叉天王/広目天🀂…西牛貨洲 (n.a.眷属)龍神 (n.a.眷属)富単那 ここ迄は、ヒンドゥー教前身の古代バラモン教の息吹を残す神々を取り込んで、仏教護神化を図るという明瞭な方針が見てとれるが、さらに拡大してしまったところがインド亜大陸での仏教基盤壊滅に繋がったのではないかと思われる。大衆の直接的信仰対象は引き続き外金剛部院に属する神々だったとすれば。 仏教は、カースト的風土に立脚するバラモンの宗教統治への批判勢力であり、王族とインターナショナルな交易勢力の支持基盤が揺らげはひとたまりもなかろう。一般大衆にとっては、反バラモン感情があるならイスラム教でもかまわない訳だし、伝統的な土着信仰対象の神以外に関心が薄いなら、伝統的祭祀を司るヒンドゥー教でもなんらかまわないのだ。 【他のヒンドゥー教神】 [D] 鳩摩利🀂…クマーリー(鳩摩羅天妃) [D] 那羅延天/毘紐天🀂…ヴィシュヌ [D] 那羅延天后/毘紐天妃🀂 [R] 毘紐女🀁 [D] 弁才天🀂…サラスヴァティー [D] 鳩摩羅天🀂…クマーラ [L] 毘那夜迦🀃…ヴィナーヤカ(障礙神⇒歓喜天ガネーシャ) [n.a.] 荼吉尼天…ダーキニー [R] 荼吉尼衆🀁 [R] 荼吉尼衆🀁 [R] 荼吉尼衆🀁 [L] 俱肥羅天🀃…クベーラ [L] 俱肥羅天女🀃 "四姉妹女天" [U] 微闍耶🀀…ヴィジャヤー [n.a.] 惹耶…ジャヤー@文殊院童母盧之右方 [n.a.] 阿爾多…アジター [n.a.] 阿波羅爾多…アパラージター 【衆】 【龍王衆】天龍八部衆 [R] 難陀龍王🀁…28部衆 [R] 烏波難陀龍王🀁 [D] 難陀龍王🀂 [D] 跋難陀龍王🀂 [L] 難陀龍王🀃 [L] 烏波難陀龍王🀃 【摩睺羅迦衆】天龍八部衆 [n.a.]摩睺羅迦王…28部衆 [L] 摩睺羅迦🀃 [L] 摩睺羅迦🀃 [L] 摩睺羅迦🀃 【緊那羅衆】天龍八部衆 [n.a.]緊那羅王…28部衆 [L] 緊那羅🀃 [L] 緊那羅🀃 【音天】…天龍八部衆の上記緊那羅(音楽天)か乾闥婆(香音神)ではないか。 [L] 光音天🀃 [L] 光音天🀃 [L] 光音天🀃 [L] 大光音天🀃 [L] 大光音天🀃 [L] 大光音天🀃 【歌天】…緊那羅(音楽天)のさらに北方の衆らしい。 [L] 歌天🀃 [L] 歌天🀃 [L] 楽天🀃 【阿修羅衆】天龍八部衆 [n.a.]阿修羅王…28部衆 [R] 阿修羅🀁 [R] 阿修羅🀁 [R] 阿修羅🀁 [R] 阿修羅女🀁 [R] 阿修羅女🀁 [R] 摩尼阿修羅🀁 [R] 摩尼阿修羅女🀁 [R] 摩尼阿修羅女🀁 【迦楼羅衆】 [R] 迦楼羅王🀁…28部衆 [R] 迦楼羅女🀁 【持鬘天衆】 [L] 持鬘天衆🀃 [L] 持鬘天衆🀃 [L] 持鬘天衆🀃 【仙人衆】 [L] 成就持明仙🀃 [L] 成就持明仙🀃 [L] 成就持明仙🀃 [L] 成就持明仙🀃 [L] 成就持明仙妃🀃 [R] 成就持明仙衆🀁 [R] 成就持明仙衆🀁 [R] 成就持明仙衆🀁 [R] 成就持明仙衆🀁 [UR] 婆藪仙🀀🀁…28部衆 [UR] 婆藪仙后🀀🀁 [UR] 阿詣羅仙🀀🀁 [UR] 阿詣羅仙后🀀🀁 外金剛部院はあくまでも三重正方形の最外縁部であり、仏教徒なら中心部を護る役割処と考えてしまうだろうが、護法を自明とする図絵にはなっていない。冷静に眺めれば、大衆の非仏教状況を認識し、折伏し救済する対象を描いている箇所と見なされてもおかしくない。 仏教なき頃の姿を描いているようにも思えてくるからだ。・・・ 【釈尊】 [R] 瞿曇…ゴータマ@釈尊出家前🀁 [R] 瞿曇后🀁 【人】…六道輪廻で人趣の境地ありなのだろうか。 [D] 摩拏赦/摩奴沙🀂 [D] 摩拏赦女🀂 ただ、僅かながら、仏教的な部分が存在してはいる。 【「無色界四天」処の名称:楼閣内尊像】 《非想非非想処/非有想非無想処/有頂天》 [U] 非想天🀀 《無所有処》 [U] 無所有処天🀀 《識無辺処》 [U] 識無辺処天🀀 《空無辺処》 [U] 空無辺処天🀀 【「欲界六天」処の名称での天人名】 《四天王天》 《忉利天》 《夜摩天》 [R] 夜摩女🀁 《兜率天》 [L] 兜卒天🀃 [L] 兜卒天🀃 [L] 兜卒天🀃 《樂變化天》 《他化自在天》 [L] 他化自在天🀃 [L] 他化自在天🀃 [L] 他化自在天🀃 →"外金剛部院"所属尊像名一覧(順番) (参照 ママ引用でなく改変していますのでご注意のほど) 越智淳仁:「図説・マンダラの基礎知識―密教宇宙の構造と儀礼」大法輪閣 2005年 (C) 2019 RandDManagement.com →HOME |