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■■■ 本を読んで [2015.2.5] ■■■

魚図鑑もイロイロ

「深海魚」のカバー写真が目立つような本はたいていは読む本ではなく、見る本。魚に興味がなければ、なんだ軽装化した図鑑かと見なし、手に取ることもなく通り過ぎて行く人が多いのではないかと思う。
古典的な発想だと、図鑑を購入するのは、それを必要とする専門家を除けば、マニアと相場が決まっている。大概は重いし、学名や数字等の興味を覚えない情報が書いてあるだけのことが多いから、そうなるのは止むを得まい。

しかし、今や、そうとばかりは言えない時代。成熟した社会になると、暇人が増えるので、様々な企画が持ち上がる訳だ。まあ、ピンキリのキリが多そうな世界ではあるが。
と言うことで、従来型の魚好きを購入対象者としていないと思われる「図鑑"擬"本」を2冊ご紹介したい。

1冊目だが、これは、2014年末出版。古典的魚好きとしては、どんなものか目を通してみた訳である。
実は、この本に、"1回食べたら忘れられない味と顔"として、トウジンが掲載されていたのである。これを見て、そういえば、沼津で深海魚尽くしを食べても、当の魚のお姿を拝見していないナと思った訳。
   「とうじんの話」[2015年2月4日]

要するに、"深海魚を食べようではないか"という本なのである。煮・焼・蒸・揚・生のどの調理法に向いているか表示しただけの代物。
と言っても、常々、魚屋さんでお姿をお見掛けしており、写真を見るまでもない魚も。好みのものも少なくないし。・・・下田産キンメの煮つけ(鮨も多いが)、駿河湾産サクラエビのかき揚げ、たまたま網代であがったノドグロの焼物、真鶴港から来たホウボウの刺身、干物専門店の太刀魚(製造技術の差は大きい.)

もっとも、それらとはえらく異質な生物も掲載されている。なんと、オオグソクムシ。葛西臨海水族館でもそもそと動いているのを見たが、およそ食用動物とは思えない輩。埠頭のゴキブリこと舟虫から触覚を取り、陸棲の団子虫とハイブリッド化して、大型化したように見えるからだ。
揚げて食べるらしいが、小生は手を出したくない。それに、そんなものが吉池に並ぶとは思えない。
[註:御徒町駅前に昔からある著名なお店。スペイン料理店需要か、亀の手を安価で売っているが、そんなお店は滅多にお目にかかれまい。2014年に9階建ビルを新築しなんとユニクロ/GU/ユザワヤと同居。]

残念なのは、高級品アカザエビの近隣に触れていない点。有り難いことに、手長でそっくりにもかかわらず、安価なエビがあるのだ。駿河湾でアカザエビ専用籠漁が行われていると記載されているが、そこに一緒に入ってくるのと違うか。

しかし、こんなことを書いていてよいのかという気にならないことも無い。
深海モノは成長に時間がかかるから、大いに食べてしまうと、資源的にどうなのかということで。と言いつつも、写真を眺めながら食指が動く。

こんな話をしているとキリがないので、もう一冊をご紹介しておこう。「ビジュアル資料」と銘打っているが、まさにその通り。
だが、小生としては、好きになれない手の本。魚のデッサンをされる方々には最良のモデル写真集と言えそうだが、生憎とそんな趣味を持ち合わせていないので。
何故に好みでないかというと、ホルマリン漬けイメージを感じてしまうから。研究者の方々は気にならないだろうが、魚の色褪せたような姿を見ると小生は背筋が凍る。色の無い深海ではそんなものと言われればそうかも知れぬが。

それでは、どんな感じかと言えば、「深海魚を使ったクリーチャー・デザイン」本となろうか。実際、数ページに渡ってキャラクター創造過程が示されている。小生はこの分野は不案内なのでなんとも言い難いが、多分、著名な方の素敵な作品なのだろう。
何故に深海魚かと言えば、表紙のコピーが雄弁に語る。・・・
 歯が口をつらぬく オニキンメ
 グロテスクなぶよぶよ ニュウドウカジカ
 口が腹まで裂けた フクロウナギ
 モンスター ラブカ
 幻 リュウグウノツカイ
確かに、モデル役にはうってつけ。それに向くような撮影配慮がされているし。
小生のように、そこに全く興味がないと、ソレダケの本にしか映らない訳で。

この2冊だが、一つは真っ当な「おさかな図鑑」で、もう一つは珍しく正真正銘の「うお図鑑」である。
「さかな」とは、あくまでも、御饌たる"ナ"。(賜越蝦夷八釣魚等。魚、此云儺。@日本書紀訓注-持統天皇)由緒正しき「岩魚」の場合、それは"いわナ"であって、"いわウオ"でもなければ、ましてや"がんギョ"と呼んではアカンのである。
「さかな」は、食すものだけにすべきなのだ。(「肴(←)=爻[声]+月[从肉]」であり、「菜=艸[草]+采[爪+木]」である。)
つまり、「うお」とは、食べるべきでない"水蟲"の総称ということになろう。魚食民族の分類観はそういうもの。
そうなると「さかな」の"サカ"は何なんだということになるが、小生の推測は、もちろん「酒」。「餐」かも知れぬが。
ギョ。

(本)
落合博 監修/21世紀の食調査班 編/静岡県水産技術研究所 協力:「食べられる深海魚ガイドブック」 自由国民社 2014年12月4日
韮沢靖 キャラクターデザイン/松沢陽士 撮影/宮正樹+井上哲也 監修/千葉県立中央博物館+高知大学理学部海洋生物学研究室 所蔵資料: 「生物ビジュアル資料 深海魚」 グラフィック社 2010年


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