表紙 目次 | ■■■ 本を読んで [2015.10.15] ■■■ グローバル化阻止は可能か(蟻族) 北米の松林に生息する小さな茶色の蟻の社会性に関する研究結果がScienceに掲載された。労働者は"slackers"だらけとの表現がうけたようである。 そのハイライトは以下の通り。 働かない時間の方が多い蟻の割合:72% 全く働かなかった蟻の割合:25% 働きづめだった蟻の割合:3%。 ウ〜ム。 内容は忘れたが、大分昔から、そんなことはわかっていたのでは。日本では、マスコミが随分とりあげた筈で、何の新しさもないと思うが。 うろ覚えだが、コミュニティ維持のために24時間体制が必要な業務があり、そこでは働き詰めになるということだったように思う。ただ、その従事者はほんの一部とのこと。それが上記の3%だろう。 ただ、その労働者が倒れたら即刻補充できる予備軍が控えている体制ができている訳だ。つまり、"slacker"という用語は間違い。つまり、3%が正規雇用で、25%がその交代要員を兼ねた、随時生じる仕事に対応するパートタイマー。残りの72%は失業者なのだ。欠員がでれば、則補充の仕組み。そして、ヒトのせいで生じる落盤災害の緊急回復事業や、巨大食物引きづり込み大型プロジェクトが立ち上がることも少なくない。そうなると、膨大な労働需要が生まれ、失業者蟻口が一気に減る訳だ。 労働需要の大変化に対応しきれないと、その時点で社会は頓挫しかねない。従って、見効率が悪そうに映るが、長期的に見れば最適化された体制なのである。 そうそう、兵隊蟻にしても、お隣と本格的な戦いが始まったりすると敵前逃亡を図るという話があったのでは。ヒトの軍隊なら則軍法会議で処刑モノだ。しかし、蟻社会では逆。兵隊蟻の代わりに、体の小さな民兵が体を張って頑張る。力の強い大型部隊を他部族との抗争に投入したくはないからだ。 つまり、"soldier"という用語が間違っていることになる。もちろん、そのような部隊を編制している蟻族も存在するが、例外的。体が大きい蟻の第一義的役割は、巨大な餌を壊すこと。小さな働き蟻が運べるように餌を細かくするのである。従って、戦乱に巻き込まれて負傷したりして、本来業務にさしさわりが出るようでは失格。 例外は、社会全体を壊そうとする超巨大な敵がやってきた時だけ。命を賭して率先して戦うことになる。 ともあれ、この手の話は面白い読んだ覚えがある。それに、ヒトの歴史より古くから産業を生み出してきた動物という点も大きい。 茸栽培農業+醗酵食品工業・・・ハキリアリ 牧畜業(カイガラムシ)・・・ミツバアリ と言うことで、新しい蟻本が出版されたので読んでみることにした。 冒頭から、ガツンと一撃をくらった。 上記で書いたように、蟻社会がヒト社会に似たところがあるから、興味が湧くと思っていたが、それは思い違いであることを諭されたのである。・・・そうなのだ。似ているのは猿社会の方であって、蟻社会は全く当てはまらない。ヒト好きとは違って、アリ好きはヒトと違っている社会だから気になるのである。 この2分割は実践的にも重要だという。研究指導者としては、研究者の卵がヒト好きなのか、はたまたアリ好きなのか見分けるスキルを身につける必要があるとか。間違っても、ヒト好きにアリ研究をさせてしまうことなきようということ。人間嫌い病を発祥させたりするらしい。 こうした間違いがおきるのは、蟻の分業体制が、ヒトが好むカースト制度そっくりだからだ。(農業文化を誇る葉切蟻[→]の場合、ワーカークラスは4カーストに分かれ、さらに業務で29区分。) しかし、その本質を考えれば、似て非なる社会構造との説明は納得感あり。ヒトの社会と根本原理が違うからだ。 アリ社会では明確な役割分担があるが、それはヒト的な親分子分の関係を意味している訳ではない。自らに与えられた役割に沿って、自分なりの判断で生きていく社会。ヒトが大好きな、支配-被支配の奴隷制度的ルールとは無縁の地平。 従って、支配欲顕示でもある「個性」は発揮できないことになる。しかし、それは金太郎飴的集団であることを意味しない。支配されていないし、指示で動くこともないので、それぞれが独自に判断するからだ。もちろん、組織のために、それぞれが勝手に最善の選択をするだけ。ただ、結果的に、行動にバラつきが生まれる。それは、一種の探検とか、試験的行動がなされているとも言え、組織としての知恵を生む原動力になるらしい。 つまい、個々から知恵は生まれないが、組織的には知恵が生まれるように全体が設計されている社会ということになる。ヒトにはとても真似できそうもない、要するに、真正全体主義者の社会が実現している訳だ。 ヒトは知恵で勝負の時代に入ったと称しているが、どう見ても浅知恵で動かされる社会。従って、自滅の可能性は否定できまい。 そうなると、そのうち蟻全盛時代に突入するかも。と言うより、すでにそれは始まっているのかも知れぬ。 実は、そんな気にさせられる話がちりばめられているように感じたのである。 なにせ、本格的グローバル化を始めた蟻もいるのだ。カリフォルニア沿岸やリベリア半島海岸には、とびとびに蟻都市連合が構築されつつあり、メガコロニーの様相を呈しているという。 オッと、こんなことを書くと誤解を与えるか。 よくあるセンセーショナルな書きっぷりではなく、それとは正反対と言ってよいだろう。支配欲紛々の「ヒト好き」勢力とは相容れない、「アリ好き」体質とはそういうものなのであろう。 例えば、エコ教祖が、マスコミを煽って、火蟻の被害をウソと喧伝してどうなったかも淡々と描かれている。普通は、このような話をすると信者達が動きかねず、研究を潰されるリスクがあるから触れないものだが。学者が冷静に問題点を語ってくれるのは嬉しい限り。 そうそう、今のところ、火蟻侵入を防げたのはNZだけのようである。 (本) 坂本洋典,村上貴弘,東正剛[編著]:「アリの社会−小さな虫の大きな知恵」 東海大学出版部 2015年9月20日 ─・─・─・─・─・─ "Most worker ants are slackers" By David Shultz, 6 October 2015 5:15 pm, Science Daniel Charbonneau & Anna Dornhaus:"Workers ‘specialized’ on inactivity: Behavioral consistency of inactive workers and their role in task allocation" Behavioral Ecology and Sociobiology September 2015, Volume 69, Issue 9, pp 1459-1472 本を読んで−INDEX >>> HOME>>> (C) 2015 RandDManagement.com |