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2004.8.19
 
 


「檸檬」時代の終焉…

 梶井基次郎の「檸檬」と書くと、学生時代を思い出す人も多いのではなかろうか。

 忘れかけている人も多いかもしれないが、一節を引用してみよう。(1)

 「私の好きであった所は、たとえば丸善であった。・・・」
 「しかし ここも もうその頃の私にとっては重くるしい場所に過ぎなかった。書籍、学生、勘定台、これらはみな借金取りの亡霊のように 私には見えるのだった。」

 そんな状態の時、寺町通の果物店で檸檬に出会い、思わず手にしてしまう。
 そして、ハイな状態で、「今日は一(ひと)つ入ってみてやろう」との気になる。

 しかし、いざ入店したとたんに「憂鬱が立て罩(こ)めて来る」。
 ところが、突然、檸檬に気付き、「軽やかな昂奮が帰って来た。」
 「丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛け・・・あの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったら どんなにおもしろいだろう。」

 ・・・なつかしい話しである。

 このような文化も成り立たなくなったようだ。

 2004年7月16日、芸術、文化関係の出版物などに重点を置いた個性派書店、青山ブックセンターが破産宣告を受け、突如、閉店してしまったのである。(2)

 続々と名物書店が消えていく。本好きには、耐え難いニュースである。
  → 「本屋文化の終焉」 (2003年7月26日)

 しかし、30日に、洋書取次会社の大手が支援を申し出て、民事再生の申し立てをした。なんとか生き残れるのかもしれない。(3)

 画や写真が多い書籍では、実際に手にとって目を通さないと、質感がよくわからないから、書店再開を喜ぶ人は多いと思うが、こんなことで、この流れは変わらないかもしれない。

 本屋の競争は厳しく、小規模な低コスト運営で、特定ジャンルで残るなら可能だが、総合書店の風合いを残す限り、激烈な戦いで生き残るのは容易なことではない。

 青山ブックセンター本店にしても、再開しても、競争は厳しい。
 近隣の六本木ヒルズには、「遊べる本屋」ヴィレッジ ヴァンガードがある。さらに、けやき坂通りには、アート関連書籍が豊富で、テーマごとにまとめた、楽しさを追求するTSUTAYA TOKYO ROPPONGI がある。いずれも、新しい試みに挑戦する気概を感じる。
 例えば、後者は、美味しいコーヒーを飲むのと、本やCD探しという行為を結びつけた。ファッショナブルな文化を生み出そうと頑張っているのだ。

 目立たないが、同じような動きが他でも発生している。
 東京の大ターミナル駅、池袋でも、古くからあった書店が閉店した。人文・社会系の本揃えや、文芸書を並べることで有名だった。書店のブックカバーが好きで買っていた人も多かった。
 しかし、競争相手は余りに強豪だった。東武百貨店内の旭屋、西武百貨店内のリブロ、そして、東口のジュンク堂である。(4)

 これらの書店は、巨大フロア化で競争優位を実現したとも言える。
 だが、新しい書店文化を切り開こうと、棚作りに頑張っている点にも、着目すべきだと思う。(5)
 このような努力が、古典的な「本屋さん」から、本好きな顧客を奪っていったのだと思う。

 よく考えれば、「檸檬」の時代とさほど変わらぬやり方を続けていて、商売できるほうが不思議である。ウリはノスタルジアしかないのでは、顧客が離れていくのは当然のような気がする。

 --- 参照 ---
(1) http://www.aozora.gr.jp/cards/000074/files/424.html
(2) http://www.asahi.com/book/news/TKY200407160350.html
(3) http://www.asahi.com/culture/update/0802/009.html
(4) http://www.ikebukuro-net.jp/2nd/book.html
(5) ジュンク堂書店池袋店 副店長 田口久美子著「池袋風雲録」
   http://www.webdokusho.com/koushin/taguchi.php?f_start_number=6

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