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2004.11.15 |
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神道の見方(1:土着霊)知的興味を覚える分野には全精力を傾けるジャーナリスト、立花隆氏が、「自分が八幡神について何も知らなかったことを知った」と語っている。(1)飯沼賢司著「八幡神とはなにか」(角川選書 2004年6月)(2)を読んで、目から鱗だったようだ。 「八幡神を堀り下げていくことで、こんなにも日本国の歴史の根本構造が見えてくるとは思ってもみなかった」そうである。 立花氏も、日本精神世界の政治的な雑炊性には気付いていても、まさか、子供の頃に遊んだ八幡神社が、そうした典型例であることまでは思いがいかなかったようだ。 神社が観光旅行の一部に組み込まれている状況や、初詣やお祭の大混雑を見れば、宗教というより慣習に近いから、思想的背景については関心が薄くなるのかもしれない。 しかも、お札、お守りは身近にあるから、軽い気持ちでの守護神という感覚が広がっているのも間違いあるまい。 ここだけ見ていると、日本の神とは、日常生活のなかにあると感じてしまう。 しかし、日本の神は、「崇高であると同時に不気味」なものである。 2001年サントリー学芸賞を受賞した、「おもしろすぎる」本、菅野覚明著「神道の逆襲」(講談社現代新書 2001年)では、この2面性が分析されている。(3) ようするに、わかったようで、わからないのが、日本の神ともいえる。基本となる聖典らしきものもないし、思想もわかりにくいのだ。 よくわからないのだから、質問を受けると窮する。 国際的ビジネスの会合で宗教を話題にするな、は鉄則とされるが、個人的に仲良くなれば、日本人の宗教についての話は必ずでてくる。知的好奇心が強い人との会話になれば、仏教国における神道が話題にのぼること、必至である。 ここで、まさか、得体の知れない風習、と答える訳にもいくまい。2面性がある、と説明すれば、混乱するだけである。 そうなると、単純明快な説明をせざるを得なくなる。 本当かどうかはわからないが、一番説得性がある回答は決まっている。 古代から、連綿と続いている日本の「神」とは、海外の「God」とは大きく違い、霊気に近いもの、と説明するのである。神とは、自然に対する畏敬の念であると考える訳である。従って、「神」は、日常的に存在するが、強くて恐ろしい存在でもある。 もともと、自然は優しい存在ではない。 美しい山河と語るのは自然を知らない現代人である。全てを消滅させる土石流や、凄まじい濁流こそが、自然そのものである。一旦、台風、地震、雷に遭遇すれば、生活はおろか、命まで危険に晒されるのである。旱魃や冷害で、飢餓に陥ることもあった。疫病蔓延も珍しいことではなかったろう。 (たまたま、1948年[福井地震]〜1955年[兵庫県南部地震]の間、膨大な死亡者が発生する地震がなかった。又、治水工事のお蔭で台風被害もかなり減ったから、現代に住む我々は、自然の恐ろしさを忘れかけている。) 従って、荒々しい自然のなかで、風雪に耐えて生きてきた大木に、神々しさを感じるのは当然のことだと思う。 このような状況では、人々は、様々な場所で、鮮烈な霊気を感じたのは間違いあるまい。そのような場所を祀ったのが、神社の原点だろう。 このことは、日本最古の神社である大神神社のご神体が三輪山であることから、先ず間違いなかろう。(4) この神社には祭神を祀る建物は無い。拝殿だけである。鳥居を通して、ご神体を拝するのだ。 もちろん、神域には人は入れない。 これこそ、原初の神祀という感じを受ける。 人臭い汚れは、霊を怒らすことになる。 当然ながら、神域に入るなどもってのほかである。 霊は、恐ろしい存在であるから、自分達が汚してはならない区域を明確に峻別する必要がある。 そして、霊に近づく時は、清廉な冷たい流水や、塩で清めることも要求される。極く自然な崇拝だ。 この土着の精神性は、今でも受け継がれていると思う。 神社には、自然を感じるような、鎮守の森がつきものである。そして、鳥居と注連縄をはることで、参拝者に、生活圏との境を明瞭に伝えている。このため、神域に入ると、おごそかな気持ちになる。これが、日本人の大多数が共有している文化だと思う。 もっとも、様々な神社があるから、こうした見方が全てに通用するとは言えないだろう。しかし、どの神社も、神殿は囲われており、人は立ち入り厳禁だ。 そして、「霊」を感じるような大木には注連縄がかかる。古代の精神性は、いまだに現代の日本人の心のなかに生きている。 --- 参照 --- (1) 週間文春2004年9月30日号139頁 文春図書館「私の読書日記」 (2) http://www.kadokawa.co.jp/book/bk_search.php?pcd=200104000291 (3) http://www.suntory.co.jp/sfnd/gakugei/si_reki0048.html (4) http://www.oomiwa.or.jp/c02/c02_01.html 文化論の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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