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2008.5.22
 
 


サーターアンダーギーの沖縄風ドーナッツ化…

 沖縄はうみんちゅ(海人)の島と呼ばれ、それこそが魅力という人が多いが、疑問を感じる。
 見かけは美しい海だが、昔からの貝がなかなか見つからない状況と聞いたから。これでは、海人が、昔からの海辺の生き物を守る気概を失っているとしか思えまい。
 南の海は栄養分は少ないが、それが、かえって多種多様な生物が棲む“豊かな”海を作った訳だ。そんな生産力が弱い海を、海人が保護しなくなれば、様々な生物が滅びていくのは当然のこと。

 おそらく、地域が守ってきた土着の文化も、貝と同じ道を歩むことになるのだろう。それが海人の選択なのだから如何ともしがたい。まことに寂しい限り。
 そんなことを想うのは 沖縄文化の特異性に注目しているからではない。本土では失われてしまった、日本の古代文化が生き続けているからである。この文化が失われていくのは残念至極。

 比喩的に言えば、サーターアンダーギーの沖縄風ドーナッツ化とでも言ったところか。
 などと言っても、なんだかわからないかも。
 簡単にご説明しておこう。

 このサーターアンダーギーという名称、「砂糖揚げ菓子」の訛にも聞こえる。従って、ドーナッツの一種と見なしがち。
 ところが、和菓子の本を見ていると、これが、唐から渡ってきた公式行事用の菓子に見えてくるから不思議。そんな意味である。
 これでは、ますますわからないか。

 ともあれ、サーターアンダーギーの正体とは、「三月菓子」、サングァチグァーシらしいのである。こちらは、形状は球体ではなく、直方体に近い。表面の裂け目も、膨らんだ時に自然にできたものではなく、表面に入れた3本の切り込みによる亀裂。これだけの違いはあるものの、中身はほとんど同一。(1)
 実は、この姿が、御厨所が作ったとされる揚げ菓子「カッコ[食偏の曷と胡]」にそっくりなのである。(2)そういえば、名前も「砂糖カッコ菓子」と読めそうだ。まあ素人の想像に過ぎないが。

 と言っても、重箱に詰めやすい形にして、上手く身が弾けるように切れ目をいれただけと考えることもできないことはない。だが、そんなものをわざわざ旧暦3月3日の節句用に作るとは思えまい。由緒正しき御菓子に違いなかろう。本土では、このような「唐菓子」はそうとう昔に消滅してしまったが、沖縄だけが守り続けているということだ。

 この節句、本土では「桃の節句」と呼ぶ。そのお陰で、起源は忘却のかなた。もともとは、水辺で穢れをおとす女性の儀式の日なのだが。
 お雛様飾りにしても、水辺での流し雛の儀式を室内に持ち込んだもの。お公家さん達が人型を流す宴の話を、古文で読んだことを思い出せばわかろう。古文が嫌いだった人は別だが
 ところが、沖縄では、廃れつつあるとはいえ、今もって潮干狩りをかねた「浜降り」行事が残っているようだ。本土でその面影を伝えるのは、蛤形の干菓子や、サザエや鯛の形の金華糖だけ。
 まあ、新暦にすれば、寒くて潮干狩りどころではないから当然といえば当然ではある。

 この行事、禊行為が続いているだけではない。海に御重を持参する習慣も大事にしているそうだ。
〜三月節句の御重〜
一の重 蒲鉾+天麩羅
二の重 御結び(赤飯)
三の重 三月菓子
与の重 草餅(フーツムチ)
 そこには、三月菓子だけでなく、予想通り、草餅もある。
 だが、蒲鉾も。

 う〜む。
 お花見弁当的なおかずの一品に見えるが、これは凄い。
 蒲鉾屋さんで昔きいた話だが、正式には、蒲鉾は手食すべきもの。由来が古い食品なのだそうである。ただ、それをさかのぼれる資料がないのだとか。
 つまり、この御重は、箸を使わず、手食が原則なのだ。古代日本の神と共にいただく際の、手食習慣を守り続けている訳である。
 流石に、これには驚いた。
  → 「沖縄食文化の見方 」 (2008年5月1日)

 まあ、よく考えると、こんなことに興味を覚えること自体、日本文化そのものかも。
 海外で、Food Cultureと言っても、ピンとこないのが普通。どの国でも、宗教に基づく食の禁忌はあるが、表立って語ろうとしないし、食のスタイルは階級意識とつながっているから、話題として避けていそうだ。
 食のスタイル話が大好きなのは日本人位ではなかろうか。
 これを、飽食の時代の特徴と、批判する人も少なくないが、民族感情的なものではないか。
 神経が行き届いた商品が生まれ易いのも、こうした、どうでもよさそうな細かなことにこだわる体質からきているような気もする。

 --- 参照 ---
(1) 三月菓子(さんぐゎちぐわーし) [オキナワカルチャーワールド-那覇市]
  http://www.culture-archive.city.naha.okinawa.jp/html/b_contents/70020000.html#picture
(2) 青木直己[虎屋文庫]: 「図説 和菓子の今昔」 淡交社 2000年, 24/26頁の写真
(三月菓子の写真) [Wikipedia] 3gatsugashi.jpg by M-ogino http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:3gatsugashi.jpg


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