表紙 目次 | 2014.3.24 蓮華とは輪廻再生のシンボル蓮華信仰の話は雑駁すぎたと少々反省。→ 「蓮文化はナイル河文明発祥か」 説明を追加しておこう。 なにがポイントかと言えば、それは蓮華信仰の本気度。 先ず日本だが、蓮の花を日本的と考える人はまずいまい。仏教国だというのに。 国の花と言えば、桜か菊というのが通り相場。つまり、蓮華には、そこまでの思い入れは無いということ。もっとも、そうは思いたくない方も沢山おられるだろうが、現実を直視すべきだろう。 強引な推量でよいのなら、日本では、菊花が白蓮を代替したと言うこともできる。蓮より菊の方が薫るし、「死後」を重視する宗教たる仏教に合っていると看破したということ。 それはそれとして、なんといっても、面白いのは、仏教が廃れてしまったインドでは"Kamal"こと蓮が花の代名詞に近い存在。つまり、ヒンズー教の聖花ということ。仏教発祥前からの信仰に根ざしていると見るのが妥当だろう。もちろん色は白とピンク。 従って、ヒンズー排斥の国粋主義国家のブータンが蓮を国花にする訳もなし。ご存知、青色の芥子/Prickly Blue poppy。言うまでもないが、敬虔な仏教徒が多数派の国である。 しかし、単純な人口では仏教徒より、ヒンズー教徒の方が多いと言われるネパールも蓮華信仰は目立たない。湖沼地が少ないこともあろうが、赤色花の石楠花"Lali Guras"が国花扱い。[樹形杜鵑/Tree Rhododendron] 信仰心篤き人々の国に映るが、蓮華信仰はそれほど熱いものではないようだ。 独特な仏教による政教一致体制が長かったチベットも同じようなもの。そこから伝播したモンゴルにしても、蓮華信仰とは縁遠いと見てよさそう。但し、それは蓮華を軽視している訳ではないので注意は必要である。チベット密教の創始者パドマサンバヴァとは蓮華生大師のこと。蓮の花の中から子供の姿で現れたという伝説の僧である。チベット王に招聘され、土着ボン教を調伏して、仏教王国を作り上げたのだ。 こうした話があるので、仏教と蓮の間に深い結びつきがあったと考える人もいるが、小生は正反対の見方をとる。 仏教に帰依する民が心から蓮華を尊崇していれば、仏教国なら国花扱いは当たり前だろう。にもかかわらず、そうはならない。お話に納得はするが、理屈でわかっただけで、それこそ肌的な実感にまでは至らないのだと思う。 つまり、古くからのインド・ヒンズーの象徴花を仏教が取り入れた訳ではなさそうということ。 驚かされるのは、反ヒンズーのインド・イスラムの分裂国家を形成したバングラデシュの国花がロータスこと"Shapla"なのだ。湿地が多い国だから選ばれた花と単純に解釈できる話ではなかろう。なにせ、憲法で定められている由緒正しき花なのだから。おっと、正確には蓮ではなく、白睡蓮/Hairy water lilyである。 そうくれば、セイロン島で仏教徒が立ち上げた国、スリランカの花も見ておく必要があろう。こちらは、ヒンズーの白蓮でもなければ、紅蓮でもないが、ロータスが国花だ。そう、青睡蓮の"Nil Manel"。 インド圏ではあるものの、覇権国家たるヒンズーのインドとは一線を画す2つの隣国は、睡蓮派なのだ。これは、ナイル文明の花である白睡蓮と青睡蓮への信奉から来ているとしか思えまい。 ちなみに、バングラデシュのお隣ミャンマー(ビルマ)は紛れも無き仏教国だが国花はロータスではないのである。 ついでながら、近隣の仏教国、カンボジア、ラオスも同様。メコン河の滞留水は多いにもかかわらず、愛されているのは芳香系の花。ジャスミン系やプルメリア好きな東南アジア島嶼の人々と類似文化と言えよう。そうそう、パキスタンも矢張り芳香花。[カンボジアはバンレイシ類の黄色芳香花"Rumdul"] 日本的感覚からすれば、熱帯花の芳しい香りなど現世の迷いの素と解釈しそうだが、そんな発想は全く生まれない訳である。 こうして見ていくと、日本同様に蓮のイメージに仏教的信仰が重なるのは、おそらく、ベトナムとタイくらい。 ただ、ベトナムは政治体制上、仏花を国花に指定する訳にはいくまいが、事実上一番愛されている花だろう。蓮は生活感溢れる植物でもあることだし。中国的な食中心文化と、宗教心が融合しているといったところ。[花茶「Tra Sen」、焙煎実「Hat Sen Say」、茎酢漬のサラダ「Goi Ngo Sen」等がある。] もちろん、睡蓮ではなく、正統の、淡いピンク色の蓮"Sen"だ。 一方、タイの場合は、ロータスは観光的に極めて重要なので大切にされているが、白/紅蓮と白/青睡蓮に特段の区別はなさそう。 タイ語が全くわからないので、間違っている可能性は高いが、こんなところか。 ・"Bua luang" 紅蓮 ・"Pathum (Bundarika)" 白蓮 ・"Ubon or Bua sai" 白睡蓮 ・"Bua kradong" 青睡蓮(色は紫) おわかりになれるだろうか。 睡蓮と蓮を峻別していないのは、青睡蓮[昼咲] Egyptian Blue Water Lilyと白睡蓮 [夜咲] Egyptian White Water Lilyの信仰を引き継いでいると見る訳である。 睡蓮の象徴は浄土というより、死と再生そのもの。いわば、仏教輪廻観の原初と見ることもできよう。ナイル文明の死者の書がそれを物語る。・・・ 【Papyrus of Ani @1240B.C.: Chapter of making the transformation into a lotus】 The Osiris, the lady of of the house, Aui, whose word is truth, in peace, saith: - Hail, thou Lotus, thou type of the god Nefer -Temu! I am the man who knoweth your names. I know your names among the gods, the lords of Khert -Neter. I am one among you. Grant ye that I may see the gods who are the Guides of the Tuat. Grant ye to me a seat in Khert -Neter, near the Lords of Amentet. Assign to me a habitation in the land of Tchesert. Receive ye me in the presence of the Lords of Eternity. Let my soul come forth in whatsoever place it pleaseth. Let it not be rejected in the presence of the Great Company of the Gods. 文化論の目次へ>>> 表紙へ>>> (C) 2014 RandDManagement.com |