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2014.4.12

桜の品種と花見文化

今年の東京都心の桜は、蕾が膨らんだかナと思うまもなく、アッという間に満開。4月1日が見頃だが、散りかけており、早、4月3日の降雨で散ってしまうという忙しなさ。まあ、例年、甚だしく寒かったり、強い風雨に当たったりと散々なことには慣れているのだが、実にせわしなかった。
そんなこともあり、約一年前に、「春の精気を感じさせる木」 [→] と言うことで、桜前線の話を書いたことを思い出した。

まあ、それぞれの地域毎に、お花見シーズンはあるし、咲く時期が異なる様々な品種があるので、その気になれば、一年中お花見が何処かでできる樹木ではあるそうナ。しかし、品種の名前を通り一遍的に耳にはする程度で、その辺りの知識は極めて乏しいままで来た。それで、別にどうということもないのだが、時間ができると、多少は理解しておきたくなってきた。
特に、その感を強くしたのは、新宿御苑に行ったからでもある。
時間帯にもよるのだろうが、いかにも欧米言語を話しそうな人達が1割近く歩いている上に、人が溜まっている場所では、アジア言語が日本語以上に飛び交っていた。
ムムー。
日本人と同じように、目立つ色彩でもないのに、皆、満開の染井吉野の花を愛でているのだ。
結構な話だが、その情景を見ていて、フト疑問が湧いてきた。染井吉野の歴史とは、文明開化以後でしかないと思うからだ。Tokyo Cherryが日本が誇るべき桜として選ばれたにすぎまい。開花時期には葉がなく、満開で咲き誇る印象が強烈だから、西洋人にウケルと判断したに違いない。それが、日本人の感性に合っているものかは、なんとも言い難し。
なにせ、日本の伝統的お花見対象は、他の桜だったのだから。

小生は、江戸住いの大名達が愛したのは、八重咲きと睨んでいる。本格的観桜会の対象とするなら、そちらの方が正統かも知れぬ。
もっとも、大名も、本心では、枝垂れが好きだった可能性もあろう。しかし、それを言い出すと、京都文化に染まりかねないから、避けたに違いない。従って、東京では、未だに枝垂系はマイナー扱いが原則となる。
一方、町人文化は大名の好みとは違う筈。恣意的に対立していた可能性も。おそらく、特段の拘りはないだろうが、流行には敏感というのが特徴と言えるかも。要するに、新しいモノ好き。と言っても、一種への偏愛ではなく、バラエティを大いに愉しんだのでは。従って、染井吉野が最高という気分は生まれていなかったと見る。
ただ、早く育つそうだから、他の栽培品種より、植え付けは格段に多かった可能性はありそうだが。

しかしながら、本当の「通」人や、「粋」に拘った人達は、おそらくそんな風潮には染まらなかったろう。伝統的桜とは、あくまでも山桜たるべしと考えていたのではなかろうか。
将軍も、それをよく理解していたからこそ、桜の名所の地名がことごとく「○○山」となっていると睨んでいるのだが、どうかネ。少なくとも、川沿いではなさそう。
そして、忘れてならないのは、武蔵野は一面の雑木林だった点。間違えてならぬのは、それは自然林の風合はあるが、その正反対で、よくよく手入れされた多種共存の樹勢に逆らわぬことをモットーとする人工林なのである。もちろん、そこに植わる桜は山桜以外にあり得まい。

こんなことを考えると、Tokyo Cherryを愉しむだけでなく、山桜や、他の様々な品種も観賞してみたくなるではないか。
それに適しているのは新宿御苑。ただ、敷地が広いので簡単に探せない訳だが。

そんな観点で、先ず、見ておきたいのが、山桜の「花咲葉伸同時」系である。そうそう、葉も真緑色ではなく、茶色がかっていることが多い。
そのような、山野に自然に生えているような樹木はたいして種類はないのだから、それぞれどんな樹木なのか知っておきたいもの。
と言うことで、以下は品種の素人的メモ。(間違いがあるかも知れぬのでご注意のほど。)
(ここでは、<山野櫻>とは自然種で、<里桜>は栽培種を示す。)
  [註] ●は新宿御苑。★は東御苑[桜の島]。 

「花弁白色」
 山桜<山野櫻> 花白色に極薄紅一重
  薄毛山桜★
   <里桜>
   ●琴平 花白色八重
   ○御信桜 花薄桃色八重
   ○佐野桜 花薄桃色八重
「花弁薄紅色」
 大山桜<山野櫻> 花桃色一重
   <里桜>
   ○初雪桜

続いて、「伊豆諸島」からやってきた花が大振りな桜。江戸では、ここから様々な種を作出した模様。
 大島桜<山野櫻> 花白色一重
   <里桜>
   ●鬱金★ 花黄緑色八重
   ●関山★ 花桃色八重

これらとは全く異なるのが、「先咲後葉伸」のタイプ。葉は真緑色。花弁は薄紅色。咲く時期が彼岸だったことが人気のもとか。
 江戸彼岸<山野櫻> 花薄桃色一重
   <里桜>
   ●枝垂桜[糸桜]
   ●八重紅枝垂桜
   ●小彼岸★(x豆桜)
   ●染井吉野(x大島桜)
    -昭和桜★
    -天城吉野★
    -●アメリカ
   ●高遠小彼岸(x近畿豆桜)

沖縄以南に目立つ紅色系も導入された。
 寒緋桜
   <里桜>
   ●寒桜(x山桜)
   ●河津桜★(x大島桜)
   ●大寒桜(寒桜x大島桜)
    -●修善寺寒桜
   ●横浜緋桜(x天城吉野)
   ●OKAME(x豆桜)
   ●ヒマラヤ緋桜(xヒマラヤ桜)
   ●陽光(x支那実桜)
    -椿寒桜★(x支那実桜)

ここからは、都会でそうそう簡単には眺めることができそうにないもの。
ただ、その遺伝子が導入された品種は相当ありそうな気もするが、一般に高地性のものは発展性が乏しいから、余り活用されていないかも。どれだけ、残っているか心配になるが、よくよく考えると、消えかねないのは実は山桜の方かも。里桜は栽培に適するからよいが、そんな性質には欠ける訳で、その割に環境を手入れしていないと生き残れないだろうし。そんな面倒な木より、染井吉野でよかろうとなること必定。

武甲山など、セメント採掘で山自体がほとんど消え失せた感じ。昔の環境を取り戻すことなど不可能。
 豆桜<山野櫻>
   ○武甲豆桜
   <里桜>
   ●冬桜/小葉桜(x大島桜)
「山麓」系もほとんど見かけない。
 霞桜<山野櫻>
 丁字桜<山野櫻>
「山地」系はどうなっているのだろうか
 深山桜<山野櫻>
   ○八重深山桜
 高嶺桜<山野櫻>

この先は、有名な栽培品種。どのような血筋なのか調べる力は無いので一覧のみ。
<理由は知らぬが新宿御苑が注力>
   ●一葉★
<八重の定番>
   ●普賢象★ 大輪八重
    すでに記載した●関山★も
<珍品的・・・花黄緑色>
   ●御衣黄★
    すでに記載した●鬱金★も
<荒川堤発祥の末裔>
   ●天の川★[枝が上に流れる]
   ●松月/瞿麥桜[花弁がナデシコ形] 大輪八重
   ●福禄寿 大輪八重
   ●小汐山
   ●長州緋桜
   ○東錦★
<気になる由緒>
   ●楊貴妃[伝興福寺育種]
   ●太白[英国作出]
   ○菊桜★[菊咲=五十重 石川県に数々の品種]
   ○仙台屋★[牧野富太郎博士推奨の高知名物]
<天然記念物>
   ●梅護寺数珠掛桜 ボンボン菊花的
<日本花の会創立50周年記念 新品種>
   ○舞姫 半蔵門公園(千鳥ヶ淵緑道南)

(参考)
日本花の会 桜図鑑 [380種類] http://www.hananokai.or.jp/b/b3000.html
新宿御苑の主な桜一覧(品種の解説、開花期、植栽場所) http://www.fng.or.jp/shinjuku/info/shinjuku_flower_sakura1.html



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