■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2013.4.28 ■■■

   春の精気を感じさせる木

朝起きて、リビングルームのブラインドを上げると、桜の若葉の緑色が目に染みる。花が咲いていた時は、様々な種類の小鳥が次々と遊びにきて鳴いていたが、もう遠足シーズンは終わったと見える。今は、ご近所住まいと思われる鳥の方々が、花の季節を思い出すかのように、枝を揺らして楽しんだりするだけ。ずいぶんと静かになった。
そんなことを今の時期に書けるのは東京在住だから。高尾山でも葉桜化しているというのに、盛岡ではそろそろ開花なのである。札幌だと、ゴールデンウィーク明けの5月10日になりそうだとのこと。その時間差を縫うかのように、桜命の方々が、桜前線を追って北上中。

それにしても驚いたのは、今年の開花が早かったこと。東京では、昨年より2週間くらい前倒しの花見行事が迫られた感じ。どうなっているのかと思ってデータを見てみたら、太平洋岸、特に関東は開花がずいぶんと早いのに驚かされた。なにせ熊本と開花が同じ日。瀬戸内海の岡山より1週間も早いとは知らなかった。冬の寒さが弱いと開花が遅れ勝ちになる植物だから、こういうことになったのだろうか。それとも大都会のせいか。
---2013年開花日---
3月13日 福岡市 宮崎市 宇和島市 宿毛市
3月14日 大分市
3月15日 鹿児島市 都城市 高知市
3月16日 長崎市 熊本市
     東京都心
3月17日 松山市
     静岡市
3月18日 佐賀市 和歌山市
     小田原市 横浜市
3月19日 下関市 岩国市 名古屋市
     八王子市 さいたま市 熊谷市 甲府市
3月20日 鳥取市
     八丈島
3月21日 大阪市 神戸市 浜松市 岐阜市
     銚子市 水戸市 宇都宮市
3月22日 高松市 広島市 京都市 奈良市
3月23日 松江市
3月24日 徳島市 岡山市
3月25日 姫路市 舞鶴市 津市 飯田市
(source:tenki.jp 桜の開花予想ページ)

沖縄や北海道はもしかしたら異なるかも知らぬが、このデータが意味を持つのは指標とする桜の品種が「染井吉野」だから。他の種類は余り植えられていないからという意味ではない。挿し木で育てるのだから、完全なクローン生物であり、親子関係が生み出す個体のバラツキを考える必要がないということ。
だが、このような定式化が進んでいるためもあるのか、東京では、ソメイヨシノ以外の桜を滅多に見かけなくなった。これも又寂しい限り。

もっとも正確には、この一抹の寂しさは、ソメイヨシノ全盛であるというよりは、少数派の扱い方から来る。非ソメイヨシノだとはっきりわかる樹木もあるのだが、その名前がわからないのである。これが残念至極。
間違ってもらってはこまるが、名前を覚えようと提案するつもりなのではない。繰り返すが、扱い方なのである。わざわざご丁寧にも、沢山の樹木に「ソメイヨシノ バラ科」との美麗な銘板が掲げられている。まあ、今時、なくてもわかると思うがそれが教育方針なのだろう。ところが、非ソメイヨシノの品種にはついていないのである。ソメイヨシノ銘板は大量生産品だから、お安いので沢山つけて、植物名表示件数向上に励んでいるのだろう。

もちろん、色々な種類がわかる場所も例外的に存在する。非ソメイヨシノの品種を知りたい人は、そこへ行くしかないのである。この時期になると、公的観桜会のニュースが必ず流れる新宿御苑である。面白いのは、ソメイヨシノ満開が過ぎ、花弁が散って葉が出てしまっている状態でも、観桜会を開催する点。要するに対象は八重桜なのである。主体の品種は「一葉」らしいが、濃紅色が溢れる「関山」辺りが派手だから、こちらの方がその手のイベントに向いていそうな気もする。
その八重桜だが、咲く時期も微妙に違うものらしい。伊豆の花見で、桜好きの人に聞いた話だから、正確性は保証の限りではないが、「奈良」が一番遅いとか。地名から見て、なんか逆の感じもするのだが、園芸品種の名前は気分でつけているようだから、北の系統の桜かも。
そうそう、遅く咲くのは、「菊桜」だという。この名前、小生は、ド忘れか、初耳のどちらかよくわからないが、ともかく知らなかった。どうもそれは非常識と見なされるらしい。初耳の方はここで覚えておいた方がよい。薄緑色を感じるような花だそうである。小さな白菊の印象なのだろう。小生は、花の最後は、「深山桜」だと思っていたのだが、どうもそういう発想は理科的頭で無粋とされそうなので、その辺りもご用心のほど。ともあれ、八重桜の後に咲く桜も結構愛されているらしい。
季語がダブルのでどうかと思うが、それが良いとされるらしい蕪村の歌の世界が、桜好きには好まれているということかナ。
 行く春や 逡巡として 遅桜 [蕪村]

小生は寒い時期に桜が咲いている不自然さを愛でる方が好みというか、伊豆に温泉に入りに行けば、せっかくだからと、観光用の熱海桜と河津桜を眺めるかということになるだけのこと。そうそう、伊豆には非観光用の桜畑がある。華道用の桜の枝ではなく、桜餅を包む塩漬け用の葉の生産地。当然のことながら、オオシマザクラ。桜湯用は八重咲だから別な種である。

こんなことを書いているのは、春の精気を運んでくるという感覚がどこから来ているかなんとなくわかった気がしてきたから。
冒頭に取り上げたように、現代では、桜前線が春がどこまで偲びよったかを示すものになっている。クローン種だから、同じ条件下では一斉開花する訳で、樹木センサーそのもの。こうした観測データを見て、春の精気を感じるかは、人それぞれだが、いかにも人工的とはいえ、春が自分の住んでいるところにもやってくるという感覚が生まれるのは確か。これが園芸品種でなく、自生の樹木だったら、春の到来の実感度はもっと高まろう。

そんなのは、どの樹木でも大同小異というなかれ。桜は独特である。東京と熊本が同一開花だったりするのは、冬の一番寒かった時期から、暖かさが積算されて、平均気温がある程度の値になったとたんに開花する性質はそうそうあるものではなかろう。吉野山など典型だが、ミニ開花前線が狭い地域内ではっきり見てとれる訳である。しかも、場所によっては、山頂から山麓に向かって開花することもあろう。それを春の精気の到来と感じるのは自然なことでは。
その辺りが、桜と梅の大きな違いである。梅は、暖風が吹いてくると、開花するようだ。従って、まだ感覚的には寒くて冬としか思えない気候にもかかわらず、開花する。それは間違いなく春を告げるもの。厳しい冬を過ごしてきた人々からすると、嬉しい春の到来の予兆。従って、梅の花見は楽しかったに違いない。しかも、かすかな香りが漂ってくるから、春の気分を味わえ、心も弾んでくる。しかし、咲き始める樹木の場所の比較ができるようになると、春の精気が梅の木に宿るというよりは、春の風を浴びて早々と咲いただけとの印象も強まったに違いない。桜とは違うことに気付いた訳だ。

(当サイト過去記載)
・今年のお花見で考えたこと(2012.4.17)
・【古都散策方法 京都-その28】京都の桜に活力を貰う。 (2010.3.11)
・衰退路線を走る桜の名所 (20050414)



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