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「我的漢語」
2015年7月23日

大陸の桃信仰

せっかく桃文字を眺めたのに、[→] 桃源郷の話をせせずに終わってしまうと、物足りなさが残るので、そこらに触れておこうと思う。

ご存知のように、このコンセプトは陶渕明の創作と言われている。

    「桃花源記」  陶渕明
晉太元中、武陵人捕魚爲業。
縁溪行、忘路之遠近。忽逢桃花林。夾岸數百歩、中無雜樹、芳草鮮美、落英繽紛。漁人甚異之。復前行、欲窮其林。林盡水源、便得一山。山有小口、髣髴若有光。
便捨船、從口入。初極狹、纔通人。復行數十歩、豁然開朗。土地平曠、屋舍儼然。有良田・美池・桑竹之屬。阡陌交通、鷄犬相聞。其中往來種作、男女衣著、悉如外人。黄髮垂髫、並怡然自樂。
見漁人、乃大驚、問所從來、具答之。便要還家、設酒殺鷄作食。
村中聞有此人、咸來問訊。
自云「先世避秦時亂、率妻子邑人來此絶境、不復出焉、遂與外人間隔」。
問「今是何世」、乃不知有漢、無論魏・晉。此人一一爲具言所聞、皆歎。餘人各復延至其家、皆出酒食。
停數日、辭去。
此中人語云:「不足爲外人道也。」既出、得其船、便扶向路、處處誌之。及郡下、詣太守、説如此。太守即遣人隨其往、尋向所誌、遂迷、不復得路。
南陽劉子驥、高尚士也。聞之、欣然規往。未果、尋病終。後遂無問津者。


流石、陶渕明。影響力絶大。すっかり仙人の住む地のイメージができあがってしまった。

    「桃源行」  王維
  漁舟逐水愛山春、兩岸桃花夾古津。
  坐看紅樹不知遠、行盡青溪不見人。
  山口潛行始隈、山開曠望旋平陸。
  遙看一處雲樹、近入千家散花竹。
  樵客初傳漢姓名、居人未改秦衣服。
  居人共住武陵源、還從物外起田園。
  月明松下房靜、日出雲中犬喧。
  驚聞俗客爭來集、競引還家問都邑。
  平明閭巷掃花開、薄暮漁樵乘水入。
  初因避地去人間、及至成仙遂不還。
  峽裡誰知有人事、世中遙望空雲山。
  不疑靈境難聞見、塵心未盡思郷縣。
  出洞無論隔山水、辭家終擬長游衍。
  自謂經過舊不迷、安知峰壑今來變。
  當時只記入山深、青溪幾曲到雲林?
  春來遍是桃花水、不辨仙源何處尋?


    「山中問答」  李白
  問余何意棲碧山 笑而不答心自閑
  桃花流水杳然去 別有天地非人間


しかし、食については一家言ありの、蘇東坡になるとまともな意見を述べている。
なんで仙の世界が漁師を歓待し、鶏で饗応するのかと。
外部から見れば、中華の風土とは、食の次はカネ。租税ゼロこそが桃源の要件のイの一番ではないかネ。
まあ素人的には、陶淵明の創作の肝は最後の句、「後遂無問津者」にあるとしたい。ついに、道を探すような人間がいない社会になってしまったと指摘している訳である。

    「和桃源詩序」  蘇軾
世傳桃源事、多過其實。考淵明所記、止言先世避秦亂來此、則漁人所見、似是其子孫、非秦人不死者也。
又雲殺作食、豈有仙而殺者乎?
舊説南陽有菊水、水甘而芳、居民三十余家、飲其水皆壽、或至百二三十、蜀青城山老人村、有五世孫者、道極險遠、生不識鹽醢、而溪中多枸杞、根如龍蛇、飲其水故壽、近道稍通、漸能致五味、而壽亦益衰、桃源蓋其比也歟!
使武陵太守得至焉、則已化爲爭奪之場久矣、常意天壤之間若此者甚衆、不獨桃源。余在潁州夢至一官府、人物與俗間無異、而山川清遠、有足樂者、顧視堂上、榜曰仇池、覺而念之、仇池武都故地、楊難當所保、余何為居之、明日以問客、客有趙令町コ鱗者曰、公何為問此、此乃福地、小有洞天之附庸也。杜子美蓋云、萬古仇池穴、潛通小有天、神魚人不見、福地語真傳、近接西南境、長懷十九泉、何時一茅屋、送老白雲邊。他日工部侍郎王欽臣仲至、謂余曰、吾奉使過仇池、有九十九泉、萬山環之、可以避世如桃源也。


ただ、こうしたお話が流行ったのは、もともと民俗的な桃信仰があったからだろう。
現在も正月に、家の護符として、桃材に邪鬼払い呪文/絵/記号を描いた桃符を門にとりつける風習は続いているようだし。
その風習が日本に伝わって、疫病神が家に入らないようにという「蘇民将来子孫家門」になったのかも。そうだとすれば、「蘇民将来護符」は正式には桃材かも。

ともあれ、桃信仰はとてつもなく古い。詩経にそのような雰囲気で登場するのだから。少なくとも2,500年前にはすでに信仰が確立していたことになろう。
尚、「桃夭」は、高等古文B(漢文)に登場するようだ。アンチョコの解説はどうなっているのかわからぬが、「花→実→葉」と経ていくところが秀逸とでもするのだろうか。あるいは韻を知ろうと指導せよということか。
なんで桃なの?との質問にはどう答えるのか知りたい気がする。(食すと長寿が約束される実をつける桃木が、九霊太妙亀山金母(西王母)保有の崑崙山蟠桃園に生えているとの話が、註に書いてあるとは思えないし。)

    「桃夭」  詩経 国風・周南
  桃之夭夭  灼灼其華
  之子于歸  宜其室家
  桃之夭夭  有其実
  之子于歸  宜其家室
  桃之夭夭  其葉蓁蓁
  之子于歸  宜其家人


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