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「我的漢語」
2015年12月31日

我推薦楽天詩従高適的除夜詩

除夜といえば高適[n.a.-765]。定番中の定番。日本人が愛する代表的な漢詩でもある。

   「除夜作」  高適
  旅館寒燈獨不眠、客心何事轉悽然。
  故郷今夜思千里、愁鬢明朝又一年。


小生も、教えてもらった時は、旅館寒燈獨不眠に成程感満杯。
雪が残る山道を歩いて、ようやくにして人気の無い温泉小屋の灯りが見えてくる情景に、旅館寒燈シーンがダブったり。

白楽天の作品でいえば、以下のような表現にあたるだろうか。

    「長恨歌」  白居易@35歳
   :
  
夕殿螢飛思悄然、孤燈挑盡未成眠。
  遲遲鐘鼓初長夜、耿耿星河欲曙天。
  鴛鴦瓦冷霜華重、翡翠衾寒誰與共。
  
悠悠生死別經年、魂魄不曾來入夢。
   :


そんなことを考えながら、編年型の「白楽天詩選」をぼんやり眺めていたら、「除夜作」で生まれる情緒感覚が霧消してしまった。白居易の除夜詩に巡りあったからではなく、楽天作品全体の流れを感じ取ったからである。

考えて見れば、高適とは、磊落な性質と言えば聞こえがよいが、家業を潰して食客として過ごしたり、はたまたジョブホッパー的に華やかな場面に登場するなど、チャランポランな生活者。どう見ても、故郷を愛するタイプではない。もちろん、溜息をついてまで、官僚の仕事をするなど有り得ぬ話。
作詩を始めたのも50になってからとか。どう考えても、周囲の高級官僚の真似をしたくなっただけ。結果、人気者に。おそらく、詩作好きと言うより、詩才で衆目を集めることが楽しいのだろう。

そもそも、官僚の道を選べば、新年を郷里で過ごせなくなったりするもの。それを知らぬ訳もなし。従って、「除夜作」は、親元を離れ、天子の側で働こうとの意気の裏面でもある郷里への思いを描いた多くの詩とは全く異なる。

故郷の親がみえ、君は失意のなかの通行人、我は筏に乗っているといった、いかにも興に乗った詩作とも無縁。

   「除夜樂城逢張少府」  孟浩然
  雲海泛甌、風潮泊島濱。
  何知除夜、得見故郷親。
  余是乘槎客、君爲失路人。
  平生復能幾、一別十餘春。

   「除夜樂城逢孟浩」  張子容
  遠客襄陽郡、來過海岸家。
  樽開柏葉酒、燈發九枝花。
  妙曲逢盧女、高才得孟嘉。
  東山行樂意、非是競繁華。


白楽天には、官僚生活から一歩引いた姿勢の詩が多く、溜息をつきながら事としているが如くに見える。
だが、若き白楽天の詩には気概を感じさせるもの多し。まともな政治を志向し、科挙合格仲間達と力を合わせて頑張らねば世はどうにもならぬと考えていたに違いない。
しかし、中央政治の現実は権謀術策の世界。天子もピンキリ。自分達の思った方向に進むことなど滅多に無い。下手に蹴落とされたりすれば、命さえ奪われかねない。そんな状況だから、故郷から千里も遠き地で働かされようが、それをママ受けいれるしかないのだ。溜息は出るが、それを逆に愉しむ心の余裕があったのである。

一方の高適の体質はそれとは水と油の関係に近かろう。仕事が面白くないなら、止めればよいだけのこと。極貧評論家然として半食客となって生きる道もあるからだ。

そんな風に考えてしまうと、楽天で生きて行くゾとの達観に共感が湧いてくる。・・・どんな道を歩もうと、家族を失ったり、病苦に見舞われたり、といった個人生活上の心労から離れることはできぬ。下らぬ権力欲で明け暮れる生活など真っ平御免でも、官僚として食べていくしか手がなさそうなら、政治闘争に巻き込まれるのは致し方なし。すべて、ありのママ受け入れ、日々、ベストエフォートベイシスで淡々と生きるしかあるまい。
もちろん、詩仙のように、道教ドラッグにも染まらず。 [→]

白楽天は、その調子で、最高官位まで登り詰めたのだから、なかなかのやり手でもある。

と言うことで、白楽天の除夜詩から。

まずは青年期。

    「除夜寄弟妹」  白居易@16歳
  感時思弟妹、不寐百憂生。
  萬里經年別、
孤燈此夜情。
  病容非舊日、歸思逼新正。
  早晩重歡會、羇離各長成。


河北省境での旅泊除夜詩も引用しておこう。

    「除夜宿州」  白居易@33歳
  家寄關西住、身爲河北遊。
  蕭條除夜、旅泊在州。


50間近になると、当然のこと、「紛多思」である。

    「除夜」  白居易
  暮紛多思、天涯渺未歸。
  老添新甲子、病減舊容輝。
  郷國仍留念、功名已息機。
  明朝四十九、應轉悟前非。


流石に、官僚人生のお方でも70目前になると、雰囲気もガラリと変わる。・・・まさしく、ご一家に囲まれた長寿ご夫妻の図であり、そのお気持ちわかる。たとえ、世は大乱であろうが。

    「三年除夜」  白居易
  晰晰燎火光、臘酒香。
  嗤嗤童稚戲、迢迢夜長。
  堂上書帳前、長幼合成行。
  以我年最長、次第來稱觴。
  七十期漸近、萬告S已忘。
  不唯少歡樂、兼亦無悲傷。
  素屏應居士、青衣侍孟光。
  夫妻老相對、各坐一繩牀。


岩波文庫の白楽天詩選には除夜詩は採られていないが、70回目の正月の詩と「達哉楽天行」が並んで掲載されている。その方が明るくてよかろう。

    「喜入新年自詠」 時年七十一  白居易
  白鬚如雪五朝臣、又値新正第七旬。
  老過占他藍尾酒、病餘收得到頭身。
  銷磨月成高位、比類時流是幸人。
  大暦年中騎竹馬、幾人得見會昌春。

川合康三 注によれば、會昌2年の作で、この年に退官。生まれたのは大暦7年で、「白氏文集75巻」完成翌年の會昌6年に75歳で歿。都合、仕えた5天子[五朝臣]は、憲宗[第14代]-穆宗-敬宗-文宗-武宗。

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