■■■ 「說文解字」「爾雅」検討[全体]■■■
「爾雅」は、撰者も成立年代も不詳だが、武帝代@前漢にはすでに存在していた。儒教政治勢力に支えられて成立した字書なのは間違いなさそうだから、「詩経」の伝注類を収録することに注力している筈。ところが、実際眺めてみるとカバー率はかなり低く、熱意を感じさせるレベルでは無い。
それよりは、<草 木 蟲 魚 鳥 獣 畜>の釈名書として、定番にしたかったということかも。要するに、「論語」の教えに沿ってここらを充実させたかったということなのだろう。(と言っても、怪奇書と見なしている「山海経」無しにはどうにもならないからかなり苦労したに違いない。)
 子曰:「小子!何莫學夫《詩》?
    《詩》可以興 可以觀 可以群 可以怨
     邇之事父 遠之事君
     多識於鳥獸草木之名。」
 [「論語」陽貨第十七#9]

しかしながら、体裁は字典ではあるものの、結局のところ、類語語彙集に留まっているので、得られる知識の質はそう高いものではない。・・・このことは、読み手からすれば、かえって便利な書ということで人気が出た可能性が高そう。詩作が重要なお勤めでもある、官僚及びその同クラスの人々にとっては、代替文字や意義拡張方策を見出せるから,えらく重宝した筈で。(「禮」の語彙の意義拡張のヒント満載と見ることもできる訳で。)
…≪同義語彙篇≫詁[古人用例] 言[通常用例] 詁[重畳用例]
 ≪事物語彙篇≫親 宮 器 楽 天 地 丘 山 水 草 木 蟲 魚 鳥 獣 畜

≪事物語彙篇≫とは、例えば、この様な構成にならざるを得ない。…貝原好古[編]:「和爾雅」@1688(日本語で用いられる漢字の音訓付の漢文注解書で、「爾雅」に倣って意義の24門に分類。)…天文 地理(附 水火土石類 日本國郡 日本國名所 外國名) 歳時 居處 ~祇 人倫 身體(病疴附) 親戚 官職 姓名 衣服(布帛綵色附) 實貨 器用 畜獸 禽鳥 龍魚 蟲介 米穀 飲食 果蓏 菜蔬 艸木 數量 言語(人事附) [附]雜類

その構成から見て、言葉のカテゴリー分けを行った書とも言える。・・・漢語は、ここらが分かり難いところだが、意味を持つ語彙といっても、その発音を聴いたり、当該表記文字を見たからといって、その意味は確定できない。単語が並ばない限り品詞が決まらないからだ。
逆に言えば、語彙をいくつかピックアップして順番を決めさえすれば、そこから意味が生まれる。一字=一語では、極めて曖昧な定義しかできない訳で、原理的に類縁語彙は沢山存在せざるを得ないと言ってよかろう。これでは読解に役に立つとは思えない。

つまり、「爾雅」の方法論だと、事物固有名称を除けば、1文字は様々な分類に登場しておかしくない。その固有名詞にしても、他品詞にも用いられたり、比喩的に使われることがあるにもかかわらず、どの様に考えるべきかの指針が無いから文字理解に貢献しているとは言い難いものがあろう。
(いくら見かけ沢山の情報を並べようと、A=Bしか書けない以上、固有名詞にしても、明確に定義できる訳もなく、実体推定など不可能。要するに、同義語を繰り返す以外になす術なし。これでは、方法論的に語彙の説明になっておらず、詩を読むための解説書とはみなし難い。・・・「說文解字」でのA=Bはコンセプト提示なので、同じ様な記述と見るべきではない。)

しかし、繰り返すが、それでも、「爾雅」は十分以上の働きをすることになる。詩作に際して、古詩句引用や、類似語彙ピックアップ用に使うならこれほど便利な書はないからだ。

「說文解字」はそこらを理解して編纂されていると言ってよいだろう。だからこそ、秩序だった文字全体像提起という目的に向かって駆け抜けることができたのだと思う。

---「爾雅」引用---
好倍肉謂之瑗 肉倍好謂之璧
徥 則也
餀謂之喙
 𤯷 𤯷 華也
栭謂之㮞
 樀 檐謂之樀
 杗 杗𢊺謂之梁
 柮 貀無前足之貀
䙟䙟䙡䙡
 覭 覭髳弗離
 㰶 麔豭短脰
 𣄴 𣄴薄也
小山馺 大山峘
 猲 短喙犬謂之猲獢
 狻
 玃 玃父善顧
 獌 貙獌 似貍
 黝 地謂之黝
西至汃國 謂四極
 渚 小洲曰渚
 涓 汝爲涓
 瀸 泉一見一否爲瀸
  水醮曰
 瀵 瀵 大出尾下
 涒 太歲在申曰涒灘

「爾雅」
---同義語篇---
≪釋詁 第一≫[古人用例]
≪釋言 第二≫[通常用例]
≪釋訓 第三≫[重畳用例]
---事物語篇---
≪釋親 第四≫
≪釋宮 第五≫
≪釋器 第六≫
≪釋楽 第七≫
≪釋天 第八≫
≪釋地 第九≫
≪釋丘 第十≫
≪釋山 第十一≫
≪釋水 第十二≫
≪釋草 第十三≫
≪釋木 第十四≫
≪釋蟲 第十五≫
≪釋魚 第十六≫
≪釋鳥 第十七≫
≪釋獣 第十八≫
≪釋畜 第十九≫
  

     

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