■■■ 「說文解字」「爾雅」検討[17q釋鳥]■■■
釋鳥篇末は記載の流れが突如変わって、2種の名称が記載される。
  <鵙…【伯勞】><倉庚…【黧黃】>
しかも後者は<倉庚 商庚>が別途記載されているにもかかわらず。
【伯勞】モズ[百舌]shrike ⇒鵙/鶪 鴂/鴃 鶷𪆰
【春告鳥】(人気鳥)
  黃雀/黧黃マヒワ[真鶸]Eurasian siskin  (離:離黃 倉庚 鳴則蠶生)
  黃鸝/鵹黃/楚雀コウライウグイス[高麗鶯]black-naped oriole

急遽、思い付いたので加えた訳でもないだろうから、「詩経」(國風 豳風 七月)を読むようにとのお達しなのだろう。それに、どういう意味があるのかは定かではないが。
もちろん、「七月」詩から、この2種が季節を告げる代表2鳥であることはわかるものの。田鼠化為鴽の如くで、暦のKey Birdsであるのは間違いない訳で。
📖↓・・・
  ≪啓蟄≫倉庚鳴
      ≪芒種≫鵙始鳴@七十二候[宣明暦]
  【正月-仲春之月】始雨水蒼庚鳴
     【四月-仲夏之月】小暑至鵙始鳴@「淮南子」卷五 時則訓

ともあれ、「爾雅」の読者となることに決めた以上、従っておくことにしよう。この2語で"雅"を味わえとのご指示なのだろうから。(科挙合格レベルには程遠い浅学者と云うより、ド素人の散文解釈になる。当然、常識的読み方とは違ってしまうだろう。・・・どう読もうと勝手と云える時代になったのは有難いことだ。)

通常、お勧めは、牧歌的(農歴)古詩としての鑑賞。
ただ、その場合は、周王朝の<公子>が登場する以上、あくまでも王朝からの求めに応じて 豳側が創作した高度に政治的な"作品"であることを曖昧にすべきではなかろう。さらに、「古事記」の如くに男女の世界での恋歌あるいは歌垣的センスを欠いている点も特徴としてあげておく必要がある。もちろん、そうした感覚を多少持ち込めそうな箇所もあるが、意味が全く違う可能性が高い。公子賛歌を謳うことは、豳側が植民政策を積極的に受け入れたことを意味するのだから。
と言っても、表面的受け入れではなく、本心からに見える。ほとんどが豳の伝承歌謡から成るオムニバス的詩だからだが。
ついでに、宗族第一主義的に読む方法も付け加えておこう。これは簡単だし、結構実用的だと思う。公子を首領ではなく、宗祖廟の魂とみなせばよいのだから。
     [「詩經」國風 豳風 七月]
七月流火 九月授衣 一之日觱發 二之日栗烈
無衣無褐 何以卒歲? 三之日于耜 四之日舉趾
我婦子 饁彼南畝 田o至喜
   七月になれば移ろい星のアンタレス登場 九月になれば冬着の授与
    一月の日々は体にこたえ 二月の日々は猛烈に冷える
     冬着無し被り物も無しで どうして歳越できようか?
      三月の日々には鋤の準備 四月の日々には田圃への踏み込み
       我が妻子と一緒に 彼の神域南畝に奉納し
        田の神に寿いでもらおうぞ

七月流火 九月授衣 春日載陽 有鳴倉庚
女執懿筐 遵彼微行 爰求柔桑 春日遲遲 采蘩祁祁
心傷悲 殆及公子同歸
   七月になれば移ろい星のアンタレス登場 九月になれば冬着の授与
    春の日には陽光が満ち 鶯の鳴声が聞こえて来る
     乙女は籠を手にし 彼の細き路沿いに歩む
      柔らかな桑の葉を選んでは摘み
       春の日はのったり流れ 蓬摘はゆるゆると進む
        乙女の心には悲しき傷みが満ちてくる
         帰らねばならぬ公子と一緒に行きたい気分

七月流火 八月萑葦 蠶月條桑 取彼斧斨 以伐遠揚 猗彼女桑
七月鳴
八月載績 載玄載黃 朱孔陽 為公子
   七月は移ろい星のアンタレス 八月は蘆伐採
    蚕の月は桑繁茂 彼の斧を手に取って
     遠き枝を伐採すれば 彼の桑の若樹は益々伸びて行く
      七月の鳴き声は百舌鳥 八月は糸紡ぎ
       黒や黄色に糸を染め 我は陽に映える朱色染にご執心
        もちろん それは 公子が纏う裳に

四月秀葽 五月鳴 八月其穫 十月隕蘀
一之日于
取彼狐貍公子
二之日其同 載纘武功 言

    四月に愛でるのは葽の花 五月に聴くのは蝉の声
     八月は稲禾収穫 十月は庭木剪定
      一月の吉日には狩猟祭 彼の狐狩狸狩
       もちろん それは 公子が纏う革衣に
        二月の吉日には全員揃って 集団お稽古
         小物は私的に 大物は公子に奉げよう

五月斯螽動股 六月莎雞振羽 七月在野 八月在宇
九月在戶 十月
蟋蟀入我牀下 穹窒熏 塞向墐戶
我婦子 曰為改歲 入此室處
    五月にはキリギリスが脚を動かし 六月にはハタオリが翅を振るわす
     七月には野にいたが 八月には軒下に
      九月には戸口に来て 十月にはキリギリスは我の寝床下に入る
       窓や穴を掃除し鼠を燻煙攻め 寒風入る窓は被覆し網は土で埋める
        嗚呼 なんとも 我が妻よ ついに日は歳を改める侯に入ってしまった
         此の部屋に入って睦合って過ごそう

六月食鬱及薁 七月亨葵及菽 八月棗棗 十月穫稻
為此春酒 以介眉壽
七月食瓜 八月斷壺 九月叔苴 采荼薪樗
我農夫
    六月の食べ物は鬱スモモから薁ヤマブドウ 七月の料理はアオイと大豆
     八月にはナツメをもぎ取り 十月には稲の収穫
      これを以て春の酒が造られ それによって長寿祈念ができる
       七月にはウリを食べ 八月にはヒョウタンを切る
        九月には小豆や麻の実 さらに苦菜を採り 雑木を薪にす
         こうして 我が農夫をたべさせている

九月築場圃 十月納禾稼 黍稷重穋 禾麻菽麥
我農夫 我稼既同 上入執
晝爾于茅 宵爾索綯 亟其乘屋 其始播百穀

    九月には脱穀圃場を築き 十月には禾類の秀穀を納める
     糯黍 粳黍 二期作稲 陸稲 麻 小豆 麦
      嗚呼 ついに 我が農夫よ 皆で行う収穫完了
       しかして 宮に入っての作業
        昼間は茅刈 宵は縄綯で 其の屋根で急遽茅葺
         それあって 百穀の播種が始まる

二之日鑿冰沖沖 三之日納于凌陰 四之日其蚤 獻祭韭
九月肅霜 十月滌場 朋酒斯饗 曰殺
羔羊
躋彼
公堂 稱彼兕觥 萬壽無疆
   二月の日々は沖々として氷削り 三月の日々は氷室に納入 四月の日々は早朝開削
    祭祀で捧げるのは 子羊と韭
     九月には粛々として霜が降り 十月には圃場のお清め
      朋を呼び集めて饗宴 子羊を殺すことに
       彼の公堂にのぼり 彼の儀礼杯を持ち挙げ
        極まりなき長寿あれ と祈願

「七月」は、"農歴"と"公子"目線の題材に絞られている歌謡。叙事詩的表現なら、事績、あるいは、"地"(山河)を寿ぐ内容や、神への尊崇的表現が豊富な筈だが、その雰囲気を欠く。古代農村の農事的祭礼歌と言っても、信仰面は薄く、政治的な意味合いが強いと言ってよさそう。
豳詩の役割は、1に宮廷節会での儀礼樂歌ではあるものの、農事に当たっても用いられていたから、当然ではあるものの。
  龠章:掌土鼓 豳龠
  中春 晝擊土鼓 吹"豳"詩 以逆暑 中秋 夜迎寒 亦如之
  凡國祈年於田祖 吹"豳"雅 擊土鼓 以樂田o
  國祭蠟 則吹"豳"頌 擊土鼓 以息老物
 [「周禮」春官宗伯 龠章之職]
これを踏まえると、「七月」とは、豊かな地に封ぜられた公子の、いわば植民地での生活を寿ぐための政治的歌謡ということになる。その公子の為に建てられた公堂で豳の族長が「七月」歌謡を奉納したのだろう。
・・・公子ご帰朝が決まり、別れを惜しむ宴が開かれたのでは。
・・・謳歌主体が交代するように構成された、公子(周王朝王族)を寿ぐ、8つの詩のオムニバス形式と見た。大胆に推定すれば、豳国高官が順繰りに登場し、〆として、その族長 豳国王が、公館で、宗主国周の公子の長命祈念で寿ぐ形式。正装した長官総員出席の宴で歌謡官が奉納する演出だろう。{①国務全般→②公子豳国妃→③蚕糸[神官]→④軍&狩猟祭祀→⑤施設(保全)→⑥糧酒(マネジメント)→⑦宰相(財務管理)→⑧豳族領袖(祭祀王)/公子不在時代理}
要するに、豳国は周を宗主国とする、軍事同盟国家。公子帰朝ということは、周王朝の継承問題勃発か、外勢圧力高まりによる軍事力の相対的弱体化を意味しよう。どちらにせよ同盟機能が果たせなくなってきたことを意味していそう。歴史的に見れば、それは一時的なものではなく、趨勢そのもの。
  
     

 (C) 2025 RandDManagement.com  →HOME