■■■ 「說文解字」卷一〜巻十四を眺める[四方]  ■■■
「說文解字」は五行観に満ちた構成で編纂されているにもかかわらず、四方については、当時の社会的通念に沿った記述を意図的に回避している。
おそらく、後付けの理屈の美辞麗句的なもので、文字宇宙秩序とは無縁の形而上的な表現でしかないと見なしたのだろう。
---「淮南子」≪天文訓≫---
東方 木也 其帝太皡 其佐句芒 執規而治
  其神為歲星 其獸蒼龍 其音角 其日甲乙
南方 火也 其帝炎帝 其佐朱明 執衡而治
  其神為熒惑 其獸朱鳥 其音徵 其日丙丁
中央 土也 其帝黃帝 其佐後土 執繩而制四方
 其神為鎮星 其獸黃龍 其音宮 其日戊己
西方 金也 其帝少昊 其佐玄冥 執權而治
  其神為太白 其獸白虎 其音商 其日庚辛
北方 水也 其帝顓頊 其佐玄冥 執權而治
  其神為辰星 其獸玄武 其音羽 其日壬癸
年間の暦上時間的区分でしかない季節という概念と、地理的方角という存在概念を同一視することはできなかったことになろう。
字体から見て、東西南北と水金火木土で関連しそうなのは"木"⇔"東"以外に考えにくいから当然のこと。さらに、駄目押し的に、東方を、即、木主春とみなさず、一般人には意味が理解し難い字義である"動"としている。(当たり前だが、太平洋側温帯的モンスーン帯の草木と、揚子江以南のほとんど熱帯雨林や、極北のタイガという違いを、木と火の文字で象徴させるのは止めた方がよかろうとの主張でもあろう。比喩にもならないとの判定。)
太安万侶これには大拍手ではなかろうか。・・・
𣎵:艸木至南方 有枝任[𣎵+𢆉]
:動[木 官溥說 日在木中]
:𦮃[二人相背]
西:鳥在巢上[象形]日在西方而鳥棲 故因以爲東西之西

だからと云って、通俗的な四方観を否定している訳ではないから、そこらは、十分に理解しておく必要があろう。これは一種の風土論であり、表現の美学もあるが、古代の科学思想に則っている普遍的見方と見なすこともできるからだ。
  

---「史記」≪五帝本紀≫---
東至于 海 登丸山 及 岱宗
 西至于 空桐 登雞頭
  南至于 江 登熊 湘
   北逐 葷粥 合符釜山 而 邑于涿鹿之阿
北至于 幽陵
 南至于 交阯
  西至于 流沙
   東至于 蟠木
敬道日出 便程東作
 申命羲叔 居南交
  申命和仲 居西土 曰昧谷
   申命和叔 居北方 曰幽都
二月 東巡狩
 五月 南巡狩
  八月 西巡狩
   十一月 北巡狩
北狄
 南蠻
  西戎
   東夷
西至 空桐
 北過 涿鹿
  東漸於 海
   南浮 江淮

---「史記」≪天官書≫---
曰東方 木 主春 日甲乙
曰西方 秋     日庚辛 主殺
曰南方 火 主夏 日丙丁
 北方 水 太隂之精 主冬 曰壬癸

     

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