■■■ 「說文解字」 卷一 を眺める[4] ■■■
"王"の≪小篆≫の字形は横棒3本と縦の1本直線からなる非常に整った形である。
従って、"三"の系統と解説されれば、当然の見方となろう。漢字語源についての書ではよくある打ち手。通俗的には、例えば、上下2本の横棒が象徴する天と地の間で差配することを意味するといった調子で語られることになる。(五万とある思い付き的面白語源解説。尚、検索便宜性重視の現代部首では、三は一に所属。書の構造論では、筆順から王は一+土[丄]とされることが多い。)

ところが、巻一での"王"の扱いはそれに似た印象を与える。エンタテインメントの書ではなく文字宇宙の秩序性を語る思想書であるにもかかわらず。

しかも、この文字を≪天と地の間で差配≫と見なすこと自体が非常に奇異なのである。
と云うのは、「說文解字」が尊崇の念を抱く≪古文(秦朝が採択していない文字という定義でしかなく曖昧。)≫の字形(@漢代設定文字)は、遍く、基底部が直線ではないからだ。上部が長い横一直線と見ることも難しい。
これでは、どう考えても、≪金文≫で示されている様に、王権の象徴たる鉞/斧の象形文字と考えるのが自然。

このことは、そう考えてはいけないと、ここで釘を刺していることになろう。
この書では、あくまでも、儒教帝国としての文字秩序を定めているのであって、それに反する見方は邪魔物ということになる。レガリアのマサカリの象形という見方は捨て去れということになろう。フレームアップではなく、思想から来ているのである。
どうしてそこまで拘っているかと云えば、この文字こそ天子観念の卵だから。(帝国前史としては、先ずはオホキミありき。天帝から命を獲得し、地上に官僚統制国家を樹立することになる。)・・・

その文字"王"の確立こそが文字宇宙の臍と云うことになろう。

これは中華帝国の儒教論者としては正鵠。
字形観点での文字史とは、商朝文字(甲骨)⇒秦朝文字⇒漢朝文字⇒唐朝文字⇒元朝文字⇒明朝文字。文字とは、王権転換で強制的に統一化されて定着したと考えざるを得ないからだ。王の下にある官僚が文字宇宙の秩序を管理統制しているという明々白々たる事実を公言しているに過ぎないが。(民衆が文字を発明したという主張を見かけることがあるが、こうした事実を観たくない人々の情緒的言動と云えよう。流石に、度量衡も民衆が作ったとは言わないようだが。)
要するに、文字宇宙の秩序形成の見方を巻一で明確化しているわ点。
 ①一→②ニ→③三
   →④亖→⑤𠄡
    ではなく、
 ①一→②丄→③𥘅[=示]→④三
   →⑤王 玉[王+丶] [王+王][反彡] [≒王]
    なのだ。

「說文解字」が熟考の上に成立していると気付かされるのは、この構成もさることながら、"靈"が"玉"部首に所属している異常さ。この文字は"𩄇"と云うことになろう。「古事記」では、≪二靈爲群品之祖≫として登場してくる文字で、spiritsとは概念が違うのである。
そうそう、気という宇宙創成感覚についても文字も"三"の後続として設定されている点にも驚かされる。" 气"とは、氣の流れを意味する、"彡"の左右反転文字なのだ。

太安万侶も気を遣って文字を選んでいる。
"三": 177用例
 "弎": 非使用
"王": 392用例
"玉": 64用例
   "璵": 解御頸之璵 是其璵著器 婢不得離璵
        故璵任著 以進豐玉毘賣命 爾見其璵…唾入此璵
   "瑞": 連柯幷穗之瑞(序の漢文) 獻天津瑞以仕奉也
   "理": 246用例
   "珍": 種種珍寶 常設種種之珍味
   "玖": 45用例
   "璁": 八尺勾璁
   "珠": 17用例
   "靈": 二靈爲群品之祖(序の漢文) 欲報其靈
"玨": 非使用
   "班": 驛使班于四方
"气": 非使用
"士": 34用例
   "壯": 11用例
  


一丄示三王玉玨气士h屮艸蓐茻 

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