■■■ 「說文解字」 卷三 を眺める[7]  ■■■
巻三の部首系譜構造を取り上げる順番としては、先頭にしたかったが、かなり説明を要するので最後にした。単に、<䇂>の位置付けでしかないが、太安万侶は、おそらく感じ入った文字だろうということで。(写像字体無しだと系譜がわかりにくいので、加えた。)








奇妙。
"䇂"は、[立+|]にしか映らないが、その前段の"言・音"文字の写像での構成部品にはさらに"一"という横棒が入っている。それなら、ここは"䇂"ではなく、"𨐋"ではなかろうかと。
ところが、「說文解字」のこの文字については写像的標準字体を示していない。従って、実際にはなんとも言い難し。

さらに字体解釈[从干、二。二,古文上字。]からすれば、"𨐌"が登場しそうなもの。
要するに、この手の疑問は封印することになっている訳だ。(誤解を生みやすい表現なので、一言付け足しておこう。…現代漢和辞典的分類方針からすれば、"䇂・𨐋・𨐌"が同一グループなのは自明。その代表は䇂でも一向にかまわない。字体検索が主目的だから、この3文字に字義の違いがあったところで、些末な問題として片付けることになる。)

従って、ここらを議論したいなら、白川漢字学に触れておく必要がありそう。(「說文解字」成立の時代、すでに甲骨文字は忘却の彼方であるから、その様な見方ができる訳がないが、その感覚から無縁であると決めつける訳にもいかないので、そこらは注意を要する。勿論、白川漢字学が現代漢語世界で通説化されている訳でもない。)・・・「說文解字」説は五行配當言説に過ぎず、字形については意味無しと断言しており、この字体は"把手のある大きな直針 (入墨文身化の道具)"と見なしているからだ。
但し、注意しておくべきは、<䇂>について道具と言えたとしても、それに"一"加筆文字が類縁とは限らないという点。例えば、十干8番目"かのと"と関係があるとは思えないからだ。それに、「說文解字」説だと"𨐌"が元字にされかねないが、極めて考えにくい。一方、白川漢字学では"𬔖"となる。

この入墨説はことのほか重要。
太安万侶は、それに気付いていたと見るからだ。
驚くことではない。「說文解字」記載の字義が"辠"とされている以上、罪行を意味している文字であり、その理由は他に考えられまい。
儒教の中華帝国思想が基層である筈の「說文解字」で、それを大前提として眺めていても、ここらの字体系譜を見れば齟齬が見てとれ、愕然とさせられたと思う。罪行の入墨文字が突然繋がって来る以上、この箇所は、儒教以前の精神風土を示していると考えざるを得ないからだ。

ところが、それでフーンで終わらないところが太安万侶の凄さ。・・・天武天皇の口誦伝承記憶の刺青譚からすると、倭國の風土には、大陸のそうした古層感覚がママ残存と理解したからである。

勿論、罰としての話の方ではなく、初代天皇の正式婚姻譚での≪【伊須氣余理比賣】何故黥ける利目⇒【大久米命】吾が黥ける利目≫という歌。
「古事記」成立期には、すでに入墨は唾棄すべき未開人習慣とされていた筈にも拘わらず、よりもより、高貴譚で尊崇を高めるべき箇所に、黥をわざわざ挿入しているのだから、心に沁みることになろう。
ここらの感覚は唐代の書「酉陽雑俎」卷八 黥の執筆者と同じ。(奴婢に零落した百姓や罪人には入墨する社会のなかで、刺青美しの感情や、パンクの反抗精神を取り上げている。その様な書であるから大陸では消滅したが、移入した本邦では残存。) 
📖一物不知と黥@「酉陽雑俎」の面白さ

そうした感興をベースに、「說文解字」のここらの記載に従って「古事記」用字を進めていそう。
--部首<䇂>文字--
  童女 童男
  
 入墨していたとは思えないが、奴婢身分だろう。
--部首<丵[业+䇂]>文字--
 "業"[丵+巾]
    (開夢歌而相纂業)@序の漢文

 "對"[丵+寸]
  各對立 對立相挑 對立亦戰
--部首<菐[丵+廾]>文字--
 "僕"[人+菐]
  答白「僕者・・・」
 給事者の自称。下僕とは限らない。
 その風情で表現する場合の用語だろう。
 従って、倭語読みは、"やつこあれ"が妥当。

㗊舌干𧮫只㕯句丩古十卅言誩音䇂丵菐𠬞𠬜共異舁𦥑䢅爨革鬲䰜爪丮鬥又𠂇史支𦘒聿畫隶臤臣殳殺𠘧寸皮㼱攴教卜用爻㸚 

巻二 

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