■■■ 「說文解字」 卷十を眺める[8]  ■■■
騰の字義が傳とされていて大いに驚かされた。

基本はspring-up(躍)で、馬に拘ればgallop(馳)辺りと思っていたので、それとは次元が異なり過ぎる見方としか思えないからだ。しかも、マ、そう考える人々もいるが、といった断言的姿勢。(例えば、<天氣下降 地氣上騰>[「禮記」月令]のどこに"傳"的意味があるというのだろう。)

考えて解決するとはとうてい思えないが、伝だとすれば、イメージ的に合うのは、駅間伝令の超早馬とか、間髪入れずのrepeatと云ったところになるが、無理筋。

日本ではよく見かける大御所の決め打ちがなされるとは思えず、インパクトが強烈だったので、自由自在に思ったことを書いてみたくなった。馬部の騰を採り上げている訳ではないが。

部首と字体の解説で必ず登場するのが、月偏・肉月・舟月の話。

名称はともかく、「說文解字」を眺めれば、その存在に気付かない人はいまい。そこで、何故、そんな紛らわしいことをしてまで字体を変更する必要があったのかの話が続くかと期待してしまうが、残念ながらその手の解説に出会ったことがない。そのかわり、懇切丁寧に、実際には無視されている"表記規則によれば"、この3つは表記が異なっているとの懇切丁寧な説明がなされることが多い。小生など、すぐに5W1Hで、その規定が成立した様子を知りたくなるが、何も書いていない。
字体で云えば、拡大した下記になるが、この月偏字体は、普通に用いられていないフォント。従って、現実には、無視するのが最良の手と言ってよかろう。しかし、月と肉の区別をしたくなる場合もあるから、決め事に反して、⺼を肉に使うのが便利である。
月󠄁横棒右端は縦棒に接しない。🡄 [⺆+𠄠]
     ❼②月部・・・ all
横棒右端は縦棒に接する。🡄 [冂+仌]
     ❹⑥肉部・・・ all
横棒ではなく、斜め点。🡄 [丿+⺆+⺀+一]
     ❽⑤舟部・・・ 俞 朕

これを見れば、どうしても、気になる漢字が生まれてしまう。「說文解字」がそれを狙っているとは思えないが、反秦尚古主義の立場からすると部首にしたくはないだろうし、おそらく注意して扱っていると思う。・・・
【朕】[=𦩎/𦨶]
   [字義:我]…卬 吾 台 予 朕 身 甫 余 言 我也[「爾雅」釋詁]
丞相綰 御史大夫劫 廷尉斯等皆曰:
「昔者五帝地方千里 其外侯服夷服諸侯或朝或否 天子不能制
  今陛下興義兵 誅殘賊 平定天下
  海內為郡縣 法令由一統
  自上古以來未嘗有 五帝所不及
 臣等謹與博士議曰:
    "古有天皇 有地皇 有泰皇 泰皇最貴"
  臣等昧死上尊號 王為<泰皇>
  命為<制>
  令為<詔>
  
天子自稱曰<朕>」     [「史記」秦始皇本紀]

要するに、始皇帝によって字義が変えられたことになる。原義は我で、新義は皇帝自称。しかし、常識で考えて、朕という文字が造字の時から一般用語として我として使われていたとの説明を真にうける人などいまい。元義が別にあるのは自明。始皇帝も、朕使用をお勧めした官僚もそれを知っていたからこそ、新義とすることになったとしか思えまい。
「說文解字」は、それを踏まえて字義解説を行っていると考えてもよいだろう。
そうなると、そのセンスで<朕>文字を読むこともできないではない。当然ながら、誰が行おうとトンデモ読みになるが、それは社会的センスでの同一基盤上で想像することができなくなっているから。科挙受験予備校教育で金太郎飴化されている識字率0.1%未満の社会での話なら、この程度の推測などなんということもなかっただろう。(祭祀用の甲骨は、知識開放以前であり、特殊専門集団独占状態と考えられるから、これには当てはまらない。文字としては連続してはいるものの、そこに断絶が存在していることにも注意する必要があろう。)

ということで、・・・。
❸①言部[=𫂭]…竹簡に令を記載。
❹②目部…記念すべき踏み跡。
❻①木部…(織機用語)縦糸制御。
❻⑥貝部…酒池肉林的豊満な余剰。
❼③巾部…高貴性を示す匂い袋(囊)。
❿①馬部…発情した牡馬が走り回る。
❿⑤K部…高貴性を誇示する眉墨。
⓫①水部…溢れんばかりにほとばしる。
⓫③仌部𠗲/𣎎…特別な水屋。
⓭①糸部…乱れないように糸をとりつくる。
⓭②土部…農地縦断道路を強制的に造成。
⓭③蟲部…飢餓をもたらす毒龍(神蛇)。
⓭⑥力部[=𠢧]…船のロジスティックを背景とする武力で殲滅。
[非収載] 𠹻 㴨 㮳 𨃵 𨫇 𣞅
  


     

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