■■■ 「說文解字」巻十一を眺める[8]  ■■■
巻十一には、如何にも、俗説を承認したかの様にも映らないでもないが、よくできた系譜が記載されている。そう書くのは、余りに整い過ぎだから。
もっとも、そのお蔭で、通説化には成功を収めていそう。

"飛"⇒"非"。

ふ〜ん、成程と、読んだ途端に造字過程を覚えてしまう出来栄え。
凄いと思うのは、この文字、字義的には、どう調べても否定の用例しか存在していないのに、そこを全く気にせずに繋げているから。普通はこんなことなど俗説でも存在していない限りしそうにない。科挙予備校の漢字暗記の為ならいくらでもあり得そうだが、対象は常用文字で、そんな必要など全く無い。

解釈はいたってシンプル。
字義は<違>。字体は<飛下翄取其相背>。

飛ぶ鳥の相対する翼を表現していると説いているようだ。勿論、飛は象形そのものというのが大前提。その字義は<翥>とあるから、成程そういうことかとなろう。

ここは手がこんでいて、続く部首の解釈も読むと、<飛而羽不見>とある。飛ぶ鳥が羽を畳んで急降下の風景が頭に浮かぶから、ソリャそうだと、確信に至るのでは。
 卂[⺄+十]=迅   …e.g. 蝨=虱  訊[問]
ここ迄来て、よくできたお話と感じるか、流石と考えるかは、人による。(尚、鳥信仰を考えると、急降下ではなく、迅速な起飛に焦点があたる筈で、羽を閉じた姿が妥当とは言い難い。)

こうなると、何故に、否定用法しかなく、鳥の相反する翼の羽を暗示する文字が、扉に使われるのかも気になるところだが、戶扇とされている。鳥居と戸とは概念が異なるとはいえ、扇と傘は貴人を覆うための特別な用具であり、古代信仰の残渣を感じさせ、秀逸な解説。
  溪之東岸有石室三層 其戶牖扇扉 悉石也 蓋故關之候臺矣[「水經注」濕餘水]
  

     

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