■■■ 「說文解字」 卷十二を眺める[9]  ■■■
耳部の"聲"の字形は[耳+殸=声+殳(以杸殊人)]。
この文字は、現代では、簡体化された"声"を用いるのが普通。17画もあって面倒なので、ほぼ、新字しか使わなくなったのだろう。

その"声"だが、現代の部首分類では検索便宜上、士部に属すのが普通。一方、「說文解字」では、<餐 吞也 从食𣦼>としてこの文字が用いられているだけ。字義を説明解釈すると部首にせざるを得なくなるので収録しなかったようだ。

しかし、どう考えても、造字は声⇒聲で、逆では無かろう。

それに、注意すべきは、"声"と親和性がある文字。"聲"ではなく、"磬"(=樂石)。わざわざ、<殸 籒文磐>と記載している位なのだから。
つまり、石製音器を人が叩くことで発する空気振動を耳で感じることができる、という意味から生まれた文字であることを示唆している。聲=音との字義は、それを理解していたということになろう。換言すれば、"聲"の原義を、石器音ではなく、人あるいは神が発する音と考えたい訳だ。

このため、聲が原義との文字は多数にのぼってしまう。それぞれの文字の元義が微妙に違うのは一見してわかるにもかかわらず。
  聲:
         嗿:
         囂: (气出頭上)
         𠷓:
         譻:
         𧬨:
  音:
         響:
         哥: (謌謌[古文])
         僁:
         匈:

現代日本語では、音soundと声voiceはカテゴリーが異なっている様に思ってしまうが、元義としては両者にほとんど差はないとの見解が披歴されていることになろう。(「古事記」用例では、萬~之聲 下照比賣之哭聲であり、人や~の発する音が聞こえて来るという意味。)
2桁の数に達する多様な文字の原義がピッタリ同じなど、およそ考えられないが、「說文解字」は敢えてその道を選んだのである。
各文字で細かく解説したければ、簡単にできるにもかかわらず。マ、用字例を見れば自明ではあるものの。
  例えば、
  有嗿其饁@「詩經[載芟]」
  之子于苗 選徒囂囂@「詩經[車攻]」
  鳴玉鸞之譻譻@「後漢書」(⇒鳴玉鸞之啾啾@「楚辭」)
  其音匈匈@「呂氏春秋[明理]」

このことは、の元義はかなり広いと考えるべきとの主張を含んでいる。発生側と聴く側での違いや、樂(造字の見方は様々)や磬の概念の根底に音ありと睨んだ様なもの。

「說文解字」は実にコンセプチュアル。太安万侶クラスの頭脳でないと、1文字解説の順番の意味を理解することもできないかも。・・・
部首文字⇒
 最古標準化文字字体⇒
  部所属常用体文字⇒
   [読者推定]元義⇒
    公定化後字義(原義扱い)
     字形⇒
      字音(字体論であり、たいした意味なし。)
       [必要な場合]語義例@経典
  


𠃉不至西鹵鹽戶門耳𦣞手𠦬女毋民丿𠂆乁氏氐戈戉我亅珡乚亡匸匚曲甾瓦弓弜弦系 

│ 巻十一

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├┐ ├┬┬┬┬┐
②② ②②②②②②
燕龍 沝𡿨永谷雨魚
 ├┐
 ③③
 飛非
┌│┘
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│├┐ 巻十二
①①
𠃉不
│└──西

├┐
②②
門耳
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③③
𦣞手
┌┤
④④
𠦬女
┌┤
⑤⑤
毋民
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 ⑥ ⑥⑥⑥
 氏 丿𠂆乁
 │   │
   
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⑨⑨⑨
亅珡乚
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 ⑩⑩
 亡匸
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⑬⑬
弜弦
 └────────── ⇒巻十三
     

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