■■■ 「說文解字」 卷十二を眺める[10]  ■■■
巻十二までじっくり目を通すとようやくにして、漢字字体をどう見るべきかが、わかってくる仕掛け。
巻一で、コラム的に、草文字という誰でも知る題材で造字方法を確認してから読み進めて来ると、ここで一大転換点にさしかかることがわかる。
巻冒頭文字が布留っているからだ。この文字を知る人も、知らない人も、一様に違和感に襲われる筈である。造字で頭が固まっていると、乙の頭に装飾となるだろうし、線書きで見た印象のシンボル化に関心があったりすると、これは一体全体どの様に描こうとしているのか頭を悩ますに違いない。

しかし、忘れがちなのは、この文字は独特に見えるが、そうではなく、古層精神に則った超古代からの造字パターンそのものということ。
この文字は、強引に字体を統一されるという、漢字誕生期の姿を垣間見せてくれている上に、アンチ楷書えもある。

ここらは分かり難いが、現代の楷書漢字とは唐代官僚の発明したものであって、様々な筆記体やそれ以前の字体もその考え方で眺めてしまうからだ。
そして、おそらく、「說文解字」 の部首親字と楷書の連続性を確認できて大満足の態。確かに、ほとんどフォントデザインの違いに映るからそれはそれで間違いではない。
       
ここでの問題は画を自然に意識してしまう点。
どうしても、部品構成としての文字として見てしまう。部bb籍的であり、規格に則って文字を開削するという点では、官僚が意図した漢字誕生の原点に忠実であるが、その見方は唐代に始まったもの。(太安万侶は明らかに、それを理解しているが、現代人は知式として知ったところでその意味について考えることができなくなっている。<画数>感覚という眼鏡をかけているからである。裸眼で見てとれる人は稀有。)
要するに、 「說文解字」は画数感覚無しに字体系譜を作っているのだから、その感覚は現代とは相当に違うということ。(尚、現代感覚でのフォントと云うか、小各数文字の部品[字義・字音無しの純記号化]への分析的分割も、 「說文解字」の"漢字概念"構想を考える上では重要だと思うが、それは別稿。)

・・・この辺りが冒頭の文字提示と、その続編的に収録されている文字群で見えて来るのだから、この書籍の構想の凄さは只者ではない。

長くなったが、その文字は一画。
ここが肝要なところで、それなら、横棒や縦棒や〇の様な記号類似と思いがちだが、確実かつダイナミックな表現がなされている象形。
  𠃉 玄鳥
僅か1であり、30を越える画数の収録文字との対比が実に見事。
  麤 鱻[11x3] 𪚁[15+17] 龖[16x2] 驫[10x3]
   (フォント化されている現代の最多画は、䨺[36]と龘[48]の合字国字[84]。)
おそらく初見だと、2画で、上の直線部分と下の曲線部分に分割するか、乙の上部に装飾となるだろう。現代の漢字としては、どちらだろうが正解とすべき見方。1画とすればほぼ落第だが、「說文解字」によれば意味を燕とせざるを得ないるので、そうもいかないというだけ。しかし検索を考えると、−1画の乙部文字として位置づけるのが便利そう。

ともあれ、「說文解字」の字義解説は優れもの。燕信仰(西洋的に言えばコウノトリ。)であることを言い切っているようなものだからだ。これこそ、文字の元義。勿論、文字の原義はツバメ。426燕の同義異字。(尚、産卵育児期のみ渡来する燕の飛跡を描いているのだから、字形が定まる筈がない。殷王朝が規格化したと思われるが、鳥類文字ではない。二画にするなどもっての他。)

要するに、「說文解字」 は、鳥の足跡が漢字発祥の根源という説に忠実であって、楷書化とは実用性向上のための記号表示化以上ではないとの考え方。形而上も形而下の区別に意味はなく、すべては王権を支える人々が共有している心象風景を方形の一桝に描いた象徴ということ。

一画文字は、現代人でなくとも、強い印象を与えるので、十二巻はそれを利用してここらの考え方を説明していることに精力を注いだと見ることもできよう。・・・
【部首】

001一 ・・・<いち>
010丨 ・・・<(たて)ぼう>

023凵 ・・・楷書は2画。

171𠙴 ・・・楷書は2画。
174 & ㇀ ・・・<てん>

413𡿨 (or ㇛)

431𠃉
446丿 (or ㇓) ・・・<はらい(ぼう)>
447𠂆
448(or 乀) ・・・(ながれ)
454亅 ・・・<はね(ぼう)>
456(or レ) ・・・(おつにょう)

514乙  ・・・<おつ>
  乛
【符号】
  ⚊
  〇
【要素】
  ㇕ ㇗ ㇘ ㇄
  ㇈ ㇅ ㇊
  ㇉ ㇞
  ㇅ ㇍ ㇎ ㇌
(現代日本国語は康熙字典の6部首らしいが、部品構造で論理的に分類したいなら、一画は無しで全て部品とするか、縦横点曲の4、あるいは、横棒右端下がりを加えた5が妥当ではあるまいか。)

どの収録部首も、明確な概念を有しており、それは形而上から来る記号的な感覚とは程遠く、その時代の観念に基づいたもの。<造分天地>と<玄鳥>に質的な違い無しと見るべきだと思う。後者を象形と呼ぶなら、前者も該当する。
 一 造分天地
 h 上下通
 凵 張口
 𠙴 柳製飯器
 丶 有所絶止(峯墜石)
 𡿨 水小流
 𠃉 玄鳥
 丿 左引右戾
 𠂆 抴引
 乁 流
 亅 鉤逆
 乚 𨒅曲隱蔽
 乙 春艸木冤曲而出(艸木の盛衰サイクルが十干。)
  


𠃉不至西鹵鹽戶門耳𦣞手𠦬女毋民丿𠂆乁氏氐戈戉我亅珡乚亡匸匚曲甾瓦弓弜弦系 

│ 巻十一

├──┐
├┐ ├┬┬┬┬┐
②② ②②②②②②
燕龍 沝𡿨永谷雨魚
 ├┐
 ③③
 飛非
┌│┘
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│├┐ 巻十二
①①
𠃉不
│└──西

├┐
②②
門耳
┌┤
③③
𦣞手
┌┤
④④
𠦬女
┌┤
⑤⑤
毋民
 ├─┬┬┐
 ⑥ ⑥⑥⑥
 氏 丿𠂆乁
 │   │
   
┌───────┘
├┬┐
⑨⑨⑨
亅珡乚
 ┌┤
 ⑩⑩
 亡匸
┌─┘

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├┐
⑬⑬
弜弦
 └────────── ⇒巻十三
     

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